ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

負の温度

少し前に負の温度を達成したとかなんとか,そういう新聞記事をみかけました。先週の工学院大学でのサイエンスカフェでもそれについて質問されたのですが,新聞記事の見出しを目にしただけの私は全然まともなことを答えられませんでした。そんなことがあっただけでなく,研究室の週例ミーティングで行われている論文紹介でも,昨日,Mさんがその論文を紹介していました。

というわけで,どんな論文だったのかちょっとだけわかったので,今日はそれについて少し触れます。ただし,熱力学を全く理解していないので,以下の話については眉唾でお願いします。

まずは,温度の話ですから温度の定義から始めないとなりませんが,上記のように熱力学がわかっていないので数式に頼った薄っぺらい説明をします。状態数の対数だったり,エントロピーのエネルギー微分だったり,色んな定義の仕方がありますが,今回の話でわかりやすいというか,私なりに理解できたのはボルツマン分布によるものです。x = {E_i / kT} として,i番目の粒子の分布確率 p_i はe^{-x}に比例するっちゅうのがボルツマン分布です。ここで,E_iは粒子iのエネルギー,kはボルツマン定数,Tが温度です。

e^{-x}の分布を自分で描いてもらえばわかりますが,Tが小さければ傾きが大きくて,Tが0に近づけば近づくほどエネルギー0の粒子の割合が増えます。逆にTが大きくなれば傾きが小さくなり,T無限大ではE_iによらずe^{-x} = 1になりますから,あらゆるエネルギーで粒子を見出す確率が等しくなります。エネルギーの小さい粒子とエネルギーの大きい粒子もその存在確率が同じなのが温度無限大ということですね。

エネルギー準位が一番小さいときが基底状態と呼ばれて安定なので,外からエネルギーを与えない限りはまあエネルギーの小さい粒子が一杯いるわけです。そこに外から熱を加えるなどするとエネルギー準位が高くなる粒子がいるので,先のe^{-x}の形を思い出すと,Tが大きくなったと考えることができます。別に熱を加える以外の方法でもよくて,光を入射してエネルギー準位をあげたのでもなんでもかまいません。

ここまでをもう一回まとめると,温度Tが0というのはエネルギーが0あるいは基底状態の粒子ばっかりという状態です。温度Tが大きくなると大きなエネルギーを持つ粒子が増える,あるいは励起状態の粒子が増えるということです。でもって,温度無限大は粒子の存在確率がエネルギーに依らず一定,つまり,高いエネルギーを持つ粒子と低いエネルギーを持つ粒子数が同じになるということです。こんなことをごちゃごちゃいうより,exponentialがわかる人ならば,eの肩の係数が温度なのです。

ここからがいよいよ本題で,じゃあ負の温度というのはなにかというと,Tがマイナスなのでe^{-x}の分布を見ると,エネルギーの高い粒子のほうが低い粒子よりも多い状態に対応します。つまり,外からある系にどんどんエネルギーをあたえていって系全体のもつエネルギーが増え,高いエネルギーを持つ粒子数と低いエネルギーを持つ粒子数が等しくなるところが温度無限大で,さらにそれを超えてエネルギーを詰め込むことができると,低いエネルギーを持つ粒子数よりも高いエネルギーを持つ粒子数のほうが増えるので,温度がマイナスになるのです。エネルギーを加えるに従い,温度は+0→+無限大→−無限大→−0と変化するわけです。

簡単のために,エネルギー準位が2つだけだったとします。E0とE1(>E0)の2つのエネルギー準位が存在する系で,全粒子数がNだったとします。温度0はE0にN個の粒子が存在する状態,そこに外からエネルギーを加えるとE1の割合が増えていき,E0にN/2個,E1にN/2個の粒子が存在するのが温度(+)無限大の状態です。さらにエネルギーを加えていき,E1の粒子数がE0の粒子数を超えると温度は負というわけです。

そうです,ちょっと詳しい方ならご存知かもしれませんが,レーザーを発生するときは原子がまさにこのような状態になっていて,反転分布と呼ばれています。高いエネルギー状態にいる原子のほうが低いエネルギー状態にいる原子よりも多くなっていれば,そこに外から光を入射すると(ただし,その光の波長=エネルギーがエネルギー準位の差に等しいときに限る),高いエネルギー状態から低いエネルギー状態に原子が落ちて,入射したのと同じエネルギーかつ位相の光が放出されます。これを誘導なんとか(放出だったか?)と呼び,レーザーではまさにこのメカニズムを利用して位相のそろった強い光を得ています。

というわけで,反転分布自体はそんなに珍しいことではありません。負の温度と呼ぶのはかなりキャッチーだし,今なぜそんなことが話題になっているのかよくわかりませんでした。でもせっかくなので,ちょっとググってみたところ,今回の結果が新しいのは,その反転分布を原子内部のエネルギー準位の励起に関してではなく,運動エネルギーだかなんだかの分布で達成したことらしいです。つまり,エネルギー準位がE0とE1の2つだけしか取りえないならば,上述のようにエネルギーを加えることで反転分布を達成することができてもそれほど不思議ではありません。たぶん,レーザーを発生する際には原子のエネルギー準位に上限があるわけで,逆にいうと,何らかの方法で上限を設けることが重要なのでしょう。

ところが,エネルギー分布を運動エネルギーみたいなものにしたら,上限がありません。エネルギーを加えるとどんどん高い運動エネルギーを持ってしまいますから,いくらエネルギーを外から加えても反転分布になりません。今回の実験では,そういう上限が通常はないような分布に関して,何とかという方法で上限を設定することに成功,その結果としてエネルギー分布が反転分布になっていた,ということのようです。私には全くわからないのでこれ以上解説のしようがないのですが,その何らかの方法というのが革命的な技術ということみたいです。サイエンスに載っていましたが,科学ではなく技術が凄いようです。

それにしても,負の温度というのはやっぱりキャッチー過ぎな感じがします。反転分布だと都合の悪いことでもあるのですかね。

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