ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

ちょっとだけ解説

ヒッグスに関する今回の発表についてちょっとだけ解説します。

まずは発表内容から。
微妙なニュアンスを気にせずに書くと,新粒子のスピンがゼロ,パリティが正であることがデータから示唆されている。これに加えて,今までに測定した他の粒子との相互作用の大きさから,発見した新粒子はヒッグスボソンである。ただし,それが標準模型の予言するヒッグスボソンなのか,SUSYなど標準模型を超えた物理理論が予言するヒッグスボソンなのかはまだわからん。というのが大雑把な発表内容だと思ってください。

同じ結果でも,その結果をどう解釈し判断をするのかは人間の主観なので,発表するときの表現が微妙だったり,ときには違った表現になることがあります。先週新聞記事に載った内容と突然変わってしまったのは,まあ,そういうことです。結果が大きく変わったわけではありません。

では,スピンとパリティをどうやって測定するのかですが,これには崩壊粒子の角度分布を使います。平たく言うと,もしスピンがなければその粒子は空間的にどこかを嗜好するというような方向性を持たないので,スピンゼロの粒子からの崩壊してできた粒子は空間的にランダムにあらゆる方向に飛び出します。けど,スピンを持つということは空間的になんらかの方向性を持つということなので,崩壊粒子の角度分布は一様にはなりません。実際には物凄く複雑なことになっているのですが,本質的なのは,崩壊粒子の角度分布が親粒子のスピンによって変わるということです。パリティも粒子の空間的性質なので,パリティの違いによってやはり崩壊粒子の分布に違いが生じます。

というわけで,スピンがゼロパリティが正,スピンが2パリティが正,スピンが0パリティが負...というように色々なスピン・パリティの組み合わせを仮定し,それぞれの仮定に基づく角度分布と実データで得られる角度分布を比較し,統計的な処理の後どの組み合わせが実データと最もよく一致するかを調べます。その結果,データはスピンがゼロ、パリティが正という組み合わせを示唆していた,というわけです。

あとは,ヒッグスとおぼしき粒子の崩壊先と生成過程から,ゲージボソンにもフェルミオンにも結合してるっぽいという判断もありました。ZZあるいはWWに崩壊していることが確認されているのでゲージボソンと結合していることは明らかです。あと,ATLASではイマイチなのですが,CMSではττあるいはbbへの崩壊も観測とまでは言わないまでも,崩壊してそう,という分布をしてます。ループを介して生成,あるいは崩壊する場合をどう捉えるかは難しいものがあるのですが,H→γγ事象数(ATLASは多いのですがCMSは少なめで,両方合わせると標準模型に近い),WW,ZZとの結合の強さ,等々の複数の判断材料から,CERN首脳部は今回の判断を下しましたし,まあぶっちゃけ,多くの人がヒッグスだろうと考えていました。

次のステップとして重要なのは,今回発見(?)されたヒッグスボソンが標準模型の予言する性質を持つのか,それともその性質からズレているのかを精査することです。今のところ標準模型の予言と無矛盾ですが,だからといってSUSYなどの新しい物理法則が否定されるわけではありません。たぶん,これは重要なメッセージで,何度もここで書いていますが,とってつけたような怪しいヒッグスセクターを実験的に高い精度で検証していくことがこれからの素粒子物理学の最重要テーマとなるはずです。あ,13TeVにしたらいきなりSUSY発見なんてことにもしなったら,それは良い意味でお祭りになりますが,とりあえず,何があろうと重要なのはヒッグスセクターの詳しい調査です。

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この記事のコメント

いつも解説ありがとうございます。
HIGGSと言っても良いが標準模型の物と断定は出来ないとのことのようですが、質量項でない高次の自己結合項の存在可否についてのデータは現存するのでしょうか、またLHCでの実験計画にはくみこまれているのでしょうか?
ご存じでしたらお教え下さい。
よろしくお願いします。
2013-03-18 Mon 02:06 | URL | koba [ 編集]
> HIGGSと言っても良いが標準模型の物と断定は出来ないとのことのようですが、質量項でない高次の自己結合項の存在可否についてのデータは現存するのでしょうか、またLHCでの実験計画にはくみこまれているのでしょうか?

ヒッグスの自己結合の測定は,ヒッグス機構を理解する上で最重要ですから,
LHCでも測ることができるなら当然測りたいと思っています。ただし,
非常に難しい測定なので今の統計量では無理です。
2023年前後にアップグレードした後,2030年過ぎまでLHCは走る予定で
いますが(そのときまでに3000fb^{-1}程度のデータを収集予定),
それでも測定は困難を極めると予想されています。

LHCでは測れるかどうかわからないので,ILCで測りたいというのが
ILCを作りたいモチベーションの一つです。
2013-03-21 Thu 11:17 | URL | ExtraDimension [ 編集]
ご返答ありがとうございます。
思った以上に時間が必要なのですね。
十数年は想像力で楽しめるということですね。。
有難うございました。
2013-03-21 Thu 20:35 | URL | koba [ 編集]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2013-04-07 Sun 14:05 | | [ 編集]

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