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ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

β+崩壊で思うこと(1)

今日は毎週行われている研究室のミーティングがありました。事務連絡以外にスタッフ・学生全員が交代で何か発表します。自分の研究内容の経過報告だったり、面白そうな論文紹介だったりします。

今回は学生が医療用PET(positron emission tomography の略)に使われる検出器開発の論文を紹介しました。PETを簡単に説明すると、まず、陽電子を放射する放射性同位元素を含んだ(正しい表現ではないですね。何と書いていいのかわかりません。)薬剤を体内に入れます。すると放出された陽電子が体内の細胞を構成する分子、というか原子に存在する電子と衝突し、ガンマ線と呼ばれる粒子(=光子)が2個放出されます。この2個のガンマ線はお互いに反対向きに放出されます。この放出されたガンマ線の位置を検出することで(=反対向きに出た2個のガンマ線を検出するのでガンマ線の飛来方向もわかります)放射性同位元素の場所を特定するわけです。

ここで私が気になったのは陽電子を放出する放射線源です。

まずβ(ベータ)崩壊というものを説明します。原子核レベルで見ると、弱い力が働くことによって、中性子が陽子と電子とニュートリノに変化します(このようにある粒子が別の複数の粒子に変化することを一般に崩壊と呼びます)。この変化、崩壊のことをβ崩壊と呼びますが、束縛状態にない中性子は平均寿命約900秒でどんどん崩壊していきます。クォークレベルで考えると、dクォークがuクォークと電子とニュートリノに崩壊しています。

この通常のβ崩壊に対比して、β+崩壊と呼ばれる、原子核中の陽子が中性子と陽電子とニュートリノに崩壊する現象があります。例えば陽子6個、中性子5個からなる放射性同対元素の炭素(11Cと以下書きます)はβ+崩壊によって陽子5個、中性子6個のホウ素(=11B)に変化します。こう書くと不思議なことは何もないように感じますが、私が気になったのは質量差です。陽子単体だと938MeV(1MeV=10の6乗eV、1eVは1個の電子を1ボルトの電位差を与えるエネルギー)、中性子だと940MeVあります。中性子のほうが重いので通常は陽子と電子とニュートリノに崩壊できるわけです。質量=エネルギーと考えれば、高いところから低いところに転げ落ちることはできますが、低いところから高いところへは何か外力がないと動きませんよね。なので軽い粒子が重い粒子に崩壊することはできません。

ところが、11Cと11Bの例だと、陽子と中性子の質量を単に足し上げると11Bの方が重くて、11Cが11Bに崩壊することはありえません。なのに、11Cが11Bに実際崩壊するわけです。なにせ常に束縛されていない1個の粒子を相手に研究している素粒子物理屋なので、一瞬「へっ」と思うわけです。束縛状態にない陽子が崩壊する現象は、陽子崩壊と呼ばれ、素粒子物理屋が昔から探している未知の現象なのです。ちなみにニュートリノ観測で有名なカミオカンデは元々陽子崩壊を観測するために建設されました。

放射性同位元素のβ+崩壊は、もちろん私たちが探している陽子崩壊ではなく、ありふれた現象です。ではなぜかと言うと、11Cと11Bのトータルのエネルギーを考えると、陽子と中性子の質量を足し上げただけではなくて、原子核中でそれらが(強い力によって)束縛されているエネルギーも考えないとなりません。こうやって束縛エネルギーまで足し上げると11Cのほうがエネルギーが大きくなって、それより下の11Bに崩壊していけるわけですね。

……長くなったので、一旦ここで切ります。続きはまたすぐに書きます。

10/9追記:
中性子の質量は1009MeVではなく、940MeVです。何を思って1009MeVと書いたのか自分でも謎です。ここを読んでる方だったら間違い気づく方いますよね。こそっと教えて下さい。変な間違いをそのままにしとくの恥ずかしいので。なんてことを言ったら、間違いだらけという可能性がありますが。ははは。推敲なんて全然しないで凄い早さで文章を書いてアップロードしてしまうので、その辺はお許し下さい。

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