ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

検出器の試験に使う粒子

素粒子物理実験では,検出器を自分たちで作ることが多々あります。大規模な実験になればなるほど,最先端の技術を投入して,実験目的に合わせた検出器を自分たちで作ることになります。私たちもシリコン検出器を開発しているのは,欲しい性能を持った検出器を売ってないからです。検出器開発そのものが面白くて,素粒子物理とういよりも検出器屋という人も中にはいますが,まあ,基本的には要求性能を満たす検出器は自分たちで作るしかないというのが現状です。

どんな検出器開発でも同じだと思いますが,最終的には作ったもの,プロトタイプを試験する必要があります。想定どおりの検出効率が出ているのか,位置分解能はどれだけなのか等々を私たちの場合は,粒子を使って測定します。たとえば,検出効率を測定したいなら,測定すべき対象(Device Under Test: DUT)の前後に別の検出器を設置し,入射粒子をDUTの前後の検出器が検出したときのDUTの反応を調べることになります。DUTの前後の検出器が粒子を検出したということは,入射粒子がDUTを高い確率(DUT前後の検出器にノイズが多いときは,ノイズで偶然前後の検出器が鳴る場合がありますので,偶然ノイズによる偽事象の確率も実際には考えないとなりません)で通り抜けたことを意味しますから,そのときにDUTが信号を出力しているかどうかを見れば検出効率を測定できるわけです。

さて,ではどういう粒子を試験に使うかというと,一番身近で手っ取り早いのが宇宙線中のミューオンです。宇宙線ミューオンは,4年生の卒業研究でも大活躍しますが,素粒子原子核関係の検出器を触ってる人間にとっても非常に重宝する粒子源です。他によく使う粒子源としては放射線源がありますが,素粒子物理実験用の検出器試験では放射線源では上手く機能しない場合が結構あるので,本当に宇宙線にはお世話になっています。

ただし問題はレートです。この業界でよく使われている言葉に「宇宙線(ミューオン)は掌に1秒間に1発降ってくる」というものがあります。約100平方センチ当たりに1ヘルツの頻度だと思ってください。ですので,試験すべき検出器が大きい場合は宇宙線ミューオンは非常に有効なのですが,検出器が小さいときはなかなか苦労します。私たちが開発しているシリコンピクセルセンサーは,一つのピクセルの大きさが数10μmから数100μmオーダーですので,1つ1つのピクセルに対する試験というのはほぼ不可能です。ピクセル全体としての性能評価は頑張ればできますが,それでも,DUTの上下にDUTに宇宙線が入射したことを知るための検出器を置いた場合,飛んでくる宇宙線の方向を絞ってしまうことになるため,先の1Hz/平方センチの頻度よりも更に落ちてしまい,1センチ角程度の大きさの検出器の性能評価を宇宙線でするというのはかなり厳しくなります。

じゃあどうするかというと,加速器を使った粒子ビームを使います。所謂ビームテストというやつです。特定の領域に高い頻度で粒子が飛んで来ますので,ピクセル検出器のような小さな検出器でもテスト可能になります。でも,そういう加速器がどこにでもあるわけではなく,まして,私たちが使いたいような高いエネルギーを持った粒子を生成できる加速器というのは世界でも限られているため,ビームテストですら国内ではやれなくて,外国に行ったりします。CERNやDESY,
SLACなど色々なところに行ってやるしかなく,ビームテスト用の良い施設が欲しいよね,というのが検出器開発,特にシリコン検出器開発をしている人の口癖のようになっています。

私たちシリコングループでは,100GeVを超えるハドロンを使えるのでCERNでビームテストをやれるのが理想なのですが,LHCだけでなくその前段加速器たちも今はシャットダウン中のためCERNでは今ビームテストをやれなくて,仕方なく低エネルギーではありますがDESYの電子ビーム(数GeV)を使った試験をときたま行ってきました。が,そのDESYの電子ビームもしばらくお休みということで,CERNのビームが出るまでは数GeV以上のビーム源というものが本当に少なく,これまでビームテストで使ったことのなかったFermilabのビームラインで試験をやれないかその可能性を探ることになりました。

Fermilabでビームテストをやれればもちろんそれはそれでよいのですが,ビームテストのためにわざわざ国外まで行かないとならないとうのはなかなかに辛い状況です。せめて1GeVくらいでもいいので自分たちが自由に使える加速器が身近にあるとよいのですが,まあ,無理な相談ですかね。その点,原子核の人,特に低エネルギーの原子核の人は,そこら中に実験施設があって,むっちゃ羨ましいです。

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