ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

LHCの磁石

前にも触れたことがありますが,文科大臣の訪問で思い出したので,日本が製造した電磁石がLHCのどこに使われているかを軽く説明してみます。
IP周りの磁石配置
この図は,N本さんが書いた高エネルギーニュースからの引用です。LHCの陽子・陽子衝突地点付近の磁石の配置図で,Qは四重極,Dは双極電磁石を意味します。違う言い方をすると,Qはビームを絞るためのもの,Dはビームを曲げるためのものです。

図の上側が現行LHCの図でして,日本が製造したのはQ1とQ3という四重極超伝導電磁石です。これがFermilabが製造したQ2とQ3と一緒になって魔防瓶に入り,よく写真で見かける日本の国旗(とアメリカの国旗)が描かれた赤い筒状のものです。ビームの最終収束磁石という非常に重要なもので,これが全ての陽子・陽子衝突地点に設置されています。一昨日馳文科大臣に見ていただいのは,この磁石のスペアといういわけです。超伝導材としてはNbTiが使われています。

HL-LHCでは,現行LHCよりもさらに強い収束磁場が必要で,Q1からQ3についてはもともとFermilabとBNLが開発していたNb3Snの電磁石に置き換える予定です。あとで少し触れますが,Nb3Snの製造は極めて難しく,その試作機(実機よりも短いものですが)をFermllabとCERNで先ごろ完成させたというのは大きなマイルストーンでした。11Tだか12Tだかを達成したはずです。

日本は得意のNbTiを使い,HL-LHCではD1を担当しようと思っています。上記の図を見てもらうとわかるように,現行のものよりも遥かに短いもので,短い磁石で軌道を曲げようということはそれだけ強い磁場が必要ということになります。短くなるのは,Crab Cabityを入れる場所を確保したり,Q1-3の磁場が強くなったとはいえ,より強い収束が必要なため(?)それらの長さが長くなるためです。さらに,強い収束のためにはビームを絞る前により広げておかないとならないので(光学と同じだそうです),かつD1はビームパイプが1本なのに対してD2やQ4ではビームパイプが2本になっていることから,D1でのビームは現行LHCよりも広がったものになり,D1は大口径のものが必要となります。つまり,より高磁場と,より大口径という両面の要求を満たさなければなりません。こちらについても,試作機の製造が進んでいて,これまた実機よりも短いものですがその1号機が完成して,すでに定格電流を流すことに成功したという試験結果まであります。非常に大きなマイルストーンで,CERN首脳部からも高く評価されています。

以上が,日本が製造した,あるいは製造予定の電磁石なのですが,実は他にも日本の産業製品が大量に使われている部分があります。物理屋には浜ホトが有名ですが,値段規模から言うと桁違い(は言い過ぎかもしれませんが)の製品が加速器に投入されています。たとえば,LHCのでネルギーの上限を決めている,ビーム軌道を曲げるための8.3Tの有名な双極電磁石の超伝導材の多くは古河電工が供給しました。正式受注だけでなく,受注を請け負った日本以外の国の会社からの孫請け等もあったそうで,正確な数はわかりませんが(そもそも孫請け分は我々にはわかりません)過半数に達しているのではないかという話です。凄い話ですよね。LHCが高エネルギーを達成するための生命線とも言える超伝導材の過半数が日本製なのです。

その他にも,超伝導電磁石のためのステンレス材などの金属材や,超伝導線の絶縁のためのポリイミドテープやら,LHCの加速器を完成させるために不可欠な部品の多くを日本の企業が供給しています。日本企業なくしてLHCは存在し得ないと言っていいくらいの存在感があります。物理屋も頑張っていますが,電磁石製造などでも日本はLHCに大きく貢献しています。

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