ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

ミューオンもパイオンも知らなかった時代

The Experimental Foundations of Particle Physics という有名な本を今日ちらっと眺める機会がありました。この本は,素粒子物理学の超有名な論文を基本的に集めただけの本で,各章のはじめにその章で書かれている内容のあらましが書いてある,そういう構成になっています。修士過程の学生とやるゼミでは2年に1回の頻度でこの本をやろうかな,と思い始めていまして,今年はその当たり年になっているので,どこからやろうかとさっと斜め読みをしてみました。

一昨年はやらなかった箇所で,非常に古い話,たとえば陽電子の発見とか,その後に続くミューオンやパイオンの発見のあたりを斜め読みしたのですが.....いやー,その時代って,実験が無茶苦茶楽しそうです。

当時はまだ電子と陽子しか基本粒子として知られていなくて,宇宙線中に陽電子を発見したというのはかなりエポックメーキングでした。実験的には,(陽)電子と陽子の質量差は大きいですし,電子と陽電子では電荷の符号が反対なので,比較的容易に電子でも陽子でもないということがわかります。しかし,当時の測定技術,というか,そもそもミューオンとパイオンというものの存在を知らなかった時代に,宇宙線中に怪しげなモノを見つけても,それがどういうものなのかはすぐには正体がわかりません。しかも,ミューオンとパイオンの質量はかなり近いので,それなりの精度で質量を測定できないと,なかなか別の粒子だとは認識できません。

そんなわけで,宇宙線中にまずは(今でこそわかる)ミューオンを見つけ,その後(今でこそわかる)パイオンを見つけたのですが,当時は,電子と陽子の間くらいの質量を持った粒子が存在するらしい,ということだけがまずはわかりました。さらに,当時,理論的には湯川がパイオンの存在を予言していたので,質量その他の性質から,発見した新粒子がパイオンではないかというようなことを実験的に調べました。

が,あるグループではパイオンっぽくなく,また別のグループではパイオンのようだ,という解釈に苦しむ状況になりました。それはそのはずで,一つのグループは(たぶん)ミューオンを捉えていて,もう一方は(たぶん)パイオンについて調べていたのですから。

そんな状況って,想像しただけでもワクワクしますよ。新粒子が見つかった。でもそれが何かわからないなんて,モチベーション最高です。私たちがヒッグスを発見したのも状況としては似てなくもありませんが,当時と違うのは,ヒッグスは理論的にその存在が長いこと仮定されていましたが,ミューオンなんていう粒子が存在するなんていうことは当時誰も知らなかった点です。公式にはヒッグス「らしい」なんて言っていても,ヒッグスを探していてそれらしい粒子が見つかったのですから,多くの人は「おわっ,ヒッグスあったんだ」というような感想を持っていたのではないかと思います。あ,ヒッグスは理論的にあまりもとってつけたようで不自然だというのはもちろんありますが,でも,存在を考えてもいなかったというわけではありませんから,やはり,その点で謎の度合いがミューオンやパイオンとは違うような気がします。

しかも,というか,同じことを言ってるのかもしれませんが,昔は理論的に何か予言されてそれを検証するのではなく,実験的に真に未知の現象を見つけていた,というのが実験をやってる人間としてはよりワクワクします。今でも私はそういう気持ちで,理論,モデルの予言に惑わされることなく実験をやりたいとは思っていますが,昔はホントに実験にワクワクドキドキがあったように思えて,ちょっと羨ましいです。

あ,ただ,素粒子物理学の理論が面白いということは間違いありません。私自身も理論は面白いと思っていますし,だからこそ人並み(?)程度にはSUSYやら宇宙論にも興味を持っています。ただ,なんというか,昔の素粒子物理実験は今よりももっとエキサイティングだったのかなぁ,と古い論文を何本か読んで感じたのでした。

でももし,たとえば,SUSYなり余剰次元でも見つかろうものなら,当時を超える興奮ですよね。昔を羨ましがってる暇があったら,そういうものを見つけるためにより一層頑張らなければなりませんね。ははは。

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