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ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

calibration(較正)

実験を生業としている私たちが非常によく使う言葉(行為)にcalibrationというのがあります。日本語だと較正(?)でしょうか。おそらくこういう職業に就かなかったら一生耳にすることがない、そこまで言うと大袈裟かもしれませんが、あまり耳にすることのない言葉ではないでしょうか。

最近の4年生実験では検出器のcalibrationをちょこちょこやっていました。で、calibrationとは何ぞやという話ですが、一言で言うと測定したい物理量と検出器の反応の対応関係を作ることです。例えば物差しを作ることを考えましょう。まず物差し本体となる真っすぐな棒状の物が必要ですよね。次に必要なのが目盛りを振ることです。この目盛りを振る作業のことがcalibrationです。今英和辞典で調べるとモロにそう書いてありますね…。ただ一言でそうは言うものの、目盛りを振る作業というのは実はやっかいです。

すでに身近に物差しがあればその物差しを真似て目盛りを振ることができます。でも、物差しがない場合もありますし、その物差しの目盛りがどれくらいの精度で振られているのかわからないと困ります。1mとその物差しは言ってるけど、本当は1.001mかもしれませんし、0.99999mかもしれません。いえ、もしかしたら1.005mくらいあるかもしれません。つまり、ある物差しで1mと言ってもその精度まで知らないと誤差を評価できないので、実験屋的には困ってしまうわけです。1.000m+/-0.001mとわかっていれば、1cmくらいの大きさの物を測定することに意味ありますが、1.000m+/-0.01mの物差しでは1cmの対象物を測定しても意味ないですよね。

じゃあ物差しが身近にないときはどうするかというと、物差しでなくてもいいから、なんでもいいからとにかく長さのわかっている物を基準に使いますよね。自分の身長を使えば、まあ1cmくらいの精度ではある特定の長さの基準点を作ることができます。それを基に自分の身長の2倍、3倍という長さを測れます。

私たちの世界で測定する物理量といえば、エネルギーとか運動量、時間などなどがありますが、そのための物差しというものが存在しません。そこで、例えばエネルギーなら、検出器から出てくる信号(最終的には電気信号になる場合がほとんどで、それが数値化されます)がどれくらいのエネルギーに対応しているのか、その対応関係を調べることがcalibrationなわけです。最終的に数値化された値があっても、その値が何eV(エネルギーの単位です)か知らなかったらエネルギー測定になりませんよね。

そこでやることというのは、先の物差しの例と全く一緒で、すでにエネルギーのわかっている何らかの粒子をcalibration sourceとして使います。その方法は様々で、すでにcalibrationされている他の検出器の情報を使う場合もありますし(この場合は、元の基準となる検出器の誤差を引きずることになります)、ある粒子の特定の崩壊に着目したりします。どれくらいのエネルギーを放出するのか既知の放射線源を使ったり、2体崩壊する粒子であれば、崩壊して新たにできた2つの粒子の運動量がわかるので、その崩壊してできた粒子に対する検出器の反応を見ればcalibrationできます。

で、4年生が実際に使った方法は、ある検出器を通過する宇宙線はほぼ一定のエネルギーを検出器に落とす、という性質を使ったものです。そのエネルギーは計算によってある程度の精度でわかるので、そこから検出器によって最終的に数値化された値とエネルギーとの対応関係をつけるわけです。これはエネルギーのcalibrationですが、時間を計るためのcalibrationも行いました。オシロスコープの時間を基準に使ったので、厳密なことを言うとオシロスコープの時間分解能とかオシロスコープ自体のcalibrationの精度を知らないとならないことになります。もちろん実際問題としては無視していい大きさなので気にはしていませんが。

以上、calibrationとは何ぞやという話でした。実際の実験ではcalibrationの精度が最終結果(中心値と誤差の両方)に大きく影響するので、実験屋が実験をする上で一番気にする項目の一つです。にもかかわらず、学部4年生くらいになって真剣に実験をやるまでは全く未知の世界でした。


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この記事のコメント

Relative と Absolute というのもありますね。
まず、複数の検出器の応答を relative に合わせておき、最後に全体の Absolute な scale を合わせる。
業界にいるといろいろなことが病的に気になりはじめます。車の速度計の calibration とか。私の車は GPS とくらべると 3% 位速く表示されます。(調べているあたり既にビョーキだ)
2009-07-04 Sat 13:46 | URL | 中村@Belle [ 編集]
> 業界にいるといろいろなことが病的に気になりはじめます。車の速度計の calibration とか。私の車は GPS とくらべると 3% 位速く表示されます。(調べているあたり既にビョーキだ)

まあ、間違いなく我々は病気でしょう…。けど、病気にならずにMCを盲目的に信じてしまう人が増えているのは、この業界のもっと深刻な病気かもしれませんね。
2009-07-04 Sat 19:12 | URL | ExtraDimension [ 編集]

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