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ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

学問の名前

大学にいて学部生と話をしたり、一般向けの講演のようなもので高校生と話をすると、宇宙という言葉のついた学問は人気があるなぁ、と毎回感じます。別に大学生や高校生に限った話ではなく、それほど科学に興味の無い人でも「宇宙」という言葉に興味を示す人は多いように感じます。

でも宇宙と一言で言っても色んな意味がありますよね。だれそれさん(誰でしたっけ?最近スペースシャトルに乗って琴を弾いたのは?)宇宙へ行くなんていう新聞記事の見出しを見るたびに、「宇宙」ってなんだよ?と一人ツッコミを入れています。いや、その使い方で間違ってないんだと思いますが、地球の大気圏外という意味(なのかな?)での宇宙空間(space)のことも、私たちが存在する時空間のこと(universese)も、下手すると天文学的な対象、月とか惑星とか銀河とか、そういうものぜーんぶを日本語だと宇宙って言っちゃいますよね。

いや別にそれだけなら何も言いたいことはないのですが、素粒子物理学ってuniverseの研究なのに、他のspaceや天文の研究に比べて宇宙の研究というイメージが浸透していなくて、色んな面で損をしてると思うんです。中学生、高校生、はたまた大学生への人気度、一般の人からの支持され度合い、その結果として大型予算の獲得度合いにすら響いているのではないかと思ったりもしてしまいます。なので、6月にやるアウトリーチでもそうですが、最近の私の一般向けの解説では、素粒子物理学=宇宙の研究なんだということを宣伝しようという意識がかなりあります。

さて、じゃあなんで素粒子物理学が宇宙の研究かというと、この世が何からできていて、どういう力が働くのか、私たちの住む時空の構造はどうなっているんだろうか、ということを研究するのが素粒子物理学ですから、この世=宇宙と思えば、この世の成り立ちを研究する素粒子物理学は宇宙の成り立ちを研究する学問と言って全く差し支えないのではないでしょうか。さらにSUSYではhidden sectorなんていう私たちが行くことのできない世界、あの世を予言するモデルがありますし、余剰次元という理論では私たち(の住む宇宙)は膜の上に存在するという描像だったり、という具合に、まさにuniverseという意味での宇宙の姿を研究しているわけです。

さらに、宇宙の成り立ち、宇宙の始まりを理解するための学問はまさに素粒子物理学です。ということで、初期宇宙の歴史を振り返ってみます。って、エラそうに書いてますが、Particle Data GroupというアメリカのLBNLの研究グループが作ったHistory of Universeという有名な図を見ながら以下のエントリーを書いています。

宇宙が生まれた0.00000000000000000000000000000000000000001秒後くらい(というか定義できる最小の時間単位、というか時間の始まり?)の世界の物理法則を記述するのが量子重力ですが、まだ人類はそういう理論を手に入れていません。この世界では、今の宇宙では4つに見える力が1つの力だったと考えられています。

宇宙が生まれた0.0000000000000000000000000000000000001秒後くらいには、電弱相互作用と強い相互作用が分離しました。インフレーション、宇宙の急激な膨張があったのもこの時期だと考えられています。素粒子がいつどのようにして生まれたのかはわかっていませんが、このインフレーションを起こす力の源のようなものから素粒子が生まれたのではないか、なんていう考えが最近の流行(?)だったりします。どのようにして生まれたかはひとまず置いておくとして、とにかくクォークとかレプトン(電子の仲間の総称)が生成され、それらが単独で(陽子や中性子などを作らずに)、というかプラズマみたいな状況ですね、宇宙に存在していました。物凄い高温高圧の状態で、クォークやレプトンが激しく衝突し合っている、そんなイメージです。

宇宙が生まれた0.0000000001秒後くらいに、電磁気力と弱い相互作用が分かれます。ヒッグス場の相転移により、素粒子が質量を持ったのもこの時期だと考えられています。ちなみに、世界最高エネルギーの加速器で到達できるエネルギー、すなわち再現できる初期宇宙の状態というのはこの辺りです。

宇宙が生まれた0.00001秒後から1秒後くらいになると、クォーク同士が束縛状態を形成してハドロン(3つのクォーク、あるいはクォーク・反クォーク対から形成される粒子の総称)を形成します。uクォーク2個ととdクォーク1個で構成されるのが陽子、uクォーク1個とdクォーク2個で中性子です。私たちが実験を行って観測できる粒子というのは、これらハドロン(あるいはレプトン)です。つまり、私たちが今実験で観測できる最小の粒子達がこの頃の宇宙を飛び回っていたということになります。

ここから後の歴史については、私の知識はとたんに怪しくなります。つまり、素粒子物理学というのはこれ以前、誕生して1秒以内の宇宙の姿の研究ということになります。ここまで書いたので、怪しい知識をもとにもうちょっとだけ先を続けると…

宇宙が生まれた1分後くらい、ワインバーグの有名な著書によると3分間となっているので3分後なのでしょうか、になると、陽子や中性子が束縛状態を作り始め、水素やヘリウムなどの軽元素の原子核が形成されます。まだ、原子は形成されない、つまり、原子核や電子がプラズマ状態で宇宙空間を占めています。光はプラズマ中の電子などに散乱されていまうので、いわゆる宇宙が不透明な時代です。

宇宙が生まれた38万年後くらいに、有名な宇宙の晴れ上がりがあります。原子核と電子がくっついて、つまり原子を作ることで、光が電子に散乱されずに宇宙空間を進めるようになったのです。その時に放出された光が有名な宇宙背景輻射です。3ケルビンという温度の電波なわけですが、宇宙が生まれた38万年後ということは今から137億年前の光を今私たちが見ているわけで、それゆえ宇宙最古の化石なんて呼ばれたりもします。逆に言うと、宇宙が晴れ上がっていなかったために、これよりも昔の宇宙の光を今の私たちは見ることができないんですね。

ちなみに、太陽でも似たようなことが起こっています。太陽の熱というのは、太陽内部で発生してる核融合による熱が外に徐々に伝わるわけですが、外側に伝わるには長い年月がかかります。確か何千万年もかかっていたと思います。つまり私たちが感じている太陽の熱(と言っていいのかは微妙ですが)というのは、大昔に太陽内部の核融合で発生した熱なんですね。それに対して、核反応で生成されるニュートリノは相互作用が少ないために一瞬で太陽の外側に到達、結局地球に到達しますから、太陽ニュートリノの観測というのは、太陽内部の核反応のリアルタイム観測ということになるのだそうです。

…脱線しましたが、話を戻すと、原子が生成された後は、えーと、私にはもう説明する力がありません。原子物理だか化学の範疇になって、宇宙が誕生して何億年も経ったころにようやく星が生まれるはずです。それらが銀河団を形成して、うんぬんかんぬんというのを研究するのが天文学ということになるのだと思います。

つまり、星が生まれた頃にはこの世という意味での宇宙はもう完全にできあがっていて、その世界の物質の相互作用もすでに解明されてしまっているわけです。星は綺麗ですし、ハッブル望遠鏡などが映し出す銀河(団)の写真というのは本当に美しいです。が、星が光り出すよりも遥か前の宇宙の姿を探ろう、宇宙の始まりを探ろうというのが、素粒子物理学なのです。美しい写真を見せることはできませんし、名前に宇宙はついていないのですが、宇宙を研究するのが素粒子物理学だということを多くの人にわかってもらえるといいなぁ、なんてことを考えていたら、とんでもなく長いエントリーとなってしまいました。


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この記事のコメント

私は、Steven Weinberg 先生の作った素粒子標準理論は好きですが
それは、実験結果を非常に高い有効数字で説明できるからです。
最近の、地球を含めた宇宙での観測結果と、矛盾しません。

いっぽう、初期宇宙については知りません。
George Gamov 先生と違って
「ビッグバン」や「インフレーション」は、あまり信じていません。
「インフラトン」なんて、発見されてませんし、
Roger Penrose 先生の特異点定理は、数学的には、理論の適用限界を
示すに過ぎないからです。

方程式が発散するからといって、物理的に特異になる訳ではなく、
単に理論の予言能力がなくなるだけなのです。お金儲けのための詐欺が
本職ではない物理学者の一員なら、そのことを、余計な誤解を招かないよう
正直に伝えるべきだと思います。

なお、専門外ですが、渦巻銀河の形の成り立ちについては、スパコンなど
使わなくても当然のような気がします。
物質が弱い引力で繋がれているとします。伸びたうどんを振り回せば、
次第に半径が伸びていくでしょう?
もちろん、遠いところは回転が追いつかなくなります。慣性の法則で。
万有引力は距離が離れるほど、弱いのですから、多体効果で非可逆的に
伸びていくのでは。地球もそのうち、赤道方向が太るかも?

物理学者なら、自分なりに納得のいく説明を考えてもらいたいものです。

私の理論(論文参照)では、インフレーションなんてなかろうと、
弱い力は電磁気力と不可分です。でないと電子は荷電半径の問題で矛盾します。

ぜひ、ご一読の上、感想をお聞かせください。
「ヒッグス粒子などない」予言が正しかったならノーベル賞をください。
2010-05-23 Sun 20:55 | URL | nisimiyu(西川 美幸) [ 編集]

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