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粒子の性質の違いその2

前々回の話の続きで,粒子の性質-特に物質との相互作用の仕方-の違いについての説明です。

都合上,以下のように粒子を分類しました。
- 電子
- ミューオン
- 陽子の仲間たち(荷電ハドロン)
- 光子(γ線,X線)
- 中性子

前々回のエントリーでは,電子,ミューオン,荷電ハドロンが物質を通過すると物質をイオン化させて,持っていた運動エネルギーを失っていくということをお話しました。だから,基本的には物が厚いほうが荷電粒子を通しにくくなるというのが一つのポイントでした。あ,正確に言うと物質の密度も考慮に入れて,同じ物質なら厚い方が,同じ厚さなら密度の高い物質の方が荷電粒子を止めやすいということになります(正確には密度ではなく別の指標=放射長というものを使わないとならないのですが,ざっくりと密度と思ってもらっても大きく違ってることはありません)。ところが電子の場合,あるエネルギー以上になると制動輻射によってγ線を放出するほうが主要なエネルギー損失メカニズムとなり,電子とγ線の物質中での反応は似たものになるということも説明しました。今日はそのあたりの事情から書き始めます。

電子はγ線を放出すると,その放出したγ線のエネルギー分だけ電子自身の運動エネルギーは小さくなります。そしてまたその電子は制動輻射によりエネルギーを失い...ということを繰り返してエネルギーが徐々に小さくなっていきます。制動輻射の確率は運動エネルギーの減少とともに減少しますので,徐々に制動輻射よりもイオン化損失によるエネルギー損失の方が大きくなっていき,最後は制動輻射を起こさないような低エネルギーになり,その後はイオン化損失だけとなります。

一方,上記の過程では何度もγ線が放出されます。γ線,というか光ですね,と物質との相互作用には大きく分けて以下の3パターンがあります。
1) 光電効果(光が原子に吸収されて,光電子が放出される。終状態は光電子のみ)
2) コンプトン散乱(光が原子中の電子を叩き出す。終状態は入射して散乱された光子と叩き出された電子)
3) 電子陽電子対生成(その名の通り電子・陽電子対が生成される。終状態は電子と陽電子)
エネルギーが低ければ低いほど1>2>3の寄与が重要になり,エネルギーが高くなると3>2>1となります。可視光だと1)ばかりですし,高エネルギー物理で扱う領域だとほとんど3)になります。いずれにせよ,荷電粒子と違って物質を通過すると通過した分だけイオン化損失するということがなく,ある距離進むとある確率で上記の反応が起こります。

ということは,です。電子が物質に入射して制動輻射によりγ線を作ると言いましたが,そのγ線もまた電子陽電子対を生成し,そしてその電子あるいは陽電子がまたγ線を放出し...という過程がエネルギーが小さくまで繰り返されることになります。つまり,電子でもγ線でも物質に入るとγ線→電子陽電子対→γ線ということを雪崩式に繰り返していきます。これを電磁シャワーと呼び,そのシャワーを見ただけだとγ線と電子の区別をするのは容易ではありません。つまり,電子あるいはγ線のエネルギーを測定する検出器的にはどちらも同じようなもんだというわけです。

ということで,これで中性子以外の説明が終わったとして,最後は中性子の反応です。

中性子は光子同様電荷を持っていませんので,物質を通過してもイオン化損失がありません。なので,荷電粒子に比べると遥かに物質を通過しやすくなります。電磁相互作用をしない中性子がどうやって物質と相互作用を起こすかというと,強い相互作用になります。物質中の原子を見ると,中心にむっちゃ小さい原子核があって,その中心から遥か離れたところに原子核を囲むように電子の雲があります。だからこそ荷電粒子が物質に入るとその電子雲と相互作用を起こすのですが,原子核は電子雲の広がりに比べて遥かに小さいので,原子核と衝突・反応するのはなかなか大変です。なので,中性子は強い相互作用をしようと思ってもなかなか相互作用しないで物質中を進んでしまいます。

しかし,物質には原子がむっちゃたくさんありますから,ある程度物質中を進めばそれなりの確率で原子核との相互作用が起こります。その相互作用によりπをはじめとするハドロンが生成されます。で,今度はそのハドロンがある程度進むとまた強い相互作用を起こして別のハドロンを作る。そしてまた生成されたハドロンが別のハドロンを作るということが繰り返されます。この過程は電磁シャワーと同様に雪崩式に続きますのでやはりシャワーと呼ばれ,電磁シャワーと区別してハドロンシャワーというように呼ばれています。中性子だと強い相互作用しかしないので,このハドロンシャワーが物質中での相互作用と思ってよいのですが,荷電ハドロンだと一番先に説明したイオン化損失もあるので,その点はご注意ください。

電磁シャワーは電子の制動輻射,あるいはγ線の電子陽電子対生成が元になっていますが,ハドロンシャワーはハドロンと原子核との相互作用が元になっています。先に書いたように物質中の電子雲が大きく広がっているのに対して,原子核は空間の極めて狭い部分を占有してるに過ぎませんので,強い相互作用を起こす確率は電磁相互作用を起こす確率に比べて非常に小さく,同じエネルギーの粒子が入射したとすると,電磁シャワーに比べてハドロンシャワーのほうがオーダーとして10倍くらい大きくなっていまいます。入射粒子のエネルギーが電磁相互作用により1/eに減衰する距離をradiation length(放射長;X0)と呼び,強い相互作用により1/eに減衰する距離をnuclear interaction length (λ)と呼び,上記のように同じ物質だとX0はλのオーダー10倍くらいになります。たとえば鉃だとX0=1.8cm,λ=17cmです。ハドロンシャワーは電磁シャワーに比べてエネルギーを落としづらい。それゆえ,イオン化だけでは運動エネルギーを失うのが難しいような粒子を扱っている場合(=高エネルギー実験),ハドロンは電子や光子よりも止めにくいということになります。

逆に粒子を同定しようというときは,この違いが役立ちます。つまり,物を並べておいて,その物質に入射直後にシャワーを作るのが電子あるいは光子,しばらく進んでからシャワーができたらそれはハドロンシャワー,つまり,ハドロンが入射した確率が高いということになります。加えて,電磁シャワーでは生成される粒子もまた電子や光子なので,電磁シャワーの広がりそのものがハドロンシャワーに比べると小さくなります。ハドロンシャワーに比べて空間的に高い密度にエネルギーを落としているかどうか,というのが電磁シャワーとハドロンシャワーの識別に使えることになります。

とまあ,ごちゃごちゃ書きましたが,多くの場合放射線というとβ線あるいはγ線なので,そこら辺の性質を掴んでおけば私たちがやってる測定については理解できるのではないかと思います。

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