ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

光子の検出と電磁シャワー

今回は,光子(γ線)の検出と電磁シャワーに関してです。

光子あるいはγ線は電磁波です。γ線といった場合は可視光よりもずっと波長の短い(=エネルギーの高い)電磁波で,ATLAS実験で扱うようなγ線は数10GeV以上です。電磁波と物質との相互作用で重要なのは3種類。光電効果,コンプトン散乱,そして電子・陽電子の対生成です。光電効果では光子のエネルギーは,仕事関数(物質から電子を引き離すのに必要なエネルギー)と引き離された電子の運動エネルギーの和に等しくなります。検出という観点からは,光子が物質に吸収されて,電子だけが出てくるというのが重要です。一方,コンプトン散乱の場合は,光子が原子中の電子を弾き飛ばすイメージで,物質に入射した光子は吸収されてなくなりません。つまり,光子が入射して,光子と電子が出てくるのがコンプトン散乱です。対生成というのは,原子中の原子核あるいは電子の電場と相互作用をして光子が電子・陽電子対に変化することです。他にも相互作用の仕方は幾つかあるのですが,私たちの扱うエネルギー領域では以上の3つの相互作用が重要です。

どの反応を起こしやすいかは物質に入射する光子のエネルギーに依存します。可視光領域では光電効果。keVからMeVくらいまではコンプトン散乱。そしてMeVを超えると対生成が反応のほとんどをしめます。電子の質量が0.5MeVなので,対生成を起こすためには1MeV以上のエネルギーが必要です。で,先にも書いたように,私たちが扱う光子は数10GeV,ATLASでなくても高エネルギー物理とよばれる分野ではMeV以下を扱うことは稀なので,私個人にとっては光子と物質との相互作用というと,ほとんど対生成を意味しています。

では,数10GeVの光子が物質に入ると何が起こるかというと,上記のようにまずは電子・陽電子対生成が起きます。生成された電子と陽電子は,数日前のエントリーで書いたように物質中を進みながら物質を電離してエネルギーを落としていきます。ただし,電子・陽電子は他の荷電粒子と違って非常に軽いために,荷電π中間子やミューオンとは少し異なった挙動を示します。

荷電粒子は,加速されると放射光を出します。たとえば円運動をする場合,接線方向に放射光を出します。物質中に荷電粒子が入射すると,物質を構成する分子だか原子からの電場から力を受けますので,やはり加速度を与えられます(元々の運動に比べると減速)。ということで,放射光すなわち光子を放出します(この現象のことを制動輻射という)。ただし,放射光を出す量が荷電粒子の質量の4乗分の1(だったかな??)に比例するので,重い荷電粒子というのは放射光をあまり出しません。逆に,電子や陽電子はガンガン光子を出します。

元に戻ると,光子が物質に入射すると対生成。生成された電子や陽電子は光子をどんどん放出。そうやって放出された光子がまた電子・陽電子対を生成…ということを雪崩式に繰り返していきます。この雪崩のことを電磁シャワーとよびます。制動輻射を起こす確率は,電子のエネルギーにも依存して,エネルギーが下がると制動輻射を出しにくくなります。電磁シャワーは,電子のエネルギーが下がり,物質を電離させることによるエネルギー損失が制動輻射によるエネルギー損失よりも大きくなるまで続きます。そこまでエネルギーが下がると,あとは,電子は他の荷電粒子と同じように物質を電離させるだけとなります。

今は,光子が物質中に入った場合の説明をしましたが,電子が入射してもほぼ同じです。最初の光子→電子・陽電子対生成という反応があるかないかだけの違いなので,一旦物質に入射してしまうと光子と電子の区別がつかなくなります。実際実験においても,物質入射前に荷電粒子として飛跡を残すかどうか以外では,光子と電子の識別はそれほど簡単ではありません。

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