ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

陽子陽子衝突の回数

一般の人やマスコミの人と話をすると,陽子陽子衝突の回数について尋ねられることがあります。そこで今回はそれに関するメモです。以前にも同じようなことを書いたかもしれませんが,まあ,それは気にせずいきましょう。

私たちがよく使う,陽子陽子衝突に関する数値は,陽子と陽子がどれくらいの頻度で当たるか(と言っていいのかどうかわかりませんが)の尺度であるルミノシティ(単位はcm^{-2}s^{-1})と,陽子と陽子が衝突して反応を起こす確率みたいなものである断面積(単位はcm^2)です。それらの単位からわかるように,ルミノシティと断面積をかけると毎秒何回の陽子陽子衝突反応が起きているかがわかります。

ルミノシティは陽子と陽子がどれくらいの頻度で当たるかの尺度ですから,自然が決めるというよりも人間の努力次第で変化する値です。ざっくり言うと,陽子と陽子を正面衝突させたいわけですから,それぞれの陽子が空間的に接近していればしてるほどルミノシティは高くなります。そして,ここが大事なのですが,加速器の中では陽子がそれぞれ1個だけ回っているわけではなく,大量の陽子が塊となって,LHCの場合設計値では10^{11}ですが,実際にはもっと多くの陽子を1塊として使っています。そしてその塊が加速器の中に何個もあります。これまたLHCの場合全部で約2800個の塊を加速器の中に入れられるようになっています。ということを考えると,ルミノシティをあげるには,塊となっている陽子群の大きさを小さく絞るか,陽子の数を増やす(一塊あたりの陽子数を増やすか,塊の数を増やす)必要があります。このルミノシティ,LHCの設計値では10^{34}(cm^{-2}s^{-1})です。

一方,断面積は陽子と陽子が出会ったときにどれくらいの確率で反応するか,なので,人間にコントロールすることはできません。また,陽子ビームのエネルギーにも依存します。LHCの場合,ざっくり言うと約100mbという数字をよく使います(bは10^{-24}cm^2)。

以上を纏めると,ルミノシティ×断面積が単位時間あたりの反応数ですから,10^{34}×100m×10^{-24}=10^9となり,毎秒10億回の陽子陽子衝突反応が起きていることになります。

ただし,人に尋ねられて確かにややこしいと気づいたのは,私たちは陽子陽子衝突の頻度を尋ねられると40MHz(毎秒4000万回)と答えることがあります。これは何を言ってるかというと,先に説明した加速器内の陽子の塊同士がすれ違う(当たる)頻度なのです。つまり,10^{11}個の陽子が集まった塊が40MHzの頻度ですれ違うと,その塊には大量の陽子がいるので1回すれ違うことに平均すると25個の陽子同士が反応を起こすということなのです。25回の陽子陽子衝突反応が40MHzで起きていますから,25×4000万回=10億回の陽子陽子衝突反応が毎秒起きているということになります。

なぜ私たちが,陽子陽子衝突の頻度を尋ねられた時,毎秒10億回ではなく,40MHzと咄嗟に答えてしまうかというと,ルミノシティは加速器の調子により大きく変化するものですが,40MHzというのは陽子の塊の間隔でそれは加速器内の高周波で決まってくる数値なので一定。ということで答えやすいというのが一つにはあります。それから,実験的な観点では,陽子の塊同士がすれ違ったときに実際に何個の陽子が衝突反応していても,時間的に同時に発生する事象なので,1事象としか捉えられないからです。つまり,実際の陽子陽子衝突反応が1回でも25回でも100回でも,1事象というのは,陽子の塊同士がすれ違った瞬間生成される粒子たち全てを意味するのです。

さて最後におまけですが,ルミノシティというのは単位時間あたりにどれくらいの数の反応が起きているかの尺度になりますが,反応数の総数(ルミノシティの時間積分)を積分ルミノシティという数値で表します。ルミノシティの単位がcm^{-2}s^{-1}ですから,積分ルミノシティの単位はcm^{-2}になります。ということは,積分ルミノシティと断面積を掛けると,これまでに起きた陽子陽子衝突反応の数になります。たとえば,今年当初のLHCの目標は,今年中に10(fb)^{-1}の陽子陽子衝突反応を生成することでした。繰り返しですが,断面積は100mbですので,10(fb)^{-1}×100mb=10^{15}回の陽子陽子衝突反応数ということになります。

ある粒子がどれくらい生成されやすいかという尺度として私たちは断面積を使いますから,陽子陽子衝突の数よりも(積分)ルミノシティのほうが便利です。積分ルミノシティと目指す物理の断面積を掛ければどれくらいの数の信号が生成されているか概算できますので。それだけが理由かどうかは自信ありませんが,まあ,そんなわけで,私たち物理屋は滅多なことでは陽子陽子衝突の数を使うことはなく,積分ルミノシティを統計量の目安として使います。

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