ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

ヒッグスの論文と南部さん

科学者が論文を書くとか投稿するとか言いますが,その投稿先は色々な専門雑誌です。じゃあ,雑誌に投稿すればどんなものでも掲載されるかというとそんなことはなくて,専門家による査読というものがあります。じゃあ,その査読をするのは雑誌社の編集者かというとそんなことはなくて,投稿された論文に応じてその道の専門家にこっそりと(?)査読をお願いします。その査読者のことをレフリーと呼んだりしますが,ヒッグスがヒッグス機構を世に出した論文のレフリーが南部さんでした。

ヒッグスの論文が凄いというか,今年のノーベル物理学賞を受賞できたのは,その論文の中でヒッグス粒子の存在を明確に予言したことだと言われています。しばらく前にこのブログでも書きましたが,ゲージ対称性を保ちつつ相対論の枠組みの中で南部・ゴールドストンボソンを消すための仕組みは,アングレールとブラウのほうが先に論文として発表していました。ヒッグスの論文は基本的にはアングレール・ブラウと変わりないのですが,ただ一点,しかも数行だけなのですが,アングレール・ブロウの論文と違うのは,スカラーポテンシャルを入れたラグランジアンをexplicitに論文中に書いて,そのポテンシャルに付随する量子(=今我々がヒッグス粒子と呼ぶものです)が存在するはずだ,と書いてあるところです。その数行があるからこそ,ヒッグスがノーベル賞を貰えたわけで,かつ,CERN上層部の考えとは別に,スカラー場に付随している粒子のことを世間ではヒッグス粒子と呼ぶことになったわけです。

面白いのは,この数行に関して世間に伝わっている伝説があります。その重要な数行をヒッグスの論文のレフリーだった南部さんが付け加えるようアドバイスしたのではないか,という説があるんですね。レフリーは,論文の内容を吟味して,おかしいところを修正するように,解析内容が不十分だったら追加として何らかの結果を見せるように,あるいは,文章の表現の修正を求めたり,まあそういうことをします。そういうことなしで全然ダメという場合もありますし,そういうやりとりなしに査読をクリアしてしまうこともありますが,一般的には論文執筆者となんらかのやりとりがあります。ヒッグスの論文では,その数行がなければノーベル賞を貰えなかったかもしれない最重要の数行を付け加えることを南部さんが指示したのではないか,という伝説(噂?)があるのです。

本当のところはわかりませんし,マスコミにそういうことを聞かれた南部さんは覚えてないと答えたらしいのですが,科学史事情通,歩く百科事典のKさんによると,南部さんがヒッグスに出した本当のコメントというか修正要求は,アングレールとブラウがすでに同じアイデアを論文にしてるのでその論文を参照しなさい,というものだったのではないかと言われているのだそうです。そういう伝説があったほうが面白いので真相はどうでもいいと思いつつ,でもやっぱり下々としては本当のところどうだったんだろう,と気になります。しかし,ヒッグスと自発的対称性の破れを唱えた南部さんという組み合わせだったら,どんなエピソードでも伝説になってしまうんでしょうね。

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