FC2ブログ

ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

わかりやすさの功罪

今日の午後は、学部1年生の物理学実験の授業。最近スランプで、13時から18時までまるまるかかってしまいます。それも、1つの班が遅いとかではなく、毎回かなりの数の班が遅くなり、最後は私自身が計算を手伝ってあげるというようなことが続いています。去年もその前も同じ授業を同じ学部同じ学科の学生相手に担当したのですが、大抵は16時過ぎくらいに終わり、遅い班が17時くらいになるというのがお決まりのペースだったので、今年は何でこんなに時間がかかるのかと不思議に思っています。

いや、正確には、遅いのは実験の測定ではなく、測定が終わった後のデータの計算が例年に比べて強烈に遅くなっています。計算と言っても、四則演算だけ、しかも計算機を使うので、慣れていれば2、3分、過去の1年生は1時間程度(つまり、測定には2時間程度)で終えられる、というペースだったのですが、今年は2時間から3時間かかってしまうという大幅な変化なのです。本当に与えられた式に数値を代入して四則演算するだけなので、躓いているわけではないんですね。見ていても頑張って(?)計算しています。にもかかわらず、とてつもなく時間がかかってしまうので、何をどうアドバイスすればよいのか悩んでいます。計算の要領の問題かとも思い、実際に私が計算をしてみせるのですが、学生が同じことをやると別の答えになってしまい(オーダーが違うような明らかな間違い)、結局時間がかかってしまうのです。いや、本当に困っています。

関連して悩んでいるのは、わかりやすさを追求した授業でいいのか、ということです。この授業は全ての教員が画一的に同じプログラムで同じ内容を教える必要があり、実験手順の説明をするDVDが用意されています。通常はこのDVDを学生に見せるのですが、このDVDがわかり良過ぎるのですね。わかりやすいというのは、実験の意味や、測定の意味を理解していなくても、やるべき手順が画像で示されているので、それを猿真似すれば測定は行えてしまうのです。もちろん短時間で授業を終わらせようと思えば、測定の手順をわかりやすく説明してるそのDVDを見せた方がいいのですが、あまりに学生が何も考えないのが怖いのです。

例えば、そのDVDを学生に見せないと、オシロスコープにどうやってケーブルを繋げばいいかわからない、的な説明しろと言われても困ってしまうような質問に出逢ってしまうのです。ケーブルのコネクターの形と大きさ、オシロスコープのコネクターの形と大きさを見れば、どのケーブルが差し込めるか一目瞭然ですし、そのコネクター同士の接続の仕方って…押し込めという説明以外に何を彼らが期待してるのか私にはわかりません。押し込んでみれば、捻ることはすぐに気付くでしょうし。

もちろん、考えて、色々試した挙げ句にどうしたらいいのかわからないときは、遠慮せずに質問して欲しいです。ですが、とにかく、まずは少しは自分の頭で考えて欲しいんですね。普通に生活できるレベルの人であれば、考えればそんなことは必ずわかります。そういう問題(と呼ぶほどのことではない事柄)も考えないという態度は、教員としては非常に悲しいのです。でもそれは、わかりやすさを追求して、自分自身で考えさせることをしてこなかった教育の問題でもあるわけで、いや、社会的な風潮が根幹にあり、多くの人が考えることを放棄してる結果なのだとは思いますが、教育する側としては、本当にわかりやすさを追求してよいのかと考えてしまいます。

昔、外山滋比古さん本(タイトル忘れました)を読んで心に残っている内容があります。今の教育は、飛行機ではなくてグライダーを作っている。自分では飛べないが、誰かに引っ張ってもらうと上手に飛ぶ、そういう人間を作っている、という内容で、強く同意した覚えがあります。一番良い教育は何も教えないことで、本人が人から何かを盗み、考えないことには、真に身に付くことはない、というような主旨のことも書かれており、それにも強く頷きました。教える側には、物凄い忍耐力が要求されますけどね。

ところが現実には、もしそういう教員がいれば、学生からのアンケートでわからないと文句を言われ、クラスの平均の成績が悪いと大学の会議で問題視され…そんなことは到底私たちの大学ではできません。私たちの大学だけではなく、小中高大を問わず学校ならほとんどがそうでしょう。(聞くところによると、京都大学ではそういう授業が多かったと聞きますが、今はどうなんでしょうね。)

とまあ、自分の描く教育の理想と現実との大幅なギャップは埋めようもなく、できることはブログにこうして考えを書くくらいなわけですが…ホントどうしたらよいのか難しいです。
大学 | コメント:5 | トラックバック:0 |
<<久しぶりの委員会 | HOME | 宇宙は何でできているのか>>

この記事のコメント

こんにちは。
たぶんその本は「思考の整理学」という本です。
自分も読んだことあったので
コメントさせていただきました。
2010-11-27 Sat 11:31 | URL | [ 編集]
> たぶんその本は「思考の整理学」という本です。

あー、そうです。確かにそんな名前の本だった気がします。
前半は、グライダーと飛行機の話以外も結構面白かったです。
2010-11-27 Sat 20:51 | URL | ExtraDimension [ 編集]
DVD というところが問題なのではないでしょうか。私はDVDを授業で見せてもらった事がありますが、内容は教室で出来ないようなグラフィックのテクニックが使われた興味ある編集でした。そういうのなら見る価値がありますが、教室でせっかく教員と学生がリアルタイムで同じ部屋にいるのに教員が出来る事をDVDで済ませるなんて、学生の理解度を教員が対話を通して確認する機会をむやみに奪っていて意味が無いと思います。学生と話をする機会が多ければ多いほど学生の習熟度も理解できて教育に活かせると思います。
2010-11-27 Sat 21:42 | URL | [ 編集]
> DVD というところが問題なのではないでしょうか。...(中略)...学生と話をする機会が多ければ多いほど学生の習熟度も理解できて教育に活かせると思います。

全くその通りです。それは教員側の多くがそう思っています。
しかし、問題は2つあります。

まず、それをして、かつカリキュラムを定められた時間内に進めるためには、
マンツーマンで教えられるくらいの教員数が必要です。本文中の例では
ケーブルの見分けがつかないということを書きましたが、実験機材の
コンセントを差し込むことから説明しないと、コンセントを差し込んで
いないのに、器材が故障してると言ってくる学生がいたり、
(普通の卓上)計算機の使い方を教えたり、などなど、ちょっと想像を超える
くらい何から何まで説明しないとなりません。それを一クラス30人から50人に
やっていたら、とてもではありませんが、授業を定められた時間内に終了させる
ことができません。なら、カリキュラムを変更すればよいと思われるかも
しれませんが、これ以上簡単にしたら、授業をやる意味がない、ということに
なりかねない内容です。例えば、大学1年生の物理学実験で、家庭用の卓上計算機の
使い方を1コマ使って教えるということに賛成される方は少ないのではないでしょうか。

もう1つは、本文中にも書いたことですが、最近の風潮は(国大協やら文科省の
方針で)生徒にアンケートをとって、わかりやすいと生徒に言わせないと、
お叱りを受けてしまいます。いや、説教されたり、始末書を書いて済むなら
それで構いませんが、パトロンの意向に沿わないとどうなるか、というのは
大学だけでなく、どこの世界でも同じです。

というわけで、貴方がおっしゃってることを実行したいのはやまやまなのですが、
できない事情があり、だからこそ悩んでおります。
2010-11-28 Sun 18:20 | URL | ExtraDimension [ 編集]
「考えてから質問しろ」という事も、親切に質問にすべて答える事も出来ないのですね。では、チェックリストを作ってはどうでしょう?Q&A. ちょっとは役に立つのではないでしょうか?
2010-11-28 Sun 19:27 | URL | [ 編集]

コメントの投稿















コメント非公開の場合はチェック

この記事のトラックバック

| HOME |