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ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

β+崩壊で思うこと(2)

さて続きです。

前のエントリーで説明したのは、原子核中の陽子と中性子の質量とエネルギーです。ではこれを陽子、あるいは中性子を作っているクォークにあてはめて考えてみます。陽子はuud、中性子はuddで構成されていますが、uクォーク、dクォークの質量はそれぞれ3MeV、6MeV程度しかありません(正確な質量は不明)。つまり1000MeV前後の陽子・中性子に比べてクォークの質量を足しても10MeV前後、すなわち1%程度にしかなりません。残りの99%は強い力によるクォークを束縛しているエネルギーに依って生じています。ヒッグス粒子を説明する時に、質量の源みたいな説明をよくする人いますが(いや、私もそう説明しますが)、その質量って物質の質量の1%にしか寄与していません。

……なんてことはこの業界の人には常識ですが、マスコミ報道とかを読んだだけでは、自分を構成する全ての分子・原子の質量をヒッグスが担っているかのようで、どっかで一度書いておきたいテーマでした。

おっと、ヒッグスを探している私がヒッグスなんて大したことないよ、と書いてると受け取らないで下さい。質量の1%にしか寄与していないヒッグスですが、本当はもっと大仕事をしています。

ではもしヒッグスが存在しなかったら宇宙がどうなっていたか考えてみましょう。と言いつつ、流石に書くの疲れてきたので、超簡単に書くと、もしヒッグスが存在しないと当然uクォークもdクォークも質量ゼロです。ですが、陽子と中性子は強い力による束縛力でやはり今と同じくらいの質量を持ちます。ただし、uクォークのほうが電荷(の絶対値)が大きいので(uクォークは電荷2/3、dクォークは電荷-1/3)、電磁気力による束縛力が陽子の方により大きく働き、陽子の方が中性子よりも質量が大きくなります。さらにβ崩壊の速度が今より数千倍速くなります。

これだけ書いて何が起こるかすぐにわかった方(ただし専門家は除く)は鋭いです。そう、先ほど説明したように崩壊は、重い粒子から軽い粒子に起こります。ヒッグスがない世界では陽子のほうが重いので、陽子が中性子に崩壊するのです。しかも今の中性子崩壊の速度の数千倍の速度で。
……陽子がどんどん崩壊してなくなる世界を想像してみて下さい。陽子が安定じゃないんですよ。水作れません。というか、不安定な陽子と、質量ゼロの電子で水素を作れるんでしょうか?ちょっとだけ専門的になって申しわけありませんが、水素の原子核の周りに存在する電子の軌道の半径というのが電子の質量の逆数に比例します。なので、質量ゼロの電子だと軌道の半径が無限大になってしまいます。

ということで、偉そうに説明を続けてきた私ですが、ヒッグスが存在しない世界、宇宙がどんなものになるのか想像つきません。ただすぐにわかるのは、私たちのこの宇宙がいまある宇宙なのは、ヒッグスが存在しているから、あるいはヒッグス粒子は存在していなくても、ヒッグス粒子が果たす役割を別のメカニズムが担っているからなのです。

私がヒッグスを探しているのは、ヒッグスが素粒子の標準理論で予言されているにもかかわらず唯一発見されていない粒子だから、ではありません。標準理論がどうこうではなく、今の宇宙が今の宇宙である理由の1つなんですから、素粒子物理学者だけでなくもっと多くの人が興味を持っていいテーマだと思うのですが…、やっぱり素粒子物理学者の戯言ですかね。


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