ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

引く手あまた

一緒に仕事をしたことのある人がKEKを辞めるということを学びました。ショックです。力強いサポートをしてもらい個人的に大いに助かったし,よくできる人だなぁ,と思っていたのですが...残念です。デキる人は引く手あまたなんですよね。企業だったら,そういう人に残ってもらうために給料をどーんと増額するのでしょうが(できるのかな?),公務員給与体系のKEKでは無理みたいです。というか,給与体系云々の前に,慰留してもらえるだけの財源もないんでしょうけど。

これからもっと一緒に仕事したかったので,本当に残念です。

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Multiverseと宇宙項問題

理論屋のKさんが色々なところで最近安定な宇宙がたくさんあってもいいことが示された,というような怪しげな(面白そうな)ことを言ってるので,そもそもmultiverseってどういうことなん?レビューの論文でもあったら教えて,と頼んだところ,素人が読んでも考え方はなんとなくわかる易しいレビュー論文を紹介してくれました。と言っても,このやりとり自体だいぶ前の話で,その論文をプリントアウトはしたもののまだ読んでいませんでした。

先週の土曜は高エネルギー委員会に特別招待され,HL-LHCの現状を話してきました。いつも通りICEPPでの開催だったので,その往復の電車の中で紹介してもらった論文を読んでみました。そもそも異なる真空のエネルギーを持つ複数の宇宙が存在するという考えかたは古くからありましたが,宇宙が存在すると言った場合,安定した宇宙になるためには真空のエネルギーが極小値を持たなければなりません。つまり,複数の宇宙が安定して存在するためには,それぞれの宇宙の真空のエネルギーが極小値を持たなければなりませんが,超弦理論だとどうもそれを実現できるらしくて,宇宙というのは私たちが住んでる宇宙だけじゃなくて,別の真空のエネルギーを持った宇宙がたーくさんあるんだ,という考え方をlandscapeと言うようです。たーくんさんの数が半端ではなく,10の500乗とか,あるのだそうです。10の50乗でも想像できなくらいの数の大きさですが,10の500乗って。。

multiverseという考え方はもともと宇宙項問題を人間原理によって解決(?)しようとしたものらしいのですが,宇宙が10の500乗個あっていいと言われたら,確かに,宇宙項が不自然な値だったとしてもまあ仕方ないかな,とは思ってしまいます。いや,もちろん,宇宙がそんなにたくさんあると言われても俄かには実感はわきませんけど。

ついでに,宇宙項って理論と計算で120桁も違うという話を世間でよく聞きますよね。今回読んだ論文とは関係ありませんが,その内容を理解するためにウェブサーフィンしてたら,120桁違うというのは,ナイーブすぎる計算結果みたいですね。よく言われてるのは,調和振動子みたいなのを考えて,基底状態のエネルギーを足し上げるという計算です。普通は基底状態を真空と思って,そこからの変化だけが観測できるので,基底状態の定数項は無視しろと量子力学で教わりますが,真空のエネルギーを考えるときはその基底状態のエネルギーをカットオフまで足しあげます。というか,それがナイーブな計算だと私は聞いていました。けど,手でカットオフを入れるのはローテンツ対称性を破るので正しくなくて,正しくは次元正則化という方法で計算するんだそうです。で,さらにくりこみなど私にはよく理解できない計算を正しくやると,通常言われてるカットオフの4乗ではなく,粒子の質量の4乗に比例する量になるのだそうです。

通常カットオフをプランクスケールにとるので真空のエネルギーは膨大になりますが,対象とする粒子の質量の4乗だったら,そこまでは大きくなりません。もしSUSYが存在すれば,SUSY粒子の質量の4乗ですし,標準模型の枠内だとオーダー10^9(GeV)^4くらいだそうです。でも,まあ,プランクスケールの4乗つまり10の73乗に比べると10の64乗も改善したとはいえ,それでも観測値とはまだ10の60乗前後も離れていますから,宇宙項問題の本質に関わる話ではありません。ただ,よく10の120乗も観測と離れていると宣伝されているので,本当は違うということを知ってへーっと思った次第です。

いや,しかし...安定な宇宙が10の500乗個もあるんでしょうか。驚きです。でももしそうだと,というか,その考え方を受け入れてしまうと,世間でよく言う「不自然さ」による議論ってほとんど意味がなくなります。Fine-tuningなんてあっても全然不思議ではなくなってしまいます。将来,研究がどういう方向に進むのかはわかりませんが,もし人間原理的なmultiverseという考え方が主流になったら,不自然さを解決するための理論的な考え方は意味がなくなり,観測というか実験によって理論的に説明できていないことしか研究としての対象にならなくなるのかもしれません。ただ,現状,ダークマターやダークエネルギー,物質優勢宇宙の謎,など,標準模型だけでは理解できない現象がありますから,すぐに素粒子物理学の研究対象がなくなることはなさそうです。不自然さを突き詰めて,新たな発見に繋がってきたのも人類の歴史ですし。

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Belle2の宣伝

コメントに宣伝があったので,拡散しておきます。

7月1日に秋葉原でBelle2大学院合同説明会があります。
http://belle.kek.jp/b2j/briefing/
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SuperKEKB式典と総研大説明会

一昨日は,SuperKEKB初衝突の記念式典がありました。KEKワイドで大々的にやったもので,FermilabやDESYの所長,CERNからはFabiolaは来なかったけど,物理部門のトップのEckhardと理事会議長のSijbrandが来るなど,この業界の偉い人がたくさん集まりました。加えて,SuperKEKBに参加してる国の大使か領事のような立場の人も来て,華やかな(?)会が催されました。それはさておき,私には直接関係がないので招待状は当然来ないのですが,CERN関係者2人の接待役としてアサインされてしまい,ホテルの手配,彼らがどうやってKEKに来るかの説明,その他のロジスティクスの手配をなぜかやりました。そのおかげで式典に参加したものの,お偉いさんには知り合いはいないし,物理屋で来てるのはBelle関係者ばかりで,アウェー感がひしひしと伝わって来ました。でもまあ,SuperKEKBが順調に動き出したことは,当事者ではありませんが,めでたいことですね。あとはピクセル検出器がちゃんと入るかどうか,ですね。

もう一つ別件。7月3日(火)にKEKのつくばキャンパスで総研大の大学院入試説明会があります。興味がある人は是非。って,このブログを読んでる大学4年生がいるのかどうかわかりませんが,そうではない人は,周囲の方に宣伝をお願いします。ATLASのポスター説明を行います。そのために,Hくんには,ATLAS Week終了後すぐにCERNに戻らずに,KEKにしばらくいるようにお願いしてあります。

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ttHプレスリリース

今更ながらの話ですが,CERNおよびATLASでは6月4日にttH発見のプレスリリースを行いました。それから遅れること3日間,ATLAS日本グループでも7日に日本の報道機関に向けてプレス発表しました。が,3日間のタイムラグは大きく,CERNですでにリリースされている内容を3日遅れでは記事にできないと,記者さんにはお叱りを受けました。全くごもっともな話で,メディアとしては鮮度が命ですから,そんなに遅れてはニュースにできません。。それでも,CERNのリリース内容をもとに一社に記事にしてもらったのはラッキーでした。

今回CERNのリリースと足並みを揃えて国内発表できなかったのは,CERNのリリース内容が定まるのが遅かったことに尽きます(なんでそんなに遅くなったかは書くのやめておきます)。通常は,解禁日の何日も前から発表内容は定まっていて,それをもとに日本側でもリリースを準備します。研究者による確認だけでなく,KEKや大学などプレスを投げ込む機関の広報が確認調整をするのでこれに結構時間がかかる上,KEKではリリース内容をすべて文科省にお伺いを立てるというしきたりがあり,これにも時間がかかります。記者さんをはじめ,私が接する広報関係の人々もなんでそんな時間のかかることをするのかと訝るのですが,色々事情があって,この時間のかかるプロセスを経なければなりません,少なくとも今の所。というわけで,CERNの発表内容をもとに日本のリリース内容を決め,各所でのチェックを経ると,最速でも木曜のリリースが精一杯でした。

本題に戻ると,リリース内容はこれです。仕事の早い素核研広報のNさんがばんばん記事を書いてくれて,ttHのプレスリリースのことだけでなく,ATLASのcollaboration Weekのことについても,素核研の記事にほぼリアルタイムでなっています。彼は相談をもちかけると,ガンガン手伝ってくれるので本当に頼りにしています。

また脱線してしまいましたが,そうです,ttHの有意度が5σを超えました。それでプレスリリースとなったわけですが,私個人的には,マルチレプトンの終状態をttH探索に使うのは論理矛盾してると思っています。このブログで以前も書いたことありますが,ttHを探すということは標準模型を仮定してはいけないはずで,となると,トップクォーク対とたくさんのレプトンがある事象を見つけただけでは,トップクォークと結合する未知の粒子がマルチレプトンに崩壊している可能性を棄却できません。トップクォーク対と同時にヒッグスが生成されていることを積極的に同定して初めてトップ湯川の発見だと思うのです。そういう意味で,今回はttH(→γγ)がはっきりと見えているのはエポックメーキングだと思っています。単独での有意度は3σちょいですが,これのほうがよっぽどttHという感じがします。

ttHの発見は,LHCのヒッグスプログラムの中で極めて重要なマイルストーンです。ボトム湯川は有意度的には微妙ですが,mass peakがそれなりに見えていることから,私の脳内ニューラルネットワークでは信号があるように見えています。加えてτ湯川も見えていることから,第3世代の湯川をコンプリートした感があります。この成果は当初の想定よりもかなり早いもので,LHCが極めて順調で高いルミノシティを出していること,そして,その高いルミノシティにもかかわらずほぼデッドタイムフリーで検出器を運用できていること,が大きく効いています。機械学習など解析手法の改善も重要なのですが,加速器と検出器の性能が重要なんだということを若い人にはぜひ実感してもらいたいです。

ここまで来ると,ヒッグスの物理としては第2世代が次の大きな目標になります。μは統計勝負ですが,チャームはなにか新しいアイデアが不可欠です。ここら当たりこそ機械学習の出番なのかもしれません。それから,個人的に気になっているのは,トップ湯川が少し大きくないか,ということです。ttHだけじゃなく,inclusiveな解析でgluon fusionを見てもなんとなく大きい気がします。もちろんグローバルフィットをすると標準模型と誤差の範囲で一致しているので全然有意ではないのですが,脳内ニューラルネットワークでは,なんとなく大きいような気がして気になっています。ttHだけじゃなく,これから色々な生成,崩壊モードで精度を上げていく楽しみになります。

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