FC2ブログ

ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

質量と自発的対称性の破れ

今日は昨日の質量の話の続きで、質量と対称性の破れについて説明してみます。

そもそも対称性とは何か考えてみましょう。
ある操作をしたときにその操作の前後で世界の区別がつかない場合、その世界は行った操作に対して対称性があると言います。逆に区別がつく場合を対称性が破れていると言います。よく使われる例ですが、丸い紙を思い浮かべてください。で、その紙を回転させます。「ある操作」というのはこの場合「回転」です。紙が真円であれば、回転の前後で紙を回転させた人以外に紙を見せても、紙が回転されているのかどうかわかりませんよね。つまり、丸い紙は回転操作に対して対称性があるということになります。今度は正方形の紙を考えてみます。すると、90°、180°、、、と90°の倍数の回転をさせた場合、回転させた人以外には区別がつきません。逆に90°の倍数以外の回転だったら、回転させたことがわかりますよね。ということは、正方形は90°の倍数の回転に対しては対称性があるけれども、それ以外の回転に対しては対称でない、対称性が破れているということになります。

では次に無数の方位磁針が丸い紙の上に置かれている状況を思い浮かべてみてください。また、方位磁針の磁力は弱くてお互いに影響を及ぼさないとします。このとき、地磁気など一切の磁場のない場所で方位磁針を観察すると、全く磁場を感じないので、それぞれの方位磁針は勝手な方向を向きます。好き勝手な方向を向いている方位磁針がたくさんあったとしたら、方位磁針の乗っている紙を回転させても、回転させた人以外には回転させたのかどうかわかりませんよね。なので、この状況も回転に対する対称性があるということになります。

今度は強力な磁石を紙の上に載せてみます(ただしこの磁石は第3者には見えないとします)。すると、その磁石のN極とS極の向きに従って無数の方位磁針は一斉に同じ方向を向きます。この状況で丸い紙を回転させると磁石が見えない第3者でも紙を回転させたかどうかわかります。回転対称性が破れたわけです。この例では磁石という外的要因で対称性が破れたわけですが、外部から何かを持ち込むことなく自ら対称性が破れることを「対称性の自発的な破れ」と言います。

わかりにくくなるのを承知でもう少しだけ厳密に言うと、ある状態を記述する理論が本来は対称性を持っているのに(上の例だと磁石の向きの話なので電磁気学が対称性を本来は持っているということになります)、実現された状態が対称性を破っていることを対称性の自発的な破れと言います。紙の上に磁石を載せなくても、方位磁針がお互いの磁場を感じてある特定の方向に向いてしまった場合を想像してもらうといいかもしれません。外から何かを持ち込まなくても、自ら回転対称性を破るわけです。

この自発的対称性の破れという概念は超伝導を説明するために使われたアイデアで、物性の世界で使われていた概念を素粒子物理学に初めて持ち込んだのが南部さんなのです。みなさんご存知のように、その業績でノーベル賞を貰ったわけです。

本来は質量ゼロだった素粒子に質量を持たせるためには南部さんの画期的なアイデアに加えてもう一工夫必要で、その一工夫をしたのがヒッグス他数名の物理学者です。今ではヒッグスと名付けられている粒子を導入して、ヒッグス粒子によって与えられる時空の性質が、本来持っていた対称性を自発的に破ることでクォークや電子などのレプトンに質量を与える、というのがヒッグス機構と呼ばれる素粒子の質量の起源だと考えられています。ポテンシャルや真空といった概念を使わずに説明するならば…「質量」=「ヒッグスと素粒子との間の結合の強さ」x「時空の偏り具合」と考えてください。昨日は単に素粒子の質量はヒッグスとの間の結合の強さに比例すると言いましたが、その比例係数は「時空の偏り具合」ということですね。で、対称性がある状態というのは偏りが無い状態なので、ヒッグスと素粒子との間の結合の強さがいくら大きくても質量はゼロになってしまいます。ところが、時空が対称性を破った状態だと、時空に偏りが生じるために質量がゼロでなくなります。時空の偏り具合というのは時空が持つ性質で、素粒子自身には関係ないので全ての素粒子に対して同じ値を持ちます。ということで、質量はヒッグスと素粒子との間の結合の強さに比例する、ことになります。

以上が素粒子の標準理論により説明される質量の起源なのですが、私としては突っ込みたい点というか不思議なところがあります。それに、ヒッグスという粒子が本当に存在すると理論上不自然極まりない点があって、その不自然さを解決するために超対称性(SUSY)という概念・理論が導入されました。この不自然さについては前に書いた記憶もありますが、いつ書いたか定かではないので、そのうち書いてみようかと思います。がっ、ここ数日濃いぃエントリーばかりで疲れたので、この辺のことについて書くのは当分先のことになるでしょう…。

[2012年9月30日追記]
自発的対称性の破れによって素粒子が質量を獲得する部分の説明に補足を試みます。
繰り返しになりますが,対称というのは何らかの操作の前後で状態を区別できないことです。方位磁針の例だと,方位磁針の向きがランダムな状態が対称な状態で,ある特定の方向を向けば対称性が破れたということになります。で,いきなりヒッグスなのですが,ヒッグス場は,宇宙が高温で対称性を保っていたときも,実は素粒子と相互作用を起こしていました。ただし,対称性を保っていたので素粒子との相互作用の多きさが完全にランダムでした。大きさだけでなく向きまでもランダムなので,素粒子がヒッグス場から受ける相互作用の大きさの期待値はゼロだったのです。ところが,ヒッグス場は対称性を自発的に破り,素粒子との相互作用がの大きさが一定の有限値を持つようになったのです。3年前は,時空の偏り具合という苦しい表現を使っていましたが,正確に書くと「質量」=「ヒッグス場と素粒子との結合の強さ」×「ヒッグス場の強さ」なので,ヒッグス場の強さの期待値が宇宙が高温だったときはゼロ(=対称性を保っていた),ところが宇宙が冷えてくるとヒッグス場の強さの期待値がゼロでない有限値を持つようになった(=対称性を自発的に破った)というわけです。これに伴い,素粒子の質量もゼロから有限値になったと考えるのが標準理論です。

ここで一つ大事なのは,期待値という量子力学の考え方が使われていることです。場を量子化したことにより,そういう考え方をしなければならないのが,場の量子論にもとづく現在の素粒子物理の理論体系なのです。

研究 | コメント:0 | トラックバック:0 |
<<拍手、拍手コメント | HOME | 質量の話>>

この記事のコメント

コメントの投稿















コメント非公開の場合はチェック

この記事のトラックバック

| HOME |