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論文数と分野の違い

雑誌に掲載された論文数が研究者の業績の目安にされることがよくあります。もちろん、わかりやすい指標ですから、何かの審査の際にそれを考慮に入れるというのは自然です。が、異分野の研究にまたがった審査で論文数を使うのはかなりナンセンスです。

研究分野によって論文の発表のしやすさが全く違うからです。研究って奥行きを追及する分野と幅を追及する分野があります。素粒子なんて研究する対象が荒っぽい言い方をすると粒子の数しかありません。一方、素粒子より原子核、原子核より原子、原子より分子、分子より…というように研究する対象が複雑になれば、それに応じて誰も研究していない対象がいくらでもあります。ということで、素粒子の方向へ向かうと学問は深さを追及するしかないのに、複雑系を相手とする場合は未開の地がたくさんあります。その結果、誰もまだやっていない研究対象というのが少ないこと、論文を書くレベルに到達するまでに時間がかかること、この2点で素粒子の人は論文を書くのが難しいという面があります。

実際、素粒子理論とかでは修士段階でもまだまだ勉強が必要で修論が先行研究のレビュー、オリジナルの論文を書くのはまだまだ先だったりします。物理学科の中でも優秀な人間が多い素粒子理論なのに、です。一方、物性はいわんや、化学、生物、さらには工学系では修士課程在籍中に論文が書けることが珍しくないです。もしかすると、学部生でも書けちゃうのかもしれません。

それから素粒子物理実験に特有の問題としては、実験の時期によって論文が書けたり書けなかったりします。LHCなんて15年も前から始まった実験ですが、未だに物理解析に値するようなデータは取れていません。どういう実験でも準備期間と解析結果を発表する時期とがあるわけですが、私たちの分野ではそのスケールが極度に長くて、他の分野の研究者には理解されていない場合があります。

このように論文を発表する難しさが違っても、同業者の中での審査なら問題ありません。が、たまには異分野間の格闘になることもあるわけですね。そうなると、素粒子の世界に詳しい審査員なら大丈夫ですが当然そんな人が多くいるわけなくて、で、そういう場合は専門ではない研究者が審査員になるので、論文数くらいしか比較することができません。ということで、異分野の格闘では属する分野によって利益、不利益が生じる可能性があります。

そういう不公平が生じないようにするため、日本学術会議という偉い人(?)たちで構成されている組織のメンバー、つまり、異分野格闘の場合の審査員になる確率が高い人たち、には、素粒子関連の人間が不利益を被ることがないように特殊事情をきちんと説明しないとなりません。また彼らに自分の分野に帰って特殊事情を広く知らしめてもらわないと私たちはやってられません。もっと直接的には各省庁の役人さんたちにわかってもらわないとならないし、マクロには国民にわかってもらわないとなりません。

というわけで、一人でも多くの人に特殊事情をわかってもらおうと、こうしてブログに書いてるわけですが…

なんでこんなこと書こうと思ったかというと、科研費の報告書を書いていて、今年度は論文数がエラく少ないことを思い出したからです。検出器の建設と設置が終わった直後は検出器関連の論文があったのですが、今年度はそういうネタもなくなって、LHCが運転するのをひたすら(?)待っていたため、本当に論文が少ないんですね。私の報告書ならまだいいですが、ポスドクあるいは博士を取った人たちが職探しするにあたって、高エネルギー分野内だけではないカテゴリーで競争になった場合に不利益を被らないかと心配です。


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この記事のコメント

2000年2月、2度目の修士1年生時に誰にも相談せずに書いて柳田勉指導教授と筒井泉助教授(当時)に提出した「繰り込みと真性特異点」と本質的に変わらない内容で、2004年9月にようやく審査合格しました。当時に遡って学位授与し、名誉回復してもらいたい。
 彼らが故意に無視していなければ、翌年から年収240万円の研究員に採用されていた可能性は高かったはずです。ところが現実は、30年前からひとつも見つかっていない「超対称性粒子」の研究者ばかり研究職に採用されました(今もです)。
 論文を初投稿したときも、解析接続の一意性という、教科書に書いてある初歩的な事柄の説明がないことを理由として、問答無用で掲載不適当とされました。このため業者団体「素粒子論グループ」にはD3の終わりまで入れず、選挙権もありませんでした。(元)同級生と異なり、研究費は0円、海外出張費補助も0円で、レフェリーもやらせてもらえませんでした。
 私はこうしたアカデミックハラスメントのために学問や職業選択の自由を奪われて、数年間を無駄にし、約2000万円の損害を受けました。今も眠れないほどつらい思いをしています。これも職務専念義務違反や、公務員職権濫用罪ではなかったのでしょうか?
2010-03-07 Sun 23:27 | URL | nisimiyu [ 編集]
 上記のように私はレフェリーさえさせてもらえませんでした。反面、柳田勉教授はPhysical Review、筒井泉助教授はModern Physics Lettersといった有力雑誌のeditorを(もう昔のことでやや記憶が曖昧ですが)なさっていましたので、(反論する者の論文を不当に落としてでも)多数の論文を発表できる地位にありました。
 本当に狭い世界ですから、利害関係者しかいません。現在アカデミックポストに就けていない私には、これらの雑誌をお金を払うか、館外持ち出し権のない卒業生入館証を使いでもしないと読むことができません。土日と平日17時以後には物理図書室は休みですので、たいていは入館もできません。一般社会人には不正が行われていても真偽を知りようのない世界です。
 ちなみに豊田亨死刑囚の修士論文「ゲージ対称性の起源」は恐らく1部だけ物理図書室にあり、私は面識も利害関係もまったくありませんが在学中に初めて先輩だということを知り、驚いて読みました。最近素粒子メダルを授与された猪木慶治教授が指導教授で、藤川和男教授の名も謝辞にありました。彼らは当時公務員でしたが、現在まで超対称性理論に疑いを挟む意見はしていないと思います。
 猪木教授については面識がありませんのでよく判りませんが、東京大学に在学中は、教授たちの誰からも、豊田死刑囚の名前を聞きませんでした。一昨年、「さよなら、サイレント・ネイビー」を図書館でリクエストして、初めてどんな人物だったのかを少し知りました。
 最近またひとり被害者認定されたようですが、なぜ今までされなかったのか、不思議に思います。私もアカハラについては警察(本郷本富士署、生活安全掛)に取り合ってもらえませんでした。数千億円の税金がかかっていることを公益通報中なので、嫌がらせが怖いです。まだ未解決なところも多く、背景も含めて、真実を理解することが重要だと思います。
2010-03-08 Mon 00:59 | URL | nisimiyu(西川美幸) [ 編集]
分野にまたがる評価は難しいですよね。

ただ、素粒子でも現象論とフォーマルな分野では論文数が全く違いますし、そもそも素粒子であろうと物性であろうと各人のスタイルによっても論文数は異なりますから、結局 研究の中身を見てみないことには・・・

すみません。ただなんか
素粒子→「深さ」を追及するので論文数少ない
物性→その逆
みたいな言い方が気になったもので・・・
2014-09-30 Tue 02:54 | URL | [ 編集]

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