ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

研究の流行

初体験の20分という短い講演をなんとか無事終えることができました。出だしは,自分の機材の調子が悪かったため,テンションが低い上に,想定しているよりもイントロダクション部分に時間がかかりすぎてしまいました。そのロスを取り戻すべくペースを上げてるうちにいつものテンションになり,それなりに喋りたいことは説明できた感があります。ただ,やはり20分。だいぶ詰め込んだトーク内容だったので,聴衆の方はついてくるのが大変だったかもしれません。20分というのは難しいな,という講演前と同様の感想を持ちました。

私以外にも2人の研究者が研究を紹介しました。その一つは地震関連の話でした。東北の大地震以来,地震研究というのは非常に注目を浴びている分野ですので,今回の講演者の方も色々なところで一般向け講演をされているのではないかと推測します。

世間から注目される研究というのは確かにありますし,私たち研究者の間でも研究の流行というのが明らかにあります。たとえば,今受け取った物理学会誌にコンプトンカメラの話が載っています。コンプトンカメラというのは,γ線がコンプトン散乱して電子をたたき出すことを利用して,通常だと飛んでくる方向を測定するのが難しいγ線の飛来方向を測定するための検出器です。これも,大地震以来,というか福島原発の事故以来急速に注目を浴びている研究です。γ線検出器開発の分野では,コンプトンカメラの前はPET用のγ線検出器開発が長いこと盛んでした。いや,今でも盛んだとは思うのですが,今の流行はまさにコンプトンカメラに移行したという印象があります。

何がきっかけになるかはわかりませんが,とにかく,研究には流行廃りというのがかなりあります。研究内容そのものは主観を排したものであるはずなのですが,テーマ選びは完全に趣味ですので,そこにはやはり流行がどうしてもあります。

身近なところで流行廃りを強く感じるのが,真空の安定性(ヒッグスポテンシャルの形状)の話です。ちょっと前までは,高いエネルギースケールに行こうとすると真空が不安定になる(=ヒッグスポテンシャルの極小値が最小値とならずに,極小値はあるものの最小値は無限に落ち込む),あるいはヒッグスの自己結合定数の議論から,標準模型はあくまで真の理論の低エネルギー近似であり高いエネルギースケールには必ず新しい物理がある,というような議論が物凄い勢いを持っていました。

ところが,LHCで今までに新しい物理が何も見つかっていないこととヒッグスの質量がわかったことを契機に,標準模型がずっと正しいと仮定して(?)高いエネルギースケールまで真空が安定になるには,トップクォークの質量が現状の世界平均だと微妙,みたいな話をそこここで,特に理論屋さんの研究会では非常によく聞くようになりました。同じことを対象にしてるのに,おもいっきり逆な議論展開になってるんですね。もちろん,みんな標準模型だけしかないと考えているわけではないのですが,そういう議論が盛んになっちゃっているんですね。

こういう手の平を返したような議論の盛り上がり方を見てると,研究対象って本当に流行があるなぁと感じてしまいます。で,驚くのは,世間で優秀だと言われてる人,金を取ってくるのが上手い人は,流行に敏感というか,私みたいなダメダメ物理屋が面白いと感じる遥か前にそういう流行の兆しに目をつけ,ちゃんと研究の下地を作っていることです。そういう嗅覚が異常に発達していて流行を先取りできる研究者もいれば,周りの流行に踊らされず自分の信念を貫くべく研究する人もいて,なかなかこの世界は面白いです。

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