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ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

断面積とルミノシティ

私たち高エネルギー物理屋は多くの場合、加速器を使って実験をします。加速器の性能、というか特徴を表すパラメータの一つはもちろん加速される粒子のエネルギー(私たちが扱う粒子は非常に高速で光速に近いので、運動量=運動エネルギー=全エネルギーと思ってかまいません)で、みなさんご存知の通りLHCが世界最高記録1.18TeVに最近到達しました。これは馴染みのある、よく耳にするパラメータだと思いますが、エネルギー以外にもう一つ重要なパラメータが加速器にはあって、それがルミノシティです。

と言っておきつつ、ルミノシティの説明をする前に断面積を説明しなければなりません。断面積というのは粒子と粒子が衝突した時に反応の起こる確率みたいなもので、イメージ的には、粒子2つを衝突させたときに、その2つの粒子が重なって見える面積のようなものです。実際には、粒子は点状と考えるので「重なる」というのは正しくはなく、あくまでイメージです。重なりあう面積が広ければ反応が起きやすいわけですし、逆に重なりが小さければ反応は起きにくい、という感じです。単位があうように定義すると、ある標的の単位面積あたりに1つの粒子が入射した時に反応が起こる確率、ということになります。通常使われる単位は、b(バーン=10^{-24}cm^2)ですが、私たちが普段対象としている物理現象ではbという単位は大き過ぎて、mb、μb、nb、pb、等々が使われます。ちなみにLHCが7TeV+7TeVで走ったときの全断面積、つまり、どういう反応でもいいのでとにかく反応が起こる確率は70だったか80だったか正確な数字は忘れましたが、ひとこえ70-80mbくらいです。一方、ヒッグスの生成断面積はオーダーpbなので、LHCで生成される事象の10^10に一個くらいがヒッグスということになります。

ルミノシティというのは、単位時間あたりに起こる反応の回数=断面積×ルミノシティとして定義されます。なので単位は1/{s × cm^2}ということになります。断面積というのは自然が決めたもので人間がコントロールすることはできません。あ、断面積は粒子のエネルギーに依存するのでエネルギーを買えることで断面積は変化しますが、それもあくまで自然があるエネルギー依存性を選んでいるというだけで、人間がその依存性を決めているわけではありません。そこで、より多くの事象を見たいとき、例えばたくさんヒッグスを集めようとしたら、断面積はコントロール不可なので、人間の努力としてはルミノシティを上げることになります。私がよく使う比喩は、「異性と仲良くなれる回数=モテ度×異性との出会いの回数」です。モテ度は断面積、これは人間にはコントロール不能です。まあ、心がけや服装髪型で多少違いますが、私がいくら頑張っても福山よりモテるようにならないのは明らかです。ですが、いくら福山がモテても無人島にいたら女性と仲良くなることはできません。逆に、私でさえも毎日ウン10人、ウン100人の女性と触れ合う機会があって、ウン10人ウン100人の女性にアプローチするだけのタフさがあれば、何ヶ月後か、何年後かには女性と仲良くなることができるはず…ですよね(???)。つまり、女性との出会いの回数がルミノシティ。こっちは努力すれば増やすことができます。ルミノシティを上げる=頑張って婚活、恋活をする、ということです。

おっと、だいぶ脱線しましたが、そういうわけでルミノシティというのは非常に重要な加速器のパラメータなわけです。このルミノシティの世界記録は、KEKのBファクトリー用の加速器が持っています。現在も稼働中(ですよね?)で、単にルミノシティが高いだけでなく、安定して高いルミノシティを出しますので、大量の事象を生成することができます。で、私たちの世界では集めた、というか、粒子の衝突により発生した反応の回数を積分ルミノィティ(=ルミノシティを時間で積分)として表現します。ルミノシティを時間積分するのですから、単位はcm^{-2]、つまりbの逆数になります。積分ルミノィティが1/{pb}と言えば、断面積が1pbの事象を1回発生させるだけの衝突があった、ということです。なぜこういう単位を使うかというと、たとえばヒッグスを何イベント集めた、と表現すると、生成された事象の数はヒッグスの生成断面積に依存しますから、加速器がどれだけの衝突事象を発生させたかというユニバーサルな事象にならないからです。

で、コメント欄に書き込みがあって知りましたが、最近KEKのBファクトリーでは積分ルミのシティが1/{ab}を超えたそうです。Bファクトリーでは電子と陽電子を衝突させてΥ(4S)という名前の粒子を生成します。そのΥ(4S)がB0と反B0対に崩壊する事象を研究します。Υ(4S)の生成断面積がたしか…3だったか4nbくらいだったと思うので、オーダー1nbとすると、1/{ab}の積分ルミノィティというのはΥ(4S)を10^9個生成したということになります。(あれ、あってるかな?)まあ、数値は間違ってるかもしれませんが、とにかく1/abを超えたというのは凄いことです。日本の加速器技術が優秀であることをアピールしてよい偉業だと思います。素晴らしいっ。


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この記事のコメント

Y(4S) の断面積は約1nbです。instantaneous な Luminosity は /nb/s という単位で数えると便利です。
1/nb/s は 33乗/cm^2/s なので、LHC の目指す34乗は10/nb/s と言うことになります。これに断面積をかけると event rate になるので、Trigger のバンド幅などを考えるときに簡単になります。例えば KEKB だと 20/nb/s で走っていると、Y(4S)は 1nb なので 20 Hz で生成されることになります。10/nb/s で走って Higgs が 1pb なら、100秒に一個ですか。豪勢ですね。
KEKB/Belle ではもうY(4S)は十分貯めたと言うことで、今年からは他の resonance (2Sと5S)で走っています。Upgrade の予算次第ですが、24日まで走って、Belleは終りです。
2009-12-10 Thu 22:07 | URL | 中村 [ 編集]
> Y(4S) の断面積は約1nbです。

3.3だか4みたいな数字が頭の片隅にあったんだけど、それってなんでしたっけ?
continuumが3.3???
2009-12-11 Fri 09:28 | URL | ExtraDimension [ 編集]

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