ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

粒子の性質の違い

前々回のエントリーで,性能試験-たとえば検出効率-を測定したい検出器があったら,その検出器を別の検出器2つで挟み,その2つの検出器が粒子を検出すれば,試験したい検出器を粒子が通過したことがわかると書きましたが,そもそも粒子が検出器すなわち物質を通過するのかしないのかは,お前にとっては常識でも普通の人には常識ではないと言われました。ごもっともです。そこで今日は,粒子が物質に入射するとどういうことが起こるのか,物質を通過するのかしないのかということについて軽く説明しようと思います。

忘れる前に書いておきますが,粒子と物質との相互作用を利用してどうやって粒子を識別するのか,みたいな話をだいぶ前に書いたことがあり,それをここの一覧の下の方にリストアップしているので,興味のある方はそちらも合わせてご覧ください。

さて,粒子といっても色々な粒子が存在しますが,説明の都合上,以下のような分類をします。
- 電子
- ミューオン
- 陽子の仲間たち(荷電ハドロン)
- 光子(γ線,X線)
- 中性子

この中で,電荷を持つのが電子,ミューオンそして陽子の仲間たちです。これらを総称して荷電粒子と呼びますが,まずはこれらに共通の性質について。

荷電粒子が物質に入ると,物質を構成する原子と電磁相互作用をします。その結果,入射した荷電粒子の運動エネルギーが原子を電離することに使われ,徐々に粒子は運動エネルギーを失っていきます。ですので,物質に入射している時にもっていた運動エネルギーが全て電離に使われたところで粒子は止まってしまいます。このように物質を電離させることでエネルギーを失うことをイオン化損失と呼びます。もし粒子のエネルギー損失がこのイオン化損失だけだとしたら,粒子が通過できる物質の厚さは,入射エネルギーによって決まってきます。実際に,ミューオンは通常のエネルギー領域=数100GeV程度以下では,イオン化損失がエネルギー損失の大部分なので,通過できる物質の厚さはミューオンのエネルギーに比例します。

また,荷電ハドロンはクォークからできていますので原子中の原子核と強い相互作用をすることもあるのですが,原子に比べて原子核は無茶苦茶小さいので,今はとりあえず強い相互作用を忘れてもらい,ミューオンと同様の振る舞いをすると考えてもらっても構いません。ただし,高エネルギー物理実験で扱うエネルギー領域では(それよりもっと下から)強い相互作用の寄与もそれなりにあるのですが,それについてはまた後ほど。

荷電粒子の中で,電子の振る舞いだけは更なる注意が必要です。とにかく他の粒子よりも軽いことに特徴があります。もう一つマイナーな点では,相互作用する対象である原子中の電子と同種粒子であることも真面目な計算をするときは注意が必要です。そんな真面目な計算をすることは滅多にないので,私は普段忘れてしまっていますが。。

電子は軽いがゆえに,物質に入射すると制動輻射といってγ線を放出します。制動輻射を起こす確率は電子の速度に依存して,速ければ速いほど制動輻射により多くのエネルギーを失います。LHCで扱う数GeVとか数10GeVのエネルギーだとエネルギー損失のほとんどは制動輻射になり,イオン化損失はもはや無視できるようになります。というわけで,通常私たちというか私個人は電子というと,すぐに制動輻射でγ線を出すものなので,γ線と同じようなものと考えています。

一方で,放射性物質の崩壊によって出てくるような電子,世間でよくβ線と言われてるような電子のエネルギーはせいぜい1MeV程度で,その領域だと制動輻射よりもイオン化損失が主なエネルギー損失の原因となります。ざっくり言っちゃうと先に書いたミューオンのような振る舞いになります。ちなみに1cmの水があれば2MeV程度以下の荷電粒子はイオンか損失によって全運動エネルギーを失ってしまいます。なので,むっちゃざっくりと世間で言われてる「β線は透過力が弱い」というのは,ここら辺の事情によります。電子の場合,エネルギーによって振る舞いが大きく違うというわけです。

ところで,先の例だと,試験したい検出器DUTの前後に検出器AとBを置き,AとBが粒子を検出したらそのときはDUTを粒子が通過してると考えてよいと書きました。その仮定のもとでたとえばDUTの検出効率を算出したりします。この際に使っている粒子がミューオン-特にそれなりの運動量で飛んでくる宇宙線ミューオン-だと非常に話は簡単なのですが,たとえば低エネルギーの放射線源から放出されるβ線なんかだと話がややこしくなります。

というのは,1MeVだったとしてもそこそこの確率で制動輻射を起こしますので,エネルギー損失がイオン化損失だけでなく,生成されたγ線による持ち逃げかもしれません。また,説明していませんでしたが,荷電粒子が物質に入ると物質中の原子との散乱がありますので,物質中を進むにつれ,入射したのと違う方向に曲がっていく場合もあります。この散乱角度は入射粒子の運動量と速度の逆数に比例するので,遅い粒子は大きな角度で散乱されます。ということは,粒子が検出器A・DUT・Bを真っすぐに通過しないで,Aに斜めに入射してDUTには当たらず,しかしDUT周りの物質で散乱されてBには入射なんていうこともそれなりの確率で発生します。こうなるとAとBが粒子が検出したときを母数としてDUTの検出効率を算出するのは間違いになってしまいます。

逆に,エネルギーの高い電子の場合も,制動輻射の効果が大きくて,後述しますが高エネルギー電子が物質に入ると電磁シャワーというものを作ってしまい,これまた話がややこしくなります。ということで,検出効率の測定に使う粒子としてはミューオンが理想的,それが使えないなら,荷電ハドロンを使いたいということになります。ただし,加速器で使える粒子が陽子と電子のため,ビームテストなどでは陽子,それから陽子を標的に当てることで生成する荷電π,そして電子がよく使われています。

いずれにせよ,放射線源から得られる低いエネルギーのβ線は,検出効率の測定用プローブとしては適していません。実際,今私たちのグループでは,シリコンセンサー中に落とす粒子のエネルギーを測定しようとしているのですが,線源を使った試験では思うような結果が得られていません。Hくんがイスだけでなく色々と調べているのですが,未だに想定しているエネルギー損失量を量れていないのがなぜなのかわかっていません。

...話の続きがあるのですが,もうだいぶ長くなってしまったので今日はここら辺で辞めておきます。

研究 | コメント:0 | トラックバック:0 |
<<門真運転免許試験場 | HOME | 知らないときは罰せられない?>>

この記事のコメント

コメントの投稿















コメント非公開の場合はチェック

この記事のトラックバック

| HOME |