ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

X(3872)を発見した男

ちょっと前の話になりますが,北京でのICFAセミナーに参加したとき,久しぶりにBelleをやってた(る?)SOさんと話をする機会がありました。

SOさんはアメリカ人ですが,トリスタン時代から日本で実験をやっているアジア好きのおじさんです。いや,Belleでもスポークスパーソンをやってたくらいなので偉い人なのですが,その彼の物理的興味はハドロン物理で,かなり高齢になった今でもハドロン物理に熱い情熱を注いでいます。セミナーでも彼のトークがあり,内容は私にはよくわかりませんが,情熱だけはちゃんと伝わってくるトークでした。

その彼がBelleをやっていたとき(私もBelleをやっていたときにお世話になりました)彼がX(3872)という粒子を見つけました。チャーモニウム(c-cbarの束縛状態)の励起状態の一つで,その後のBelleでのハドロン物理の草分けとなる重要な発見でした。ぶっちゃけると,素粒子以外に興味のない私はハドロン物理はもはや原子核物理と一緒で物理的な興味はありません。ですが,SOさんから北京で聞いた話は興味深かったというか,インパクトがあったというか,カッコよかったです。

X(3872)をどういうつもりで探したのか?という話題をふったところ,当時のBelleはBaBarとsin(2beta)測定の激しいレースをしていたので,とにかく統計を稼ぐためにチャーモニウム+Ksという終状態を多く探していただけだと言うのです。まさにその当時一緒に仕事をしていましたから,そういうモチベーションでSOさんたちはチャーモニウムをたくさん集めようとしていたのは知っていました。ですが,もともとハドロン物理に興味のあったSOさんたちは,きっと,普通の人(=既に存在をしってるチャーモニウムだけを探そうとする人)と違って,質量分布を注意深く眺めていたのですね。

SOさんいわく,質量分布を眺めていると変なバンプらしきものがあり,最初は統計のフレだろうと思い,データが増えればそのバンプは消えるだろうと思っていたんだそうです。ところがデータが増えれば増えるほどそのバンプはよりはっきりと盛り上がってきて,これは何かあるっ,ということになったのだそうです。いやー,こういうことを言ってみたいですね。ヒッグスを探しているときも似たような状況ではあるのですが,全く違うところが2つあります。1つめは,ヒッグスの場合あるのではないかと最初から予想して探していたこと。2つめは,ヒッグスの場合極めて大人数で色々なグループが探していたこと。この2つは,SOさんたちの場合と大きく異なります。この点を考えると,物理的意義はもちろんヒッグス発見にあると思いますが,実験屋が何かを見つけ田ときの驚きという観点からは,X(3872)の発見もかなりエキサイティングな瞬間だったに違いありません。

この話を当事者から聞くと,物理的な意味はよくわかりませんが,ハドロン物理や原子核物理をやってる人がなぜ面白いと思って彼らの研究をやっているのかがわかる気がします。なんでもいいから,世界で初めて何かを見つけぜと言うのは,研究者的には分野を問わず気持ちいい瞬間ですから。ただ,もちろん,有限の公費を使って研究は進められていますから,何かをやりたいと言った場合は取捨選択しなくてはならなくて,その選択は科学的な価値や波及効果でなされなければならず,一つのプロジェクトの予算規模が大きい素粒子物理分野にはそういう選択をいつも突きつけられているので,「俺が面白いんだからいいじゃん」という科学者本来の発想が他の分野の人よりも少ないのかもしれません。何が面白いのか説得してなんぼ,みたいな考えが染み付いているかもしれません。

それはさておき,SOさんがX(3872)を発見したときの本人談は非常に興奮しました。何かそういうものを見つけたいものです。

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