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ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

宇宙線中の(陽)電子過剰

ちょっと前にも書きましたが、最近は宇宙線中の陽電子(電子も)の量があるエネルギー領域で予想よりも多いというのが、宇宙物理、天文、素粒子関係で話題になっています。その盛り上がりを裏付けるかのように、昨日届いた物理学会誌の一番最初の「最近のトピックス」という短めで、その名の通り最近話題になっているネタの解説記事にも、この話が載っていました。

なぜ盛り上がっているのかおさらいすると、宇宙にあると言われている暗黒物質同士がぶつかると、ある確率で消滅をして別の既知の粒子を放出します。その放出される粒子というのは、時には電子・陽電子であったり、陽子・反陽子であったり、光子であったり、、、と、我々の知っている粒子なので、これらの粒子がもし予想よりも多ければ、暗黒物質の衝突→消滅→私たちの知ってる粒子の放出が起こっているということの(弱い)間接的証拠になります。さらに、予想よりもどれくらい増えているか、どういうエネルギー領域で増えているかを解析することで、暗黒物質の性質を絞り込むことができます。現代物理学の最大のミステリーの一つである暗黒物質の性質に迫れるということで、(陽)電子が増えているのかどうかが非常に話題になっているわけです。

ただ、もし暗黒物質がSUSYの予言する粒子だった場合(最有力の候補です)、宇宙論的に予想される量よりも数100倍(?)も多くないと、観測されている(陽)電子の量の多さを説明できないそうです。素粒子実験で暗黒物質を直接観測しようとする実験が世界でたくさん行われていますが、それらの結果とも矛盾しますし、陽電子は増えてるのに、反陽子が増えていないという観測結果もあって、それは暗黒物質の衝突→消滅→粒子・反粒子対の生成というシナリオでうまく説明できないので、暗黒物質起因ではないというのが大方の予想のようです。

が、理論屋の人というのは、どういう観測結果も研究のネタにしてしまうもので、新たな観測・実験結果がでればそれに応じてどんどんモデルやら、仮説を作ってくるものです。最近ちらっと眺めた論文では、暗黒物質との結合の強さがクォークとレプトンでは違うなんていう仮説もありました。それで直接探索と矛盾しなくなり、かつ宇宙線中の反陽子の量が増えていないことをうまく説明できるとかなんとか。内容はともかく、どういう実験結果でも飯のタネにできる現象論屋は逞しいと感心しています。

(陽)電子以外にも昔EGRETという宇宙線を測定する人工衛星による実験で、あるエネルギー領域で予想される量よりもガンマ線が遥かに多いという観測結果がありました。これも宇宙・天文の人にとっては由々しき問題だったわけですが、去年打ち上げられた人工衛星によるFERMI実験での結果で、あっけなくEGRETの観測結果が間違いであるという結論になりました。間違いと言っては正しくないのかもしれません。EGRETの観測結果を再現できなかった、ということでしょうか。そんな真面目な解釈はおいておくとして、EGRETは間違っていたわけです。そもそも、検出器に間違った観測結果を生じさせる可能性があると指摘されていました。FERMIというのは電子の測定も今までよりも格段に精度良く行えるので、電子が多い気配がある、という観測結果の重要なテストになることが期待されています。もう彼らは結果を知っていて、発表前の最終チェックを行っているそうです。

こういう一連の流れを見て思うのは、論文のcitation(参照)回数って本当に意味があるのかわからなくなります。端的に言うと間違った観測結果でも、その間違った結果に基づく解釈が面白い場合爆発的な回数citationされます。citationの回数というのは論文の価値を決めるある尺度になるわけですが、なんか変な気がします。身近な例だと車の修理や病気の治療を思い浮かべてしまいます。

車が故障したとき、あるいは病気のとき、問題点を一発で見抜けず色々な部品を順番に取り替えたり、色々な検査をやり色々な治療法を試し、ようやく車のトラブルを解決、病気を治療したほうが自動車工場や病院は儲かってしまうんですよね。自動車の例だと日本ではわかりませんが、アメリカではそういう仕組みでした。病院は明らかにそうですよね。医者の友達が嘆いていたことがあります。ヤブ医者のほうが保険の点があがる仕組みは大問題だと憤っていました。

citationの回数を論文の価値基準にすることにはこういう危険もあるのかな、とふと思いました。


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