ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

accuracyとprecision

今年度後半は3年生の物理学実験の授業を担当しています。α線源からのα線を金箔に入射させてその散乱角を測定するというラザフォード実験です。

各テーマ毎に学生はレポートを提出する必要があり,また,机上の勉強には慣れていますが,実験というものをあまりやったことがない上,その結果をレポートに纏めるという経験が今までなかった学生さんたちにとっては,わりと大変な授業の一つなのではないかと推測します。かく言う私も,学部生だった頃にレポートを書く時は,実験内容は書けても考察に何を書けばいいのかいつも苦心していました。

大雑把に言うと,考察する方向性として2つあります。一つは実験で得られる結果から物理に対する考察。実験というのは,ある理論モデル(仮定)が正しいかどうか,複数のモデルがあるときにはどれが正しいかを選び出すために行うことが多いので,自然と考察には実験結果と理論による予言の整合性,あるいは整合性がない場合はその原因およびalternativeとなるモデルの議論をすることになります。私たちがLHCでやっているヒッグス測定だったら,標準模型による予言値とあっているかどうか,何かズレ(=標準模型では説明しきれない物理法則の発見)がないかどうかを調べているのと一緒です。

もう一つの方向性は測定に関する考察です。自分たちの測定に間違いがないか,どれくらいの精度で測定できているのか,将来さらに高い精度で測定しようと思ったらどういう改良をすればよいか,こういう実験屋の視線で実験を振り返ることも重要です。

話は戻って,3年生の物理学実験のレポートを提出するのは各テーマの教員で,提出する時に軽く教員と質疑応答をします。ラザフォード散乱の場合,測定というよりも与えられたデータ処理のためにほとんどの時間を費やしてしまうため,測定そのものの考察というのはなかなかしずらいのだとは思いますが,それを差し引いても,学生さんの考察には2つ目の視点というものがあまり入っていません。その典型が,与えられた実験装置,測定装置を100%信じていて,較正されているかどうかということに考えが及ぶ人は非常に稀です。

言い換えると,precisionについては気にするというか,考えが及ぶ人はいるのですが,accuracyについては全く思いつかないようです。あらゆる測定では,実験装置によって得られた値を物理量に直すわけで,実験装置は必ず較正されていないとなりません。たとえば,温度計を渡されて,その温度計の表示が正しいかどうかをまず何らかの方法で示さなければ,その温度計の表示値をそのまま信じる実験屋はいません。何らかの基準値を使ってスケールがあっているかどうか=較正されているかどうかの確認が測定の第一歩なわけです。

そういう話題をふると,precisionが有限であることは学生さんも思いつくので,測定を繰り返すとか,複数の温度計を使うなどのアイデアは出るのですが,そもそも得られた値にバイアスはないのかというaccuracyを気にするアイデアはなかなか出ません。こちらでかなり誘導していってようやくそういう発想に至るということが多いです。もちろん,3年生当時の私だったら,この教員何言ってるんだろう?という反応だったと思います。慣れていない概念ですから,較正とか,accuracyというのは。

そもそも,accuracyって日本語でなんと書けばよいのかわかりません。何て書けばよいのですかね。precisionなら精度ですが,accuracyも下手したら精度(?)になってしまいそうです。なので,敢えて今回のエントリー途中からは,精度とは書かずに,accuracy/precisionをそのまま書いているのですが,accuracyについてはイマイチすっきりする単語が出てきません。正確さ,くらいでしょうか。

そういえば,昔どっかの学会で天文の人が最近の観測精度(この場合precision)の高さを危惧(?)して,precisionを上げるのは重要だがそれよりもaccurateかどうかはもっと重要だ。これからは,accuracyをもっと考えるべきだ,みたいなことを言ってたのを思い出しました。いいこと言うなぁと思って今もこうして脳裏に焼き付いているのですが,天文や宇宙に限らずどんな実験観測分野でも大切なことです。ただ,極論precisionがとてつもなく悪ければ,どういう結果でもaccurateになってしまいます。ATLASの実験結果についてもそういう部分があると,多くの人が考えています。Gaussianの1σは68%だということを忘れていそうな実験屋がいるのには呆れます。

研究 | コメント:0 | トラックバック:0 |
<<放射性物質移送手続き | HOME | LHCの2014年末の状況>>

この記事のコメント

コメントの投稿















コメント非公開の場合はチェック

この記事のトラックバック

| HOME |