ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

カラーの自由度3

クォークにはカラーの自由度が3あります。RGB(red, green, blue)の3色で表現されるヤツです。教員的には,素粒子物理学実験の教養として,学生に知っておいて欲しい幾つかの実験結果がありますが,その中の一つがカラーの自由度3あることを示唆する実験だったりします。授業で取り上げることが多いのですが,電子陽電子衝突におけるハドロン対とミューオン対の生成断面積の比の測定がその実験です。

ミューオンもクォークもスピン1/2の点状素粒子だと思うと,電子陽電子衝突による生成ですから電磁相互作用を考えると,ミューオン対の生成とハドロン対の生成の違いは,ミューオンとクォークの電荷です。ミューオンは電荷の絶対値が1,uクォークだったら絶対値2/3なので,断面積の違いは電荷の絶対値の2乗を考えればよく,ミューオン対に比べてu-ubar生成の確率は4/9になります。実際に実験をやる場合,電子陽電子衝突の重心系エネルギーによって生成できるクォークの種類が変わります。cクォーク対を生成することのできるエネルギー以下だと,uクォーク対,dクォーク対,sクォーク対が生成され,それぞれの生成断面積はミューオン対に比べてそれぞれ,4/9,1/9,1/9になります。観測するのはハドロンですから,これら3つを足した物が見えてくることになり,ハドロン対生成断面積はミューオン対に比べて2/3(=4/9+1/9+1/9)となりそうです。

ところが,実際には下に貼り付けた図のように(図中のRがハドロン対生成断面積とミューオン対生成断面積の比),cクォークが生成されるエネルギー以下では2になっています。そうです,2/3に比べて実験値は3倍多いのです。それがクォークが3色あることの間接的証拠と考えられています。これだけだと信じられないという人は,cクォークは生成されるけどbクォークは生成できないエネルギー領域,bクォークも生成できるエネルギー領域それぞれも見てください。cクォーク生成の閾値以下ではRは2,それより上bクォーク生成閾値以下では10/3,bクォーク生成閾値を超えると11/3というように,きれいな階段状の振る舞いが見えます。

Ratio of hadron production to muon pair

というのが,素粒子実験の教養の一つなのですが,今日の授業でこれと似たような内容が出てきました。Wの崩壊比を考えましょうというもので,たとえば,W-->eνに行く崩壊比は,クォークにはカラーの自由度が3あることを知っていれば推測できます。Wの主な崩壊先は,eν,μν,τν,ud,csの5通りです。電荷の保存とトップクォークがWよりも重いことを知っていれば,この5通りにしかなりません。ただし,usのようにクォークのほうで世代を跨がる崩壊は今は考えないことにします。そして,上で説明したようにクォークには3つの自由度があるので,実際に崩壊する行き先としてはud,あるいはcsの場合は,それぞれ3通りあることになります。よって,eνが1通り,μνが1通り,τνが1通り,udとcsがそれぞれ3通りということで合計の行き先は9通りあります。細かい話をすると,終状態の質量とかを考えないとなりませんが,どれもWに比べると十分軽いということでそういう細かい話を抜きにすると,全部で終状態が9通りですから,W-->eνの崩壊比は1/9ということを推定できます。実験値が幾つかいうと,今PDGを見ましたが10.75%で,推定値1/9と非常に近い値になっています。そんなわけで,Wの崩壊比もクォークにはカラーの自由度が3あることを示唆しています。

先にも書いた通り,この手の教養というのが幾つかあって,授業やらゼミではおりにつけ説明するようにしています。学生さんにはぜひ理解しておいてもらいたいものです。

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