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ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

Fermilabでのニュース

先週の月曜だか火曜に、FermlabのCDF実験グループが怪しい現象(=新粒子っぽいもの)を発見したという結果を公表し、私たちの間ではちょっとした話題になっていました。が、あまりに結果が怪しく、論文もちらっと眺めては見ましたが、背景事象のふらつきとしか解釈できず、こんなものを特別セミナーまでやって宣伝するのか…という感想を持っていました。

その後、何人かの人にも尋ねられ、なんでこんなに話題になっているのかと訝っていましたが、朝日新聞(?)がこの話題を取り上げていたのですね。いいか悪いかは別としてせっかく話題になっているので、少しだけ解説してみます。

すごく単純に言うと、彼らはW粒子の生成される事象中に新粒子らしきもの(?)を発見したと言っています。Wが生成されるときにその粒子が生成されるというのは、Wとの結合がある、ということを意味しています。さらに、その新粒子はjet2つで組んだ不変質量分布にピークを作っているという主張なので、2個のクォークに崩壊しているということを意味しています。また、そのピークの位置は150GeV前後、すなわち謎の粒子の崩壊による事象だとすると、その粒子の質量は150GeV前後ということを意味しています。

しかし…です。Wとの結合はあるのにZとの結合はないのです。つまりZ+jet事象中にはそのような共鳴のピークがありません。さらに、共鳴状態らしきものを作っているjetのフレーバーの割合、bクォークが多いか少ないか、というのも背景事象と変わりありません。まず疑う、というか期待するのはヒッグスですが、標準理論の枠内では全く説明がつきません。150GeVという質量だとクォーク対に崩壊する確率は低く、もしクォーク対に崩壊するとしたらbクォーク対の割合が多くなければなりませんが、今回の観測は、予言される確率よりも断然多く、bクォークも増えていないということで全く説明がつきません。標準理論を超対称性を入れて拡張しても、この辺の事情はあまり変わらず、ヒッグスという可能性は非常に小さいです。

では、こんな現象を説明する標準理論枠外のモデルがあるというと、それもありません。Wには結合するが、Zには結合しないなんていうものはちょっと考えられないのです。しかも、レプトン対には崩壊せず、クォーク対にだけ崩壊する、という制限まで加わり、何か怪しい現象が観測されると現象論の理論屋さんはそれを説明するモデルをすぐに論文投稿したりしますが、今回はそういう動きもほとんどありません。

さらに実験的には、CDF実験と同じFermilabのテバトロン加速器で実験を同様の実験を行っているDzero実験では、そういう現象を観測していません。また、テバトロンで生成できる粒子ならLHCでも生成できるはずですが、少なくともATLASグループ内ではそういう謎の共鳴があったという話は出てきていません。

という幾つかの事実から、私も含めて、普通の人は背景事象のふらつきだろうな、と解釈します。もちろん、私たち人類がまだ知らない現象が起こったのを捉えた、のかもしれませんが、そう考えている人は極めて少ない、という状況です。

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この記事のコメント

今回の結果、なんとなく微妙なところもありそうで、今後の進展が楽しみなのですが、、、

質問してもよろしいでしょうか? 専門家ではないので、できればお手柔らかに教えて頂ければと思います。

ハドロンコライダーの解析の詳細をあまり勉強したことがありませんので、教えて頂ければと思うのですが、最後の結論になっているMjj分布の図は、シミュレーションでdiboson生成以外を寄与を求めて、それをデータから引いたものということでよかったのでしょうか?
そうだとすると、結構、大きなバックグラウンドを引かなければならないんですね? こういうときでも、あのくらいのExcessがあれば、flavor contentsは分かるものなのでしょうか?

あと、ヒッグスの質量が150GeV/c^2くらいだと、H→WWと比べても、まだH→bbが大きいか、同じくらいだったように記憶しているのですが、別に分岐比の大きなモードがあるのでしょうか?

「Zとの結合はない」とおっしゃっていますが、今回の発表では触れられていないようでしたが、他の解析結果を見れば分かるのでしょうか?

すみませんが、よろしくお願いします。
2011-04-11 Mon 03:13 | URL | IK [ 編集]
> 最後の結論になっているMjj分布の図は、シミュレーションでdiboson生成以外を寄与を求めて、それをデータから引いたものということでよかったのでしょうか?

データから、Diboson以外のバックグラウンドの寄与を引いた図です。

> そうだとすると、結構、大きなバックグラウンドを引かなければならないんですね? こういうときでも、あのくらいのExcessがあれば、flavor contentsは分かるものなのでしょうか?

変な粒子がもしbb対に崩壊してるとしたら、これだけ統計があれば、
ピークを作っている部分と、その横でflavor compositionの違いは
見えるでしょう。

> あと、ヒッグスの質量が150GeV/c^2くらいだと、H→WWと比べても、まだH→bbが大きいか、同じくらいだったように記憶しているのですが、別に分岐比の大きなモードがあるのでしょうか?

ヒッグスだけの崩壊比は130GeVか140GeV程度でH->WWのほうが
大きくなります。実際に観測する数は、それに生成断面積(WH生成と
H単体の生成断面積は違う)とWの崩壊比がかかり、さらに、検出効率が
かかります。150GeVでの感度はH->WW(->l nu, l nu)のほうが圧倒的に
高いです。

> 「Zとの結合はない」とおっしゃっていますが、今回の発表では触れられていないようでしたが、他の解析結果を見れば分かるのでしょうか?

論文にはZ+jetにはenhanceがないと書いてあります。
2011-04-11 Mon 10:47 | URL | ExtraDimension [ 編集]
わかりました。どうもありがとうございます。
2011-04-12 Tue 01:07 | URL | IK [ 編集]

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