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ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

CPT対称性

何度か説明したことのあるゲージ対称性というのは、素粒子物理学の肝と言っていい、非常に本質的な対称性です。本質的というのは、現象論的に成立しているということではなく、この宇宙を支配する原理(=なぜそういう対称性によって相互作用が規定されているのか人間は知らない)と考えられているからです。相対性原理と同じようなもんですね。自然の法則を定式化しようとするとき、まず受け入れなければならないルールなのです。

ところが、対称性と言うと、パリティやCPなどの対称性のほうが有名な気がするのですが、そんなことないでしょうか。

今日の研究室の文献紹介では、有名なLeeとYangによるパリティ非保存の論文をD1の学生が紹介しました。約50年前の論文で、それ以来延々とパリティやらCPの研究が行われています。で、ふと思ってしまったのですが、なんでこんなにCPの研究が延々となされているんでしょうね。パリティもCPも理論的に保存すべき必然性は全くなく、弱い相互作用のラグラジアンはたまたまパリティやCPを破る形をしていた、というだけなわけです。そもそもアクシオンの説明をしたときに書きましたが、強い相互作用でCPが破れていないほうが不思議なくらいです。もちろん、弱い相互作用のラグラジアンの形が確定した(=CPが破れている理由がわかった)のはKやBの実験結果の蓄積によるわけで、確定するまでは実験屋として興味を持っていましたし、自分でもそういう実験に携わっていました。でも今になってみると、保存していなくてもいいCPのラグランジアンをなぜそんなに一生懸命理解しようとしていたのか、自分でもわけわかりません。ふと我に返ったというか、夢から覚めたというか、妙な感覚です。

宇宙に反物質がないための必要条件3つのうちの一つがCP非保存だから、という現象論的な興味は自分にももちろんありますし、多くの人が興味を持つことは良いことだろうと思います。そもそも他人の興味にけちをつけるつもりは全くありませんし。ただ、夢から覚めたかのような今の自分から見ると、なぜ、より本質的な対称性であるゲージ対称性に多くの人は興味を持たず、たんなる現象論であるCPに多くの人が興味を持つのか、ちょっと不思議に感じています。CP対称性という言葉を聞いたことのある人の数は、ゲージ対称性という言葉を聞いたことのある人の数より圧倒的に多くないですかね。

と、ゲージ対称性とCPを前フリにしましたが、CPT対称性というのは微妙な立ち位置ですね。ゲージ対称性のような原理ではなく場の量子論から導かれる定理なのですが、それを導くための仮定が非常に緩いので(例えばローレンツ不変性とか)、もしCPTが破れていたりすると、場の量子論が間違っているとか、ローレンツ不変が成り立っていないとか、素粒子物理学の非常に基本的な考え方が間違っているということになってしまいます。もしCPTの破れを発見すれば、間違いなくノーベル賞ですね。ははは。

ちなみに、CPT対称性からの帰結は、粒子と反粒子の質量が同じとか、寿命が一緒とかです(他にも幾つかあります)。厳密なテストは、質量や寿命を粒子と反粒子について直接測って比較するのではなく、K中間子やB中間子で粒子と反粒子が混合する現象の混合に関するパラメータを測定することで行われています。この方法で、K中間子の質量差に換算するととてつもない精度で粒子と反粒子の質量が同じとわかっています。



宣伝忘れてました…。
KEKの一般公開は9月6日(日)です。


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2011-01-27 Thu 05:11 | | [ 編集]
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2011-02-10 Thu 01:52 | | [ 編集]
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2011-06-02 Thu 22:03 | | [ 編集]
> Measurement of the mass difference between t and anti-t quarks
> http://jp.arxiv.org/pdf/1103.2782
> というe-printに行き当たりました。
> 思っていたより大きな値になっています。

2 sigma で0と一致している,と解釈するのが普通なので,
誰も話題にしていません。
2011-06-03 Fri 09:25 | URL | ExtraDimension [ 編集]
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2011-06-03 Fri 22:39 | | [ 編集]

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