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ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

CP対称性の破れ

今回滞在中のSLACでは、日本のBelle実験と並んでCP対称性の破れ(=CP非保存)に関する実験が行われていました。今回のノーベル賞に関して、自発的対称性の破れ、あるいは質量生成については説明しましたが、CP非保存については全然説明していなかったので、今日はそれについて説明してみます。

物理の世界での対称性というのは、ある操作・変換を行っても元の状態と区別がつかないことを言います。例えば、円い画用紙を回転しても円は円で、回転する前と回転した後の写真を見せられても、どちらが回転前なのか後なのか区別がつきませんよね。これを回転対称性があると言います。正方形の画用紙なら90度の回転に対する対称性があるわけです。

P(パリティ)変換というのは、空間を反転させることで、数学的には座標をx→-x, y→-y, z→-zに変えることに相当します。なので、P対称性がある、パリティが保存している、という状態は、鏡に映った世界と元の世界が区別できない状況のことになります。例えばビリヤードをしてるところを想像して下さい。キューで玉を付いてるところ(キューの先端と玉だけ)をビデオに撮影します。次に同じことをしますが、今度は鏡に映して撮影します。2本のビデオを見せられた人は、どちらが鏡に映されたものかわかりませんよね。どちらもキューで付いた方向にだいたい玉は転がります。パリティは保存しているわけです。

ではパリティが破れているというのはどういう状態かと言うと、上の例を使うと、鏡に映す前(現実世界)はキューの方向に玉が転がったのに、鏡に映した世界ではキューの方向に玉が転がらないことを意味します。日常生活では想像のつかない世界ですね。それもそのはずで、日常生活で感じる力というのはほとんどが電磁気力と重力ですが、これらに関しては(強い相互作用も)パリティを保存しています。ところが弱い相互作用だけはパリティを破っているのです。この事実が発見されたのは古く1957年(だったはず?)なのですが、当時はショッキングな出来事だったようです。感覚的にも受け入れにくいですし。

で、今回の話題CP変換というのは、P変換とC(荷電共役)変換を両方行う変換のことです。ここで、C変換というのは、粒子と反粒子を交換することに相当します。電子と陽電子の交換、陽子と反陽子の交換、などなどです。つまり電子に対してCP変換を行うと陽電子にパリティ変換を施した状態になります。パリティが破れているのは上に書いたように1957年に発見されたのですが、CPは対称性を保存していると信じられていました。にもかかわらず、今度は1964年に中性K中間子という粒子でCPが破れていることが発見されてしまいました。ちなみにこの功績でクローニンとフィッチという人がノーベル物理学賞を受賞しています。

CP非保存という観測事実を説明するために、様々なモデルが提唱され、小林・益川モデルもその一つだったわけです。その後K中間子を使った実験が繰り返され、1990年代末のK中間子を使った実験結果でほぼ小林・益川モデルに絞られました。さらに2001年(と言っていいのか微妙ですが)前後にB中間子を使った実験結果で小林・益川モデルに間違いないことが確認されました。このB中間子を使った実験というのが日本のBelleという実験と、今回滞在しているSLACで行われたBaBarという実験で、小林・益川のノーベル賞受賞にこれら2つの実験の寄与が大きいと考えられています。余談ですが、2001年当時私はBelle実験をやっており、BaBarとは実に熾烈な競争を繰り広げていました。面白いネタもあるので、機会があればそれについてもそのうち書きます。


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