ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

Fine Tuning 問題(微調整問題)とSUSY現状

ほぼ現実逃避で,いきなりSUSY探索の現状について書いてみます。

ヒッグスが存在すると,ヒッグス質量を100GeV程度にするには,裸の質量項と輻射補正による項が物凄い精度で釣り合ってないとならないという事実があります。その精度が非常に高いことから,なぜ自然はそんなに上手くバランスをとっているのだろうか?という疑問が生まれ,この謎のことをFine Tuning問題とか微調整問題とか呼んでいます。この辺の事情は大昔に「Fine Tuning問題とか」というタイトルでエントリーを書きましたので,もしFine Tuning問題って何?と思う方はそのエントリーを読んでから,次に進んでもらうのがよいかと思います。

宇宙あるいは自然が恣意的とも思えるような高い精度での微調整を行わずとも"自然に"ヒッグスの質量が観測値になるはずだ,という考え方がFine Tuning問題の根底にあることから,微調整問題はあってはならないという考え方ことをnaturalnessと呼んでいます。そして,先にリンクをはったエントリーでも紹介しましたが,SUSYを愛している(?)人のモチベーションの一つがnaturalnessだったりするんですね。1%とか0.1%という微調整をしなくてもSUSYがあればヒッグスの質量が100GeV前後でもnaturalnessという考え方に接触しない,というのがSUSYがこの宇宙に存在する対称性であるというモチベーションの一つだというわけです。

では,SUSYはまだ見つかっていないという現状からnaturalnessを考えるとどうなの?というのが今日のお話です。

皆様ご存知のように,残念ながらSUSYは見つかってなくて,第3世代は除いてスクォークとグルイーノはかなり重そうだ,一声1TeVよりは重そうだというのが実験の現状です。で,ヒッグスの質量がネタであるFine Tuning問題で一番重要なのは(たぶん)トップクォークの超対称性パートナーであるストップの質量です。ヒッグスの質量は,裸の質量と輻射補正による寄与なのですが,輻射補正に強く寄与するのがストップの質量だからです。

ところが,このストップの質量が曲者です。というのは,ヒッグスの質量が126GeVとわかった今,ストップ質量にも制限が与えられ,その制限を満たそうとするとやっぱり微調整しないと=裸の質量と輻射補正の寄与が1%とか0.1%の精度で釣り合ってないとならないということがわかってきたのです。

本筋とは少し離れてしまいますが,この辺の事情をもうちょっとだけ書くと,ヒッグス質量がわかったことによって既知だった真空期待値と合わせると,ヒッグス場のポテンシャルの形が理論上決まってきます。この形を実証すべく自己結合定数を測定したいというのがHI-LHCの動機の一つだったりするわけですが,とにかく,"理論上は"ポテンシャルの形が決まります。ヒッグスポテンシャルは

V = -m^2(H*H) + λ(H*H)^2

という形で書けて,ヒッグス質量の測定値などからmとλの値が決まってくるのです。で,問題は,SUSYの枠組みでその値を出そうとすると,m^2からはストップの質量は軽くあるべし,λからはストップ質量は重くあるべし,という制限が生じることです。矛盾した数値的な制限が与えらてしまい,その矛盾に打ち勝とうとすると,どうやってもヒッグスの裸の質量(上記のmではありません。上記のmは m = μ(裸の質量) + 補正項のつもりで書いてます)が大きくなり,ヒッグス質量126GeVに対して裸の質量μが1.5TeVとかになってしまい,0.1%よりも高い精度の微調整が必要ということになってしまうのだそうです。「だそうです」というのは,この前の集中講義のときだったかに,T大のHくんから聞いたことを今そのまま書いているからです。ははは。

さて,そんなわけで,SUSYを愛する人たちのモチベーションだったnaturalnessという考え方は,実験結果から窮地に追い込まれています。そんな人々が取りうる選択肢は次の3つです。1) SUSYをあきらめる,2) naturalness至上主義で,なんとか軽いSUSYで頑張る=Fine tuningしないで済む方法を考える,3) SUSYとnaturalnessは別物と考えて重いSUSYを考える=Fine tuningしちゃいましょうと考える。

理論屋,実験屋ともにSUSYな人たちはこのどれかで頑張るので,って1)は頑張ってないけど,最近の研究会では軽いSUSYで頑張るか,naturalnessを諦めて重いSUSYにいくか,というのがよく議論されています。いずれにせよ,ストップの質量というのはnaturalnessに強い制限を与えているみたいなので,発見できなくとも,ストップ質量に制限を付けることはSUSYの枠組みを考える上で重要みたいです。

ちなみに,ATLASでのストップ探索では質量の下限値として200から500GeVくらいを与えています。第3世代は第1,2世代よりも軽くてよいこと,実験的には第3世代の生成断面積が第1,2世代よりも小さいことから,他のスクォークたちよりも下限値がだいぶ小さくなっています。

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