ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

霧箱に写真乾板

修士の学生とやっているゼミが面白いです。私が楽しんでいるかどうかではなく,学生が楽しんでいるかどうかのほうが重要なのですが,とにかく私にとっては非常に面白い内容です。

少し前のエントリーに書きましたが,やっているのは,過去の有名な論文を集めた教科書です。手始めに陽電子の発見をやり,その後,ミューオン,パイオン,そしてパイオンの崩壊をやりました。どの実験も粒子のソースとして使っているのは宇宙線。まだ加速器が使われていなかった時代の話です。今でも宇宙線は重要な,粒子のソースとして使っていますし,宇宙線そのものの研究も脈々と続いていて今だ最先端のテーマであり続けています。ですから,私にとっても宇宙線自体は身近な存在(?)なのですが,上記の実験で使っている検出器は私にとっては身近ではありません。

霧箱,泡箱,そして写真乾板,これらが主な検出器というか,使われているのはほとんどこれだけです。にもかかわらず,ミューオンとパイオンの識別までしているというのは,私にとって非常に新鮮です。

これらで何がわかるかというと,荷電粒子の飛跡です。私がしょっちゅうシリコン,シリコンと言っていますが,それも荷電粒子の飛跡を測定するものですが,それと基本的には同じことをします。ただ,もちろんその手法はシリコン検出器とは大きく違っていますが,目的は一緒です。しかも私が驚いたのは,写真乾板でdE/dxまでちゃんとわかるということです。

dE/dxというのは,荷電粒子が物質を通過すると物質を電離させることにより失う運動エネルギーのことです。このdE/dxは粒子の速度に依存して決まる量なので,dE/dxを測定できれば粒子の速度を間接的に求めることになります。

さらに,粒子が物質中をどれだけ進んで止まるかは粒子の運動エネルギーに依存しますので,物質中をどれだけ進んだかを測ればその粒子の運動エネルギーもわかります。運動エネルギーと速度がわかれば,その粒子の質量がわかります。粒子の質量というのは,粒子のアイデンティティと言ってもよい量で(話題ずれますが,だからこそ素粒子の質量を決めるヒッグスの性質というのは興味深いのです),粒子の質量を測定して既知の粒子の質量と比べれば,測定した粒子の種類が特定できます。あるいは,新粒子の発見ということになります。

ちょっと回り道しましたが,写真乾板一つで,写真乾板中を粒子がどれだけ進んだかで粒子の運動エネルギーがわかり,ここから先が私の驚いたところなのですが,写真乾板中で作った銀の粒の数を数えることで粒子が写真乾板中で落としたエネルギーすなわちdE/dxを測れるのです。結局,この2つの測定量から捕まえた粒子の質量がわかる=粒子種の同定を行えるのです。粒子がどれだけ進んだかを測定できるというのはすぐにわかることですが,(表現が難しいですが)感光した銀の粒の数でdE/dxを測定できるというのは考えてもみませんでした。実際には顕微鏡を使ってその粒の数を数えるらしいです。

年配の人からしたら,そんなことも知らないのかと呆れられることなのだと思いますが,使ったこともなければ見たこともない技術なので,非常に新鮮でした。ニュートリノの実験で粒子の位置を非常に高い精度で測定するという目的で写真乾板が今も使われているのは知っていますが,dE/dxまで測っていたとは驚きです。もちろん,私たちが扱うような高エネルギーではなく,物質中で止まってしまうような極めて低エネルギーの実験なので私にとってはより新鮮なわけですが,それにしても,パイオンとミューオンの質量差までちゃんと見えているというのはびっくりです。

私たちの研究室では,宇宙線中のパイオンを識別するというテーマで4年生が卒業研究をやったことがありますが,それが結構難しいことを知っていたので余計に驚きました。高度の高いところでやるのと大学でやるのとでは,パイオンとミューオンのフラックスの比が大きく違うからなのかもしれませんが,写真乾板でdE/dxがちゃんとわかるというのは勉強になりました。

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