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ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

Multiverseと宇宙項問題

理論屋のKさんが色々なところで最近安定な宇宙がたくさんあってもいいことが示された,というような怪しげな(面白そうな)ことを言ってるので,そもそもmultiverseってどういうことなん?レビューの論文でもあったら教えて,と頼んだところ,素人が読んでも考え方はなんとなくわかる易しいレビュー論文を紹介してくれました。と言っても,このやりとり自体だいぶ前の話で,その論文をプリントアウトはしたもののまだ読んでいませんでした。

先週の土曜は高エネルギー委員会に特別招待され,HL-LHCの現状を話してきました。いつも通りICEPPでの開催だったので,その往復の電車の中で紹介してもらった論文を読んでみました。そもそも異なる真空のエネルギーを持つ複数の宇宙が存在するという考えかたは古くからありましたが,宇宙が存在すると言った場合,安定した宇宙になるためには真空のエネルギーが極小値を持たなければなりません。つまり,複数の宇宙が安定して存在するためには,それぞれの宇宙の真空のエネルギーが極小値を持たなければなりませんが,超弦理論だとどうもそれを実現できるらしくて,宇宙というのは私たちが住んでる宇宙だけじゃなくて,別の真空のエネルギーを持った宇宙がたーくさんあるんだ,という考え方をlandscapeと言うようです。たーくんさんの数が半端ではなく,10の500乗とか,あるのだそうです。10の50乗でも想像できなくらいの数の大きさですが,10の500乗って。。

multiverseという考え方はもともと宇宙項問題を人間原理によって解決(?)しようとしたものらしいのですが,宇宙が10の500乗個あっていいと言われたら,確かに,宇宙項が不自然な値だったとしてもまあ仕方ないかな,とは思ってしまいます。いや,もちろん,宇宙がそんなにたくさんあると言われても俄かには実感はわきませんけど。

ついでに,宇宙項って理論と計算で120桁も違うという話を世間でよく聞きますよね。今回読んだ論文とは関係ありませんが,その内容を理解するためにウェブサーフィンしてたら,120桁違うというのは,ナイーブすぎる計算結果みたいですね。よく言われてるのは,調和振動子みたいなのを考えて,基底状態のエネルギーを足し上げるという計算です。普通は基底状態を真空と思って,そこからの変化だけが観測できるので,基底状態の定数項は無視しろと量子力学で教わりますが,真空のエネルギーを考えるときはその基底状態のエネルギーをカットオフまで足しあげます。というか,それがナイーブな計算だと私は聞いていました。けど,手でカットオフを入れるのはローテンツ対称性を破るので正しくなくて,正しくは次元正則化という方法で計算するんだそうです。で,さらにくりこみなど私にはよく理解できない計算を正しくやると,通常言われてるカットオフの4乗ではなく,粒子の質量の4乗に比例する量になるのだそうです。

通常カットオフをプランクスケールにとるので真空のエネルギーは膨大になりますが,対象とする粒子の質量の4乗だったら,そこまでは大きくなりません。もしSUSYが存在すれば,SUSY粒子の質量の4乗ですし,標準模型の枠内だとオーダー10^9(GeV)^4くらいだそうです。でも,まあ,プランクスケールの4乗つまり10の73乗に比べると10の64乗も改善したとはいえ,それでも観測値とはまだ10の60乗前後も離れていますから,宇宙項問題の本質に関わる話ではありません。ただ,よく10の120乗も観測と離れていると宣伝されているので,本当は違うということを知ってへーっと思った次第です。

いや,しかし...安定な宇宙が10の500乗個もあるんでしょうか。驚きです。でももしそうだと,というか,その考え方を受け入れてしまうと,世間でよく言う「不自然さ」による議論ってほとんど意味がなくなります。Fine-tuningなんてあっても全然不思議ではなくなってしまいます。将来,研究がどういう方向に進むのかはわかりませんが,もし人間原理的なmultiverseという考え方が主流になったら,不自然さを解決するための理論的な考え方は意味がなくなり,観測というか実験によって理論的に説明できていないことしか研究としての対象にならなくなるのかもしれません。ただ,現状,ダークマターやダークエネルギー,物質優勢宇宙の謎,など,標準模型だけでは理解できない現象がありますから,すぐに素粒子物理学の研究対象がなくなることはなさそうです。不自然さを突き詰めて,新たな発見に繋がってきたのも人類の歴史ですし。

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