ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

放射性物質移送手続き

M2のAくんは,M2ですから当然今修論執筆中(のはず)です。彼は,ATLASアップグレード用シリコンピクセル器の開発に関連する研究をやっていて,その最終ゴールとしては,センサーの電荷収集効率が浴びた放射線量とともにどのように変化するのか調べたいということがあります。技術的にちょっと難しいやり方でやろうとしているので,彼のやってる方法で評価できなかったとしても仕方ない,逆に言うと,修論として書くネタは一応できているというのが現状です。

でも,やっぱり,その最終ゴールを目指していまして,今は,放射線を浴びたセンサー(+ASIC)をKEKから大学へ移送するための手続きを行っています。大量の放射線を浴びたセンサーとASIC(を合わせてモジュールと呼びます)は放射化してしまうので,放射性物質として取り扱わないとなりません。大量の放射線をモジュールに当てた直後は線量が多いために,放射線管理区域の外に持ち出すことができず,しばらく(生成される放射化物の半減期がそこそこ短いので)待って線量のレベルが下がってからKEKなどに持ち帰ります。

今回移送しようとしているものもすでにKEKにあるもので,管理区域の外で使えるレベルのものなのですが,KEK,大学ともに,法律で規定されている以上に厳しい内規で運用しているため,移送するための手続きがなかなかに煩雑です。1枚の書類に,関係者および各機関の放射性物質取り扱い主任など4人くらいのハンコが必要で,かつ今回は’そういう書類が2枚も必要。しかも,同時に2枚作成できず,1枚が承認された後に初めて次の書類を作成できるという厄介物で,この話を始めてから数えるともう3週間くらい経ちますが,未だにKEKから発送できる状態になっていません。

こういうことに関しては厳しいに越したことはないのかもしれませんが,すぐにでも研究に使いたい現場の人間としてはなかなかに忍耐力を要するプロセスです。それにしても,KEKのATLASシリコングループでは,こういう放射性物質の移送を年に何回も半定期的に行っているわけで,その煩雑な手続きや準備を一手に引き受けているIさんの苦労が身に染みます。書類作業が苦手な私は今回の1回だけでもかなりウンザリしていますが,Iさんの場合,これをしょっちゅうやってるわけで,本当に頭が下がります。

大きいプロジェクトでは,こういうツマラナイ手続きをちゃんとこなしてくれている人が大勢いるはずで,そういう人の見えてこない努力によって目立つ解析結果が得られるんだということを改めて感じる今日この頃です。

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accuracyとprecision

今年度後半は3年生の物理学実験の授業を担当しています。α線源からのα線を金箔に入射させてその散乱角を測定するというラザフォード実験です。

各テーマ毎に学生はレポートを提出する必要があり,また,机上の勉強には慣れていますが,実験というものをあまりやったことがない上,その結果をレポートに纏めるという経験が今までなかった学生さんたちにとっては,わりと大変な授業の一つなのではないかと推測します。かく言う私も,学部生だった頃にレポートを書く時は,実験内容は書けても考察に何を書けばいいのかいつも苦心していました。

大雑把に言うと,考察する方向性として2つあります。一つは実験で得られる結果から物理に対する考察。実験というのは,ある理論モデル(仮定)が正しいかどうか,複数のモデルがあるときにはどれが正しいかを選び出すために行うことが多いので,自然と考察には実験結果と理論による予言の整合性,あるいは整合性がない場合はその原因およびalternativeとなるモデルの議論をすることになります。私たちがLHCでやっているヒッグス測定だったら,標準模型による予言値とあっているかどうか,何かズレ(=標準模型では説明しきれない物理法則の発見)がないかどうかを調べているのと一緒です。

もう一つの方向性は測定に関する考察です。自分たちの測定に間違いがないか,どれくらいの精度で測定できているのか,将来さらに高い精度で測定しようと思ったらどういう改良をすればよいか,こういう実験屋の視線で実験を振り返ることも重要です。

話は戻って,3年生の物理学実験のレポートを提出するのは各テーマの教員で,提出する時に軽く教員と質疑応答をします。ラザフォード散乱の場合,測定というよりも与えられたデータ処理のためにほとんどの時間を費やしてしまうため,測定そのものの考察というのはなかなかしずらいのだとは思いますが,それを差し引いても,学生さんの考察には2つ目の視点というものがあまり入っていません。その典型が,与えられた実験装置,測定装置を100%信じていて,較正されているかどうかということに考えが及ぶ人は非常に稀です。

言い換えると,precisionについては気にするというか,考えが及ぶ人はいるのですが,accuracyについては全く思いつかないようです。あらゆる測定では,実験装置によって得られた値を物理量に直すわけで,実験装置は必ず較正されていないとなりません。たとえば,温度計を渡されて,その温度計の表示が正しいかどうかをまず何らかの方法で示さなければ,その温度計の表示値をそのまま信じる実験屋はいません。何らかの基準値を使ってスケールがあっているかどうか=較正されているかどうかの確認が測定の第一歩なわけです。

そういう話題をふると,precisionが有限であることは学生さんも思いつくので,測定を繰り返すとか,複数の温度計を使うなどのアイデアは出るのですが,そもそも得られた値にバイアスはないのかというaccuracyを気にするアイデアはなかなか出ません。こちらでかなり誘導していってようやくそういう発想に至るということが多いです。もちろん,3年生当時の私だったら,この教員何言ってるんだろう?という反応だったと思います。慣れていない概念ですから,較正とか,accuracyというのは。

そもそも,accuracyって日本語でなんと書けばよいのかわかりません。何て書けばよいのですかね。precisionなら精度ですが,accuracyも下手したら精度(?)になってしまいそうです。なので,敢えて今回のエントリー途中からは,精度とは書かずに,accuracy/precisionをそのまま書いているのですが,accuracyについてはイマイチすっきりする単語が出てきません。正確さ,くらいでしょうか。

そういえば,昔どっかの学会で天文の人が最近の観測精度(この場合precision)の高さを危惧(?)して,precisionを上げるのは重要だがそれよりもaccurateかどうかはもっと重要だ。これからは,accuracyをもっと考えるべきだ,みたいなことを言ってたのを思い出しました。いいこと言うなぁと思って今もこうして脳裏に焼き付いているのですが,天文や宇宙に限らずどんな実験観測分野でも大切なことです。ただ,極論precisionがとてつもなく悪ければ,どういう結果でもaccurateになってしまいます。ATLASの実験結果についてもそういう部分があると,多くの人が考えています。Gaussianの1σは68%だということを忘れていそうな実験屋がいるのには呆れます。

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LHCの2014年末の状況

先週金曜は毎年恒例の,Y研究室K研究室合同の年末発表会がありました。しかし,今年は合同で発表会をやる意義があるのか極めて疑わしい内容になってしまい,残念な心持ちで一杯です。自分の発表のときだけ表れて,他の人の話,特に自分の研究室とは違う研究室の人の話を聞かないのでは,合同でやってる意味がありません。せっかく長いこと続いてきた企画だし,良い企画だと思うので長続きして欲しいですが,今年のようなことが続いてしまうなら継続を考えてほうがよいと思うくらい今年はちょっと酷かった。

土曜日は高エネルギー委員会で東京へ行ってきました。高エネルギー委員会では毎回主要プロジェクトの最新の状況報告があり,私はLHC/ATLASの報告をしています。せっかくなので,2015年の展望も含めて,高エネルギー委員会で話したことの繰り返しになりますが,LHC/ATLASの近況を書いてみます。

LHCの陽子軌道を円形に保つための双極電磁石は,すべてが液体ヘリウム温度にまで冷やされています。この2年間のシャットダウンでの主な作業の一つだった copper stabilizer(上記の双極電磁石がクエンチしたときに電流を流すためのバイパス)の取り付けの最終確認として,全周にわたってその抵抗値の測定を行い,問題がないことを確認しました。この確認作業を追加で行ったために当初の予定よりも約1ヶ月遅れの実験開始となる予定で,現在は3月にビームを出し,5月から衝突を開始する予定です。

直近では磁石を冷やしただけでなく,6.5TeV時の運転に相当するだけの励磁試験も始まっています。LHCの8つあるセクターのうちの1つはすでに試験を終えて,6.5TeV運転が問題なく行えることを確認しました。もう1つのセクターの試験も近いうちに開始する予定で,6.5TeV+6.5TeVに向けて順調に準備が進んでいます。ちなみに,2015年内は重心系エネルギー13TeVで走ることで合意が取れていて,14TeVに上げるかどうかは2015年の運転状況を見てから決めることになります。

LHCそのものだけでなく,前段の加速器達も順調に立ち上がっています。SPSを使ったビームテストをすでにやっていますのでSPSまでは問題ないことは既にわかっていましたが,その後,つまりSPSからLHCまでのビーム輸送も順調に進んでいるようです。輸送ラインの試験として,SPSからLHCまでビームを送りビームダンプでビームを止めるという試験を行い,そのビームダンプでのビームの反跳をLHCbとALICEでは観測しているようです。(LHCへのビームの入射位置の関係でLHCbとALICEでは観測可能)

そんなわけで,1ヶ月程度の遅れはありますが,LHCは順調に運転の準備が進んでいます。2015年内に10fb^{-1}貯めるのを目標としています。

一方でATLASの準備も順調に進んでいます。IBLまで含めた全検出器からのDAQ試験も行われていて,再度強調しますがIBLまで含めて宇宙線のトラックを観測しています。Run2ではL1のトリガーレートを100kHz,テープへの書き込みを1kHzにまで上げる予定で,それに伴いトリガーのbandwidthを上げるための改修を各検出器のDAQで行っていましたが,予定通り最近の試験では100kHzで走れそうなことを確認しています。また,メインテナンスおよびIBLのインストールのために開けていたエンドキャップを閉じて,検出器としてはいつビームが来てもいい,とまでは100%言い切れませんが,それに近い状態にまで準備が進んでいます。

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次期機構長とRCNPビームライン

とうとうオフィシャルになりました。KEKの次期機構長は,噂通り最後のどんでん返しでY内さんに決まりました。微妙な内容なので詳しいことは書けませんが,個人的にはもう1人の有力候補だった人のことを全く知らなかったので,Yさんに決まったのでなんとなく安心しています。しかし,風が吹けば桶屋が儲かるではありませんが,その余波がモロに私のところにも来ています。俄に色々とバタバタしてきました。

さて,殿上人のことから我々庶民のことに話を戻しますが,今朝は,朝イチでRCNPのビームラインを見に行ってきました。2月にビームタイムを貰う交渉をしていまして,優しいRCNPの人々がなんとか時間を融通してくれることになり,どのビームラインでテストをやるか,日程をどうするか,などの打ち合わせをしてきました。

その結果,2月の半ばに,2回に分けてですが,1日半程度のビームタイムを貰えそうです。場所は中性子用のビームラインで,通常は陽子をターゲットに当てて中性子を取り出すラインなのですが,そこにターゲットを入れず陽子をそのまま引き出してもらうことになりました。私たちが試験しようとしているテレスコープは小型で携帯可能(?)というのが売りなので,場所をあまり必要としません。それも幸いして通常装置を置く場所ではない所に余裕を持ってスペースを確保できそうです。

しかもラッキーなのは,その時期にそのビームラインを使うのが私たちだけなので,ビームを貰えるのは1週間くらい間を隔ててそれぞれ1日づつくらいなのですが,その前後にずっとセットアップを置いておけるので,様々な調整も可能ですし,最初の1日の結果を見てから次のビームを貰うまでの間に必要ならデバッグ等も行えます。

急遽お願いして提案書を出した上に,元々ビームタイムが潤沢でないなか,貴重なビームタイムを割り振ってもらって,RCNPの人たちには頭が上がりません。よかったです。これで外堀を埋めることができましたが,肝心なのは試験の準備ですね。残り2ヶ月弱,CERNでのビームテスト前のような勢いで準備を進めていかねばなりません。

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出張2発

先週の金曜は浜松ホトニクスへ,昨日はKEKへ行ってました。どちらも急に決まった出張,というか浜ホトの方は私が忘れていたということもあるのですが,でした。特に後者は,デバッグ中のSVX4テレスコープの作業が暗礁に乗り上げてしまい,藁にもすがる思いでFPGA/firmwareの教祖様を急遽尋ねることにしました。

その問題というのは,現象的にはfirmwareがリセットされていない,タイミング調整が甘い,この2点に尽きる(と私には見える)のですが,なにせfirmwareに関しては素人なのでコーディングについてアドバイスをすることができません。ソフトウェア開発でもよくありますが,文法的には正しくても思った通りに動かないというパターンで,少し経験を積むと教祖の言う「作法」としてそういう間違いを起こさなくなるのですが,なにしろ開発しているのは頑張っていはいますが経験の浅い学生たちなので,作法を知らないが故に抜け出せない沼にハマっている感じです。

そこで,こういうときは作法を知ってる人間に聞くのが一番,ということで,忙しい中時間を作ってもらいUさんと話をしました。で,面白かったのは,Uさんの見立てもまあ当然なのですが,リセットとタイミングが問題。でも私のコメントとは重みが違います。私が学生にそう言っても「リセットしてるはずです」と返されますが,Uさんに言われるとそうは返せません。実際にUさんは軽くコードを眺めてくれて,すぐに問題点を幾つか指摘してくれました。その後修正作業がどうなったのかまだ私は聞いていませんが,短時間でもUさんのところに行った甲斐がありました。

ちなみに,firmwareに限らず,ソフトウェア,ハードウェア,なんでも一緒ですが,デバッグする時の最大の敵が「〜してるはず」という思い込みです。思ったように動かないってことは,何かをしてるはずと思っても実際にはしてないということなのですが,考えの死角に入ってしまい,確認してると思ったことが実は確認になっていなくてデバッグに手間取るということがよくあります。ここら辺は経験を積むと,思い込みを減らせるというか,実際には,思い込みがないかどうかを確認していく手順を自分なりに確立できてくるのですが,最初のうちは「〜してるはず」の連続ですね。

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バイパスという概念

毎朝の通勤時に,ウンザリというか,ガッカリというか,正確な表現が難しいのですが,残念な感じを受けていることがあります。初めに書きますが,あまりに些細なことなのでどうでもいいと言えばどうでもいいことなのですが,って,このブログに書いてある全てのことがどうでもいいことばかりですが,今朝もそれを強く感じました。

まずは下の地図を見て下さい。阪大豊中キャンパスの最寄り駅は大阪モノレール柴原駅で,私も毎日この駅から歩いて理学部まで来ています。その道筋は青線で記したAです。
campusmap
阪大の1限は8:50から始まるので,8:30前後に柴原に着く電車に乗ると駅からキャンパスへ通じる道は学生で溢れかえります。主に1限から授業があるのは低学年の一般教養(という呼び方は今はしないのですが)の授業で,彼らは地図上の12番あたりへ向かって歩きます。その道筋はピンクで示したBです。Bは12まで届いていませんが,線が切れた先は彼らがどう歩いているのか私にはわからないので,途中までしか線は描いてありません。

驚きなのは,モノレールの乗客全てではないかと思える大勢の学生が誰一人経路Aを通らないのです。毎朝。Aは中環に沿った歩道なので幅は広いのですが,Bは学内のパスなのでAに比べると幅が狭く,毎朝歩行者の交通渋滞が起こっています。なのに,Aを通る学生がだーれもいないのです。いや,Aをそのまま通ると理学部に来てしまいますから,言いたいのはAの中環沿い部分をなぜ歩かないのか?ということです。

私はAを歩いていますから,Bで詰まっている人たちを自然に追い越してキャンパス内に入ります。そもそも距離が短いので大した差にはならないのですが,それにしても,異常な光景です。混雑してる街中に100台とかそういうオーダーの車がつっこみ,バイパスを誰一人通らないっていうのは,相当不思議です。しかも,そういう学生たちが急いでいないならまだわかるのですが,傍若無人に人にぶつかりつつ前を急ごうとするヤツも結構いるのです。そこまで急いでいるなら,私なら柴原駅から中環沿いをまっすぐ正門まで行きそこを右折して,12番へ向かいます。

何がガッカリって,彼らは自分の脳味噌でもはや何も考えられないということです。アジの群れと一緒というのが非常に恐ろしいです。何かタスクが目の前にあるとき,そのタスクを処理する最善の方法が何かということを一瞬たりとも考えたりしないのでしょうね。興味のないことだから考えないというのは自然の摂理ではあるのですが,それにしても,目の前に処理すべき案件があったら一瞬は反射的にどうすべきか考えるのが普通だと私なんかは思ってしまうのですが,検索世代はそうではないようです。

あたり触りのない一例を挙げましたが,授業や研究をやっていても,自分なりにまず何か考えるという反射神経を持っていない人が増えているのはあらゆる教員が感じていることだと思います。真面目に考えるとこれって以上に恐ろしいことで,毎朝,その恐ろしさを確認しています。このままだと,世の中の人の常識や意識ははグーグルに洗脳されていってしまいます。

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X(3872)を発見した男

ちょっと前の話になりますが,北京でのICFAセミナーに参加したとき,久しぶりにBelleをやってた(る?)SOさんと話をする機会がありました。

SOさんはアメリカ人ですが,トリスタン時代から日本で実験をやっているアジア好きのおじさんです。いや,Belleでもスポークスパーソンをやってたくらいなので偉い人なのですが,その彼の物理的興味はハドロン物理で,かなり高齢になった今でもハドロン物理に熱い情熱を注いでいます。セミナーでも彼のトークがあり,内容は私にはよくわかりませんが,情熱だけはちゃんと伝わってくるトークでした。

その彼がBelleをやっていたとき(私もBelleをやっていたときにお世話になりました)彼がX(3872)という粒子を見つけました。チャーモニウム(c-cbarの束縛状態)の励起状態の一つで,その後のBelleでのハドロン物理の草分けとなる重要な発見でした。ぶっちゃけると,素粒子以外に興味のない私はハドロン物理はもはや原子核物理と一緒で物理的な興味はありません。ですが,SOさんから北京で聞いた話は興味深かったというか,インパクトがあったというか,カッコよかったです。

X(3872)をどういうつもりで探したのか?という話題をふったところ,当時のBelleはBaBarとsin(2beta)測定の激しいレースをしていたので,とにかく統計を稼ぐためにチャーモニウム+Ksという終状態を多く探していただけだと言うのです。まさにその当時一緒に仕事をしていましたから,そういうモチベーションでSOさんたちはチャーモニウムをたくさん集めようとしていたのは知っていました。ですが,もともとハドロン物理に興味のあったSOさんたちは,きっと,普通の人(=既に存在をしってるチャーモニウムだけを探そうとする人)と違って,質量分布を注意深く眺めていたのですね。

SOさんいわく,質量分布を眺めていると変なバンプらしきものがあり,最初は統計のフレだろうと思い,データが増えればそのバンプは消えるだろうと思っていたんだそうです。ところがデータが増えれば増えるほどそのバンプはよりはっきりと盛り上がってきて,これは何かあるっ,ということになったのだそうです。いやー,こういうことを言ってみたいですね。ヒッグスを探しているときも似たような状況ではあるのですが,全く違うところが2つあります。1つめは,ヒッグスの場合あるのではないかと最初から予想して探していたこと。2つめは,ヒッグスの場合極めて大人数で色々なグループが探していたこと。この2つは,SOさんたちの場合と大きく異なります。この点を考えると,物理的意義はもちろんヒッグス発見にあると思いますが,実験屋が何かを見つけ田ときの驚きという観点からは,X(3872)の発見もかなりエキサイティングな瞬間だったに違いありません。

この話を当事者から聞くと,物理的な意味はよくわかりませんが,ハドロン物理や原子核物理をやってる人がなぜ面白いと思って彼らの研究をやっているのかがわかる気がします。なんでもいいから,世界で初めて何かを見つけぜと言うのは,研究者的には分野を問わず気持ちいい瞬間ですから。ただ,もちろん,有限の公費を使って研究は進められていますから,何かをやりたいと言った場合は取捨選択しなくてはならなくて,その選択は科学的な価値や波及効果でなされなければならず,一つのプロジェクトの予算規模が大きい素粒子物理分野にはそういう選択をいつも突きつけられているので,「俺が面白いんだからいいじゃん」という科学者本来の発想が他の分野の人よりも少ないのかもしれません。何が面白いのか説得してなんぼ,みたいな考えが染み付いているかもしれません。

それはさておき,SOさんがX(3872)を発見したときの本人談は非常に興奮しました。何かそういうものを見つけたいものです。

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J-PARC施設見学

先週J-PARCへ行った時の話です。

PACは3日間行われるのですが,初日の午前中に,PACの委員を対象にしたJ-PARC施設見学という催しがありました。前回5月のときもあったのですが,私は初日参加できなかったため,今回は初めての施設見学。ハドロンホール,MLF,T2Kの前置検出器エリアの3箇所を見学することができました。

ハドロンホールには,素粒子関連ではKOTOがあります。研究室のメンバーも参加し,親しみのある検出器を初めて見ました。と言っても,メインな検出器である電磁カロリメータと大きなγ線veto検出器たちは真空タンクの中なので見ることはできず,電磁カロリメータの後方にあるγ線veto検出器の一部をなんとか見ることができた程度でした。それでも,スライドなどで説明されるだけよりも,やっぱり実物を見るのはいいもんです。

ハドロンホール全体としては,ターゲットの交換を終えて,来年早々のランの準備が急ピッチで行われているという印象でした。特に大きな目玉は,ハドロンホール全体の排気システムでしょうか。例の事故の教訓を元に,様々な安全装置が追加されましたが,その一環として,ハドロンホール内の空気が直接ホールの外に出ないような仕組みに作り変えられています。それから,COMET実験用の建物の建設も凄い勢いで進んでいるようでした。

そして今回一番の驚きはMLFの建物でした。MLFが何の略が知りませんが(Material and LifeなんとかFacilityでしょうか?),まあとにかく本来は素粒子物理用の実験施設ではなく,物性の人たちのための(?)実験施設です。3GeVの陽子をターゲットにあてて中性子を生成。その中性子を利用した物性実験が主に行われています。で,何に驚いたって,その建物の綺麗さです。バスで連れて行かれたのですが,その建物はどう見ても実験施設には見えませんでした。外見綺麗なオフィスビルディングだし,建物の前にはモニュメントがあるし,中に入ってもどっかのオフィスビルのような綺麗さです。古今東西,素粒子物理実験の施設はコンクリートうち抜きで,工事中の建築現場みたいなのばかりです。実験施設というとそういうのを無意識に想像していた私にとっては本当に衝撃的でした。我々の分野の人間だったら,そんなとこにかける金があるなら実験そのものに金をかけると皆が思ってしまうのでしょうが,分野が異なると考え方が違うものです。というか,やっぱり,素粒子が貧乏なだけで,物性だと圧倒的に金が集まるのですかね。

ちなみに,MLFでも素粒子物理実験はやっていて,ミューオン関連の実験が幾つか走っています。加えて,飲み仲間のMくんがやろうとしているステライルニュートリノ探索実験もMLFでやろうとしています。MLFのいいのは,金のないKEKが運転するメインリングと違って,常に安定してビームが出ていることです。メインリングを使う実験は,T2KやKOTO,その他原子核関連の実験全てが運転時間の短さに頭を悩ませています。KEKの予算が極度に減らされた上に,電気代が高くなってしまって,実験設備を作ったはいいが,加速器を動かすための金がないという呆れた状況になっています。MLFには,そういう問題がないというのが大きな強みです。

そういえば,話に出たので書きますが,せっかく巨額の資金を使って実験施設,設備を作ったのに,電気代がなくて実験できないという予算措置は,なかなかにツライものがあります。この前話をしてお役人の方々の考えややり方があるというのも(前から聞いていた通りではありますが)よーくわかるのですが,それにしても,予算がついたプロジェクトなのに物を作るだけ作って実験できないというのは予算の無駄遣いだし,一番の問題は,国際的な信任を失うことです。素粒子物理の実験というのは,LHCは言うに及ばず,最近のプロジェクトはほぼ全て国際協力で行っています。日本で予算がついた,何年後にはどういう成果が得られそう,という見通しを立てて外国人が各国で予算を獲得して日本に実験をやりに来るのに,途中でやっぱりやれませんとなると,科学的だけでなく国家の信用を失っていまいます。こういうのはなんとか避けたいです。金がないのは,個人も国も同じで,誰が悪いわけでもないのすが,関係各位の協力でなんとか良い方向へ話が進むことを祈るばかりです。

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新竜王

PACがようやく終わったところですが,今日はPACのことではなくて将棋の話題です。

タイトルにあるように,糸谷(いとだに)七段が森内竜王を4-1で破って新竜王になりました。将棋観戦が趣味なのですが,このブログを見てる人が将棋に興味を持ってるというわけではないので,普段はあまり話題にすることありませんが,今回は私たちの研究室が世界に誇る秘書の人に勧められた(?)ので,話題にしてみました。

というのは,糸谷新竜王は大阪大学の学生なのです。大学生をやりつつプロの棋士というのはそれだけでも相当珍しいのですが,学部から阪大でさらに大学院にまで進学しています。ちなみに文学研究科の哲学専攻。阪大に入ったときから,その強さと,国立大学の学生ということで注目していましたが,ここ数年強いながら周りが期待する活躍には至っていませんでした。十分強いのですが,タイトルを取ってもいいと多くの人が期待していたので,その期待ほどの活躍には至っていなかったということです。

ところが,今期の竜王戦でタイトル初挑戦。初挑戦だけでなく,18世永世名人資格保持者の森内竜王を破るという快挙を達成しました。阪大は旧帝大でありながらノーベル賞受賞者を輩出してないなど,今ひとつパッとしない大学という印象があったのですが,将棋ファンにとってはノーベル賞受賞者が出たくらいの嬉しさです。何にしても明るい話題が飛び出してよかったです。

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明日からJ-PARC PAC

明日からのJ-PARC PACに出席するため,今日は夕方から東海村へ移動です。そして明日から3日間,PACのメンバーは缶詰状態になります。前回始めてこの催しを経験して,朝から晩まで本当に缶詰,かつ,各プロジェクトへのPACからのコメントを纏める作業があり,そのハードさに委員になることを安請け合いしたことを後悔しました。特に,素粒子関連はまだいいのですが,原子核関連は内容というか面白さを今ひとつ理解できないので,話に追いついていくだけでも一苦労です。

毎回公開セッションとPAC委員だけの閉じたセッションとがあり,私たちの研究室のボスであるY教授もKOTO実験の援護射撃のために明日の午後は東海までわざわざ行くと言ってました。また,委員だけの閉じたセッションでは,全てのプロジェクトについて同じ時間を割いて議論をするわけでは当然なくて(そんな時間はありませんから),その回ごとに議論すべき重要な項目が決められていてその項目について重点的に議論します。無知な私は,それらの議論になるべく振り落とされないよう,昨日と今日はその予習をしています。

学会発表やセミナーで話を聞くと,そのときはわかったつもりになったり,面白いと思っても,後でよく考えると全く何も身に付いていなくて驚くことが多いですが,というか,毎回そうなのでもはや驚くこともなくなってきていますが,そういう受け身の学習態度と違って自分で色々調べたり考えたりすると格段に学習効果が高いので,自分の勉強という意味ではこのPACのお役目は非常に良い勉強となっています。しかし,PACの役目はプロジェクトに対する公平な評価なので,勉強で終わらないようにしないとなりません。

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Sくん

先週はテラスケール研究会その他の用務で一杯一杯だったために飲みに行く暇がありませんでしたが,研究室のポスドクだったSくんが,今日からKEKに助教として異動となりました。研究内容については色々悩んだようでしたが,ひとまずこの業界に残れるポストに就いたのは,第3者から見た感想としては正しい判断だったのではないかと思っています。

SくんはKOTOをやっているために,私がこのブログで記事に取り上げることはほとんどありませんでしたが,高エネルギー物理学業界を将来引っ張っていける,そういう人材として非常に期待しています。何を話してもちゃんと大人の会話ができる広い見識を持ちつつ,現場での解析を中心的に進めている,そういう優秀な人物でした。研究室としては寂しいことですが,KOTOにとっては状況は変わりませんし,本人に取ってはパーマネントのポストを手に入れたわけですから,非常に悦ばしいことです。

彼は今日からJ-Parcで頑張っているはず。そのJ-ParcへPACのために明日から行くので,そこでまた会うかもしれません。この業界は狭いので,同じ業界に残った場合嫌でも顔を合わせる機会が多く,研究室を去ったからといってセンチメンタルな感情を持つことはあまりありません。そういう意味では,修士で卒業して一般企業に就職した人の場合とはだいぶ感じが違います。

ぐだぐだと書きましたが,Sくんのさらなる活躍を期待する師走の初日でした。

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