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ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

ミューオンのg-2測定

素粒子・原子核実験の研究室に配属されている4年生の卒業研究発表会が,今日と明日の2回に分けて行われます(ました)。私たちの研究室の4年生の出番は今日で,4人全員が無事に発表を終えました。テーマは2つで,私が指導をしていたグループは,何度か書いたように宇宙線中のミューオンを使いg因子を測りました。いや,測ろうとしました。

偏極したミューオンが磁場中を通るとスピンが歳差運動を起こします。その周期がgと磁場の強さに比例するので,その両方を測ることができればgを決定できます。これは素粒子物理学の教科書の最初のほう,ディラック方程式のところで出てくる重要かつ,基本的なお話です。

さて,ではそれをどうやって測るかというと,まず偏極したミューオンが必要です。地表に振ってくるミューオンは主にπ(と少しだけK)の崩壊によって生成されますが,πの静止系で考えると地表に向かって飛んでくるミューオンは100%偏極しています。スピン0の粒子が2つのフェルミオンにback-to-backに崩壊,かつ,(反)ニュートリノは100%左(右)巻なので。たとえば,μ+の場合には,下向きに飛ぶミューオンのスピンは上向きになります。実際には,πがブーストされていますので,減偏極していますが,それでも2,3cmのアルミ板に止まるくらいのエネルギーのミューオンだとそれなりに偏極していて,偏極度は0.2とか0.3くらいのようです。

偏極しているミューオンが崩壊したとき,スピンの向きと弱い相互作用がV-A結合すること(粒子はカイラリティ左巻き,反粒子は右巻き成分が反応に寄与すること)を考えると,崩壊によって出てくる陽電子はμ+のスピンの向きに出ることがわかります。というわけで,それなりに偏極しているμ+を磁場中で止め,その崩壊陽電子の向きを測れば歳差運動の周期を測定できるというカラクリです。ちなみに,μーの場合は,原子核に捕獲されて減偏極してしまうので,μ+しか歳差運動の周期測定には使えません。

そんなわけで,磁場中のアルミ板でミューオンを止めて寿命測定。アルミの板から上に陽電子が出た場合と下に出た場合を別々に見ると,exponentialで落ちていく分布がgと磁場の大きさで決まる周期により振動します。実際には,上に出た分布と下に出た分布の差を取り,その分布をcosカーブでフィットして周期を求めます。

という実験内容で,私たちの研究室では初の試みだったので振動が見えるかどうかやってみるまでわかりませんでした。昨日の発表練習段階までは,最後の分布をフィットすると振動があるような,ないような,判断に難しい状況でした。振動がある場合とない場合のToy MCを振ってみると,振動がなくてもフィットするときの初期値によって期待する周期が出てしまう,というような内容でした。うーん,そうか,残念。では,何が原因で振動が見えないのか。どこをどう改良すれば周期を測定できるはずか議論して話をまとめよう,ということになっていました。

ところが…
今日の本番では,振動が見えた。振動の周期も測定し,gを測りました,という内容になっていたので大いに驚きました。詳しい事情を解析の中心人物に聞きたかったのですが,その彼は発表直後に消えてしまい,あまり詳しいことは聞けませんでした。振動しているような,していないような,判断に苦しむ分布なので,誰もが納得する結論をすぱっと出すのは難しい状況なのは確かですが,研究内容的には4年生がやる実験としてはなかなか面白いテーマだったと多くの人が思ったのではないでしょうか。来年度以降の4年生のテーマの候補になりそうです。

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