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ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

tanβ

今日は昨日の話の軽い補足です。

スタンダードモデルの枠内では,Bsがμμに崩壊するのはflavor chaning neutral currentですから,ペンギンダイアグラムなどの高次のプロセスとなり,崩壊比の予測値はオーダー10^{-9}と非常に小さくなります。ところがSUSYでtanβが大きいと崩壊比が大きくなれます。ということがこの解析の売りだと昨日書きましたが,これについてもう少し説明を試みます。

スタンダードモデルではヒッグス二重項が一つですが,SUSYではヒッグス二重項が最低2つ必要です。スタンダードモデルでは反粒子とカップルするのをヒッグスの複素共役で済ませているのですが,それをやると超対称性が保てないためにヒッグス二重項が最低2個必要になります。現象論的には,ヒッグスが1個だと三角異常項を抑制できなくなるので,異常項をキャンセルさせるためにもやはり最低2個のヒッグスが必要になってきます。

ちょっとややこしくなったのでまず大事な点をまとめると,SUSYの場合は最低ヒッグス二重項が2個必要。3個以上あっても(たぶん)いいのですが,普通は簡単なモデルを考えますのでヒッグス二重項は2個と仮定します。2 Higgs Doublet Modelを略して2HDMと呼びますが,2HDMが必ずしもSUSYだというわけではないので,2HDMの一つがSUSYという位置づけです。

さらに2HDMは大きく2つに分類できて,タイプ1とタイプ2があります。タイプ1では,ヒッグス二重項のうちの一つがフェルミオンと結合し,もう一個はフェルミオンとは結合しません。フェルミオンに質量を与えるのは二重項のうちの一つだけというシナリオです。一方タイプ2では,二重項の一つがフェルミオンのupタイプ(uクォークたち)にだけ質量を与え,もう一方がdownタイプ(dクォークや荷電レプトンたち)に質量を与えるとします。スタンダードモデルでは一個だった真空期待値が2個になると考えるわけです。SUSYはこのタイプで,2HDMタイプ2ということになります。

ようやくtanβになりますが,一言で書くと(って,定義なのでこれ以上書きようありませんが),tanβは,2個の真空期待値の比です。片方をv_u(uクォークたちと結合するほう),もう片方をv_d(dクォークたちと結合するほう)をするとtanβ=v_u/v_dです。ちなみにスタンダードモデルの真空期待値vに対してv=sqrt(v_u^2+v_d^2)となるように規格化します。

じゃあなぜこのtanβがBsの崩壊比に大きな影響を与えるかというと,フェルミオンの質量にはm=Yvという関係があるからです。mは質量,Yは湯川結合定数,vが真空期待値です。mは既知ですから,スタンダードモデルの枠内では,vもわかっていますからYも予言されています。だからこそ,模型が正しいかどうかを試験するためには,ヒッグスが見つかった後にYを測ることが重要で,私の研究テーマもモロにここです。

ところがSUSYの場合,先に書いたようにvではなくてv_uだったりv_dが真空期待値で,その比がtanβと言っているのですから,tanβの大きさ次第で湯川結合定数がスタンダードモデルの予言からズレてきます。tanβが大きければ,スタンダードモデルに比べてv_uが相対的に大きくv_dが小さくなりますから,upタイプクォークの湯川結合定数が小さく,downタイプクォーク(と荷電レプトン)の湯川結合定数が大きくなります。bクォークやμとヒッグスとの間の結合が大きくなるということです。

Bs→μμではbクォークがヒッグスを飛ばして,そのヒッグスがミューオン対に崩壊するという寄与がありますから,tanβが大きくなるとこの寄与がスタンダードモデルに比べてがっつりと大きくなります。なので,SUSYでかつtanβが大きければ,スタンダードモデルの予言値よりも崩壊比が大きくなることが期待されているというわけです。ただまあ,昨日も書きましたが,ヒッグスの探索結果などからそんなにtanβは大きくないだろうという予想もあって,今回の結果は微妙なんですね。

ただ個人的には,今回の結果が信号だと非常に嬉しいです。SUSYの間接的証拠という業界に対してのインパクトもありますが,私が狙っている物理テーマをある意味サポートする結果だからです。上記の状況とあわせ,解析内容からも客観的には信号とは考えづらいのですが…LHCbの結果待ちです。

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