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ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

クォーク質量の生成

β+崩壊のところで説明した質量の話がよくわからない、という意見を一般の方からいただいたので、今日は質量生成に関して、原子核(=陽子と中性子の束縛状態。原子は原子核と電子からなる)、クォーク、陽子・中性子などのハドロンと呼ばれる仲間たちについて、少し詳しく説明してみます。

まず原子核。
原子核の多くは複数の陽子と複数の中性子からできています。ところが、原子核の質量=陽子の個数x陽子の質量+中性子の個数x中性子の質量ではなく、陽子と中性子をくっつけてる強い力によるエネルギーを考慮に入れないとなりません。正しくは、原子核の質量=陽子の個数x陽子の質量+中性子の個数x中性子の質量-結合エネルギーとなります。この前は説明を簡単にするために(陽子・中性子の質量との類推を持ち込むために)、結合エネルギーの符号についてはきちんと説明しませんでしたが、実際にはここでの結合エネルギーはプラスと定義します。ポイントは、原子核の質量はそれを構成する陽子と中性子の質量を足しただけではダメ、ということです。なので、陽子と中性子の質量だけを足し上げるとホウ素のほうが放射性同位元素の炭素よりも重くなってしまいますが、結合エネルギーも考慮に入れると放射性同位元素の炭素のほうがホウ素よりも重く、崩壊してもよいということになります。

次にクォークの質量。
よくある説明を真似ると、真空中にはヒッグス粒子で満たされた場が存在し、ヒッグス場が自発的に対称性を破ると、クォークはヒッグス場からの抵抗を感じ、その抵抗がクォーク質量となります。逆にヒッグス場が対称性を破る前にはクォークはヒッグス場からの抵抗を感じることなく、質量がゼロと考えられます。この段階でのクォークの質量、例えば陽子を構成する(陽子は2個のuクォークと1個のクォークでできている)uクォークの質量は多分4MeV程度、dクォークの質量は7MeV程度と考えられています(測定はされていない、できない)。ちなみにここで破れた対称性はヒッグス場だけではなく、クォークが質量を獲得した結果、カイラリティと呼ばれる対称性(次の段落で説明)も破っています。

スピン1/2を持つフェルミオンと呼ばれる粒子(=電子やクォークなど)はそのスピンの向きで、右巻きと左巻きと区別されます。カイラル対称性というのは、フェルミオンの質量がゼロのときに保存され、右巻き粒子と左巻き粒子が混ざり合わない状態のことを言います。つまり、同じ電子、同じuクォークでも、左巻きと右巻きではあたかも別粒子であるかのように振る舞うわけです。ところが、質量を持つと、左巻きと右巻きの粒子が混ざり合うので、カイラリティを保存しないことになります。質量というのは、左巻きと右巻き粒子を混ぜ合わせる度合いの強さ、とも言えます。

クォークが質量を持った後で問題になるのが、陽子あるいは中性子などのクォークの束縛状態であるハドロンと言われる粒子の質量です。2つ前の段落で説明したように、u,dクォークそれぞれの質量を足しても20MeV程度にしかならず、938MeVの陽子質量には到底足りません。ここでの主役は、クォーク・反クォーク対です。宇宙ができた当初質量ゼロであったクォークは、ヒッグス場が対称性を自発的に破ることで、質量を獲得します。さらに宇宙が冷えると、クォークと反クォークとの間に強い相互作用による強い引力が働きます(宇宙の温度が高いときは、その引力は弱かった。)。結果として、空間のあらゆる場所をヒッグス場が存在するように、クォーク・反クォーク対があらゆる空間に沈殿し、その沈殿状態のほうがエネルギーが低い状態になります。

このクォーク・反クォーク対というのは実は右巻きと左巻きの組み合わせで、実はここでもカイラリティを破ることになります。宇宙の温度が高い時は引力が弱かったためにクォーク・反クォーク対がなかったわけですから、カイラル対称性を保っていたわけです。その対称性がこれまた自発的に破れたわけですね。クォーク質量との類推では、ヒッグス粒子を強い力で生成されたクォーク・反クォーク対に置き換えてもらえばよいかと思います。

こうして再びカイラル対称性を破ることにより(今度はヒッグス場ではなく、強い相互作用によって)、クォークはさらなる質量を獲得し、陽子・中性子などのハドロンは300MeV程度の質量を持つことになります。実際にハドロンの質量を予言するには、クォークの質量を300MeV前後として、軌道角運動量、スピンなどによるエネルギー準位を考慮することにより、比較的精度良く計算できます。さらに、300MeV以下の特別軽いバリオンであるπ中間子(湯川秀樹が予言したやつです)は、対称性が自発的に破れたときに生成される南部・ゴールドストンボソンとすると、上手く説明がつくのだそうです。

以上をまとめると、クォークの質量というのは、まずヒッグス場が自発的に対称性を破るときにカイラル対称性も破り、そして次に、強い相互作用によってカイラル対称性の自発的破れがさらに起こり、この2段階で質量を獲得すると考えられています。ただし…
ヒッグス場による自発的対称性の破れは、電弱相互作用の理論で摂動計算が可能。つまり、定量的な計算が可能な理論なのですが、2段階目の強い相互作用によるカイラル対称性の破れというのは、強い相互作用があまりに強過ぎる領域のために摂動計算ができません(素粒子理論の定量的な計算というのは、相互作用が弱いとき、その相互作用を量子力学の摂動として扱うことで計算しているので。)。数値計算を用いた方法などで計算する努力がなされているのだと思いますが、私には詳細不明です。

いずれにせよ、南部さんが素粒子に持ち込んだ自発的対称性の破れというのが、2段階にわたるクォーク質量獲得のメカニズム両方の解明に役立つ(と言うのは、実験的検証をしないとなりませんが)というのは特筆に値します。本当に彼の業績は素晴らしいです。

と、一般の方にわかりにくいと指摘され、質量生成のメカニズムについて詳細を書き始めたのですが…うーん、書いてるうちにどんどん専門的になってしまったような。もっとわかり易い説明をすることを自分に対する宿題にしておきます。


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