ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

BICEP2

だいぶ前に,BICEP2が宇宙背景輻射のBモード偏極,それも重力レンズの効果によってEモード偏極から作られたものではなく,原始重力波によって作られた(と考えるのが自然な)Bモード偏極を捉えたというニュースが大きな話題になっていました。もしその結果が正しければ,インフレーションモデルに大きな制限を与えることになるので,その結果を受けて理論屋さんはあっという間にとんでもない数の論文を書いています。

その後,前景事象(フォアグラウンド)の評価が間違っていたという噂が流れ,その噂についてインターネット上では関係者(?)からの発言も飛び出し,素粒子と宇宙論業界ではBICEP2でかなりの盛り上がりを見せていました。理論屋のIくんに軽くメールで解説してもらったり,先々週末の研究会ではKEKのTくんに丁寧に解説してもらったので,あまりタイムリーではありませんが,その噂の内容についてちょっと説明してみます。

Bモード偏極測定におけるフォアグラウンドを見積もるには,私たちが信号のサイドバンドの事象数から信号領域への背景事象のしみ込みを見積もるように,信号として見ている波長とは違う帯域でのデータを使います。ところが,BICEP2が観測している帯域は1つしかないので,別の帯域で観測している別の実験グループのデータが必要になります。BICEP2の観測帯域が1つかどうかは自信ありませんが,とにかくポイントは他の実験グループのデータが必要だということです。

そこで彼らがどうしたかというと,人工衛星を使った大型プロジェクトPlanckのデータを使いました。ところが,BICEP2が使ったPlanckのデータが正しくないのではないかという指摘が出ました。というのも,Planckがデータを更新して結果(=BICEP2にとってのフォアグラウンドの量)を出したのですが,その結果が,BICEP2が使ったデータと変わっていたのです。で,さらに話をややこしくしたのは,PlanckはBICEP2が観測している領域(全天の一部を観測しています)だけは結果を公表せず,それ以外の部分の結果だけ更新したのです。つまり,BICEP2が観測していない領域の結果だけ見せて,BICEP2がフォアグラウンドの評価に使ったデータと最新のデータでは違いがあるということを見せたのです。

BICEP2が見ていない空での結果は,最新結果のほうがフォアグラウンドが多くなっている傾向があります。なので,BICEP2がフォアグラウンド評価に使ったデータではフォアグラウンド量を過小評価しているのではないかという憶測が飛び交い,それをBICEP2も認めたという噂まで流れ,ワイドショーのような盛り上がりを見せました。ただし,BICEP2が間違いを認めたというのはあくまで,上記の内容を認めただけで,単に間違っていたとかそういうことではないようです。

じゃあなぜこんな事態になったかというと,PlanckがわざわざBICEP2が見ている領域の結果を隠して最新結果を出したからです。そこを見せちゃえば,前のBICEP2の発表のときのフォアグラウンド評価が正しいのかどうかわかるのに,敢えて隠してるところがミソです。なんでそんなことしたかというと,どうも,もしBモード偏極がBICEP2が観測したほど大きければPlanckでも観測できるから,らしいんですね。つまり,Planck自身で原始重力波によるBモード偏極を観測したと言いたい,という裏事情があるらしいのです。今注目してる帯域ではBICEP2の方が感度がいいのですが,もしそんなに信号の強度が大きいならPlanckでも観測できるじゃないか,ということで,BICEP2がフォアグラウンドを差し替えて結果を出す前に,自分たちで解析しちゃえという背景があるみたいなんですね。いやー,争ってる感じがして,外から見てる分にはなかなかに楽しげです。

しかし,Tくんいわく,BICEPというのは感度が他の実験に比べて格段に高く,日本では宣伝されていませんでしたが,もともとBモード偏極観測業界では王様なんだそうです。その王者は,BICEP2のマイナーアップグレード版(?)といえる実験ですでにBICEP2並みの統計を貯めている上,さらにBICEP3と呼ばれる次の実験の計画もあるそうで,これからの逆襲が楽しみです。

とまあそんなわけで,BICEP2の結果が正しいのかどうか,フォアグラウンドの評価が正しかったのかどうかは,Planckの最新結果待ちという状況です。年末にある大きな会議に向けて結果を出してくるのではないかと噂されているそうなので,年内にはこの議論に決着がつくのですかね。楽しみです。

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