ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

照射試験その2

東北大学での照射試験から1週間ほど経ちました。続きを書く,みたいなことをそのとき書いたと思うのですが,その後何も書いていなかったので,時間がなくて前回触れられなかったことについて今日は少しお話します。

照射試験というのは,前回も説明したように,基本的にはシリコンセンサーに放射線をたくさん当ててダメージを与えることが本質です。しかし,ただ放射線を当てていればよいというものではありません。大きく言って2つ大事なことがあります。

一つ目は,シリコンセンサーに当てた放射線の量をなるべく正確に知る,ということです。使っているビームは陽子だとわかっているので,ビームの電流値をリアルタイムで正確にモニターすることができれば,センサーに入射した陽子の数を求めることができます。(電流の定義は,とある断面を通過した単位時間あたり電荷量です。陽子の電荷量は1.6x10^{-19}だとわかっているので,測定した電流値とビームを当てていた時間から,入射陽子数がわかります。)

LHCなんかだと,リング内を回っている陽子の数というか電流値をモニターできるのですが,私たちが使ったビームラインではリアルタイムでセンサーへの入射陽子の電流値を正確に測り,それを随時記録しておくというシステムがありません。そこで,入射させたい陽子の数に合わせて,照射前の陽子の電流値から照射時間を逆算し,その時間だけ陽子ビームをセンサーに当てるということをします。

ただ,これでは,それほどの精度が出ないので,シリコンセンサーと一緒にアルミを入れておき,ビーム照射後にそのアルミがどれだけ放射化しているかを測定することで,実際の入射陽子数を見積もります。アルミの放射化度合いは,高分解能のゲルマニウム検出器を使い特定の放射性物質から放出されるγ線を同定,その量を測定することでわかります。

少し長くなりましたが,照射陽子数の正確な評価というのが,今回の実験での大切なポイントとなります。って,なぜそれを知りたいかを言ってませんでしたが,私たちの究極の目標は,センサーがどれだけの放射線を浴びると,性能がどのように変化していくかを調べることなので,個々のセンサーにどれだけの放射線ダメージを与えたかを定量的に知っておかなければならない,というわけです。

そしてもう一つ大事なのは,実験している私たちが浴びる放射線量を最小化するということです。もちろん,健康に問題があるようなレベルの放射線量ではありませんし,法令で定められた上限値よりは遥かに小さいのですが,それでも油断してるとかなりの放射線を浴びてしまいます。照射中は当然ビームラインに入らないので全く問題ないのですが,問題は,後片付けです。

強度の高い陽子ビームが入射していたビームダンプ周りで後片付けの作業をしないとならないので,放射線取り扱い講習で習うALARAを強く意識して行動します。ちなみに私がこれまでに経験した中では最も高い放射線環境でした。持っていったカウンターでそこら辺を測りながら片付けの作業をしていたのですが,強度は距離の逆2乗に比例するということを強く実感しました。まさにALARA通りで,少しでも強い放射線源からは遠ざかり,少しでも短い時間で作業を終える,ということを心の片隅ではずっと意識していました。あ,ちなみに,ALARAというのは,As Low as Reasonably Achieval(だったかな?)の略で,放射性物質からはなるべく距離を置き,作業時間を最小化することで,浴びる線量を減らそうという考えのことです。

あと,厄介なのは,陽子ビームを照射したシリコンセンサー自体も,放射性物質となっていることです。大学の研究室に転がっているチェッキングソースくらいの弱い放射線しか出しませんが,それでも,法令的には特別な取り扱いを要するレベルなので,ビームラインから持ち出したりするのは結構面倒です。ある一定のレベル以下にまで放射線量が下がらないと管理区域外に持ち出せませんし,その後も,輸送などの際にはきちんと放射線レベルを測定し,ある基準値以下にまで下げないと輸送できません。

ちなみに,私たち自身も管理区域から外に出る時にはイチイチ被曝量を測定し,被曝していないことを確かめてから外に出ます。人間だけでなく,管理区域からモノを外に出すためには,あらゆるものの線量を測ってからでないと持ち出せません。

とまあ,そういうわけで,私にとっては未知の体験ばかりだったので,非常に興味深く実験をやることができました。あと,余興として,ちょっとした装置のトラブルがあったのもよかったです。あまりに順調だと面白くないし,あまりに不調だと実験の目標を達成できず非常に困ってしまいます。が,今回は1時間くらい右往左往した結果,装置の不調を回復することができたので,実験のスパイスとしてちょうどいいトラブルでした。

現場でのトラブルって本当に興奮(?)します。どうやって問題を見つけ,どうやって復旧するのか,それを限られた時間の中でやらなければなりませんし,もし時間内に復旧できないようなトラブルだった場合実験計画を変更せざるを得ませんが,その際,やれる範囲で何を優先的に測定していけばよいのか即断しなければなりません。まさに脳味噌フル回転で,一緒に実験してる人と熱い議論になるのですが,そのプロセスは本当に楽しいです。実験現場って楽しいなぁと強く思える瞬間でした。

長くなりましたが,放射線照射試験の続きでした。

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