ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

社会的手抜き

「人はなぜ集団になると怠けるのか」という本を読んでいます。心理学(?)の研究者が書いた本で,大筋は予想通りというか,当たり前というか,社会的手抜きは個々人の勤勉性,動機付け,倫理観等々に基づくという身も蓋もない結論なのですが,枝葉末節部分では,そんなことまで研究してるのかという面白い実験・調査結果があって興味深いです。例をいくつか紹介します。

私自身前から気になっていたのですが,何人かで多重チェックするシステムが有効なのかを調べて研究結果があって,それによると,1人でやるよりも2人でダブルチェックしたほうがミスは少ないのですが,3人以上になると人数が増えれば増えるほどミスが多くなるのだそうです。本に書いてあった実験では,郵便物の宛名や住所を1人,2人,...と人数を変えてチェックさせるのですが,ミス発見率は2人ないしは3人くらいが最大でそれよりも人数を増やすとむしろ落ちてしまうのだそうです。自分の生活を振り返ってもよくあることではないかと思います。会議に一人で参加して自分がチェアしてるときは,会議全般にわたって物凄く集中してますが,参加人数が増えれば増えるほど一人一人の集中度合いって落ちていきます。

同じような話ですが,リスクホメオスタシスという考えがあるのだそうです。チェック体制を多重化したり,安全技術の導入によりリスクが低下したと認知すると,人間の行動はよりリスクを高める方向へ向かうのだそうです。車のABS装着車と非装着車を比べた研究があって,事故の件数や大きさに有意な差はなく,むしろ逆にABS装着車に乗ってる人のほうが急減速や急加速その他あらっぽい運転をして,周りの車の流れを乱す傾向が見出されたのだそうです。これもなんとなく想像はしてましたが,それを裏付ける研究結果があるとは思っていませんでした。色々な研究をしているものですね。

それともう一つ,スポーツの分野では社会的手抜きに関する研究が非常に盛んで,色々なことが研究されています。たとえば,7勝7敗で千秋楽を迎えた力士の千秋楽での勝率が異常であるということもちゃんと調べられています。誰もが変だよねぇとは感じていると思うのですが,それをちゃんとデータで見せられると,あまりの酷さに驚きます。ただ,付け加えると八百長が問題になったことが何年か前にありましたが,それ以降は千秋楽での異常な高勝率という現象はだいぶマシになったそうです。

それからスポーツで盛んに調査されているのが,ホームアドバンテージというものだそうで,非常に多岐にわたるスポーツについてそれこそ古今東西色々なものが調べられています。その中でも(日米の)野球は,試合数が多く歴史もあることからデータが十分で色々と研究されています。細かい話で色々と面白いことはあったのですが,私が一番興味をもったのは,アメリカのワールドシリーズと日本の日本シリーズにおけるホームチームの勝率です。アメリカのほうが日本よりもホームチームの勝率が高いのですが,第1戦から第7戦までの勝率の推移を見ると,ワールドシリーズと日本シリーズでの推移の仕方がおもいっきり一緒なのです。基本的に1,3,5戦では勝率が高く,2,4,6戦では勝率低め,第7戦は特に低いという傾向があって,その変動の仕方が日米で非常によく似ているのです。ちなに,第7戦でホームチームの勝率が低くなるのは有名な現象だそうで,チャンピオンシップチョークと呼ばれているのだそうです。この日米での共通の現象はまだ理解されていないらしいのですが,いやー,非常に興味をそそります。

試合の勝率を大きく左右するのは投手の起用法だと思うのですが,それがホームチームの勝率に変化を与えるというメカニズムを思いつきません。単なる勝率であれば,第1戦をホームで迎えたチームとアウェーで迎えたチームでは投手起用法に違いがあり,それで奇数戦と偶数戦で勝率が違うなんてことはあり得ると思うのですが(たとえばホームチームは第1戦にエースを投入するけど,それを見越したアウェーがエースを第2戦に投入とか),変動に着目してるのは単なる勝率ではなくホームチームの勝率で,そこがよくわかりません。あとは,ホームかどうかで指名打者制度があるかないかという違いが生じますが,それも奇数戦と偶数戦での違いを生むことにはなりません。

大抵の研究結果については,人間の心理という意味で薄々そうだろうなと思っていたことで,それをきちんと証明する実験がなされていたということに興味を感じたのですが,ワールドシリーズと日本シリーズでのホームチーム勝率の変動の仕方については,その動きを説明する仮説を思いつくことができません。不思議です。

本に書いたのはわかりやすい例で,ホントはもっと解釈に困るような面白いデータがあるんでしょうね。

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オリンピック雑感

オリンピックが閉幕しました。ほとんどテレビを見ない私も,ハイライトを少しニュースで見たり,ウェブで結果をチェックしたりしました。そこで思ったことが2つあります。

1つは,フィギュアスケートの採点についてです。毎回毎回採点競技では採点がおかしかったとかいう話題が出ます。基準はあると言っても結局は人間の主観で採点してますから,不公平ではないかという採点が毎回毎回あっても不思議ではありません。私が不思議だと思ったのは,採点競技は人間が採点するからという理由でクレームがつきますが,時間を計測する競技ではクレームってあんまり聞いたことがありません。同時に用意ドンでスタートして,誰が最初にゴールをしたかを競っているのであれば,まあ,皆が見てるのでそういうクレームはつきにくいかと思うのですが,真に計測だけが頼りの競技ってありますよね。スキーのアルペン競技やボブスレーにリージュ,それからスピードスケートも一緒に滑ってる人以外だと計測だけが頼りです。でも,その測定精度については誰も疑問を挟みません。機械が計っているからという理由で測定結果に疑いを持たないのだと思いますが,主観を持たない測定機器にも測定誤差はあります。そこら辺は誰も疑わないのか,それともそういう誤差は恣意的ではないので,単にラッキーあるいはアンラッキーと考えて割り切るのか。私には疑わない理由がわからないのですが,とにかく,誤差の評価なしの測定結果を誰も疑わないのだなぁ,と変な感慨があります。

時計自身についてはきっと物凄い高精度だと思うのですが,それ以外の部分にはそれなりのjitterがあったりしないのですかね。って,どういう仕組みで計測してるのか知らないので,その大きさについて全く予想がつかないのですが,もし真剣に競技してたら気になる部分ではないかと思うのですが,そこら辺選手たちはどう思ってるんでしょうね。たとえば,陸上の短距離だとスタートの時にスターティングブロックにかかる力がスタートから何秒以内だったらフライングという風に判断していますが,スピードスケートだとそういう仕組みがあるようには見えません。それから,スキーのアルペン競技だとスタートが機械式のゲートのように見えるのですが,機械部分にはそれなりのjitterがありそうに見えます。その他,測定の安定性(=時間変化)は大丈夫なのかとか,温度依存性はないのかとか,まあないんでしょうけど,真剣にやってたとしたら気になる点が結構あります。

それからもう一つは,今回のオリンピックでの日本のメダル獲得数は国内開催だった長野を除いて過去最大だったというコメントをニュースでよく見かけました。が,冬季オリンピックって競技数が激増してるじゃないですか。ちょっと調べてみたのですが(数字はそれほど正確ではないです),今回の競技数は98です。で,私がオリンピックを最も熱心に見ていたのが80年半ばで,そのときの競技数は39です。2.5倍という物凄い増加なんですね。ほぼ単調増加です。なので,日本の競技力に変化がなければ毎回過去最多のメダル獲得数になるはずです。それをことさら今回の日本のメダル獲得数最多みたいに強調するのは,なんというか,典型的な数字のマジックで,情報操作甚だしいです。ちゃんとノーマライズして数字を比較してほしいもんです。って,実はノーマライズしても今回はメダル獲得数多かったんですかね。

と,書いてて気になったので今調べました。メダル総数に対するシェアというのを載せてるサイトがありました。それによると,シェア最大は例外扱いされてる長野で4.90%。以下,アルベールビル4.09%,札幌2.86%,リレハンメル2.73%,そしてソチが2.72%と続いているようです。確かに多いと言えば多いのですね。とは言え,日本人がメダルを獲得した冬季オリンピックは12回しかなくて,そのうちの5番ですから,それをことさら多いと強調するのはやっぱなんか違うような気がします。

とまあ,ぐだぐた書いていますが,スポーツ好きなのでそれなりに楽しみました。個人的には女子のスキージャンプで物凄い強い選手が4位に終わってしまったのが残念でした。非常に真面目そうな女の子だったので,プレッシャーを感じてしまったんですかね。競技の後は見てて可哀相でした。まだ若いので今回の結果でめげずに,また頑張ってほしいもんです。

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アングレールの講演

CERNでアングレールが今日講演をします。現地時間で16時半,日本時間にすると...夜中の0時半からの開始です。ウェブキャストされるみたいなので,興味のある方はオリンピックの代わりに講演を見て(聞いて)みてはいかがでしょうか。詳しい情報はここにあります。

私は明日の朝が早いのできっと寝てます。もし講演を見た方は,どんな話だったか教えてください。

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今年もやります春の学校

2011年から始めた春の学校を今年もやります。5月29から31日の予定で,会場をすでに仮抑えしてあります。過去3回と同様,会場そのものは違いますが,今年もびわ湖畔です。

今日は,今年のプログラムについて世話人でテレビ会議をしました。スクールの主役が参加学生なのは間違いありませんが,過去のスクールが成功した(と思っているの)のは,講師役の人々が非常に面白く,かつ修士の学生にもわかりやすい話をしてくれたおかげなので,プログラム選定=講演者選びは結構慎重に真剣にやっています。間違いなく,ためになりかつわかりやすい話をしてくれる人は何人かいるのですが,内容のバランス等を考えると複数の境界条件が課されて,解を求めるのがそれなりに難しくなります。

まだ発表はできませんが,今年も一流の講演者を集める予定ですので,関係者の方々は周囲の学生さんへの宣伝をよろしくお願いします。

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4年生ポジトロニウム発表

先週の修論発表会に引き続き,今日は4年生の卒業研究発表会がありました。

何度かこのブログでも取り上げたように,私たちの研究室の4年生はポジトロニウムの寿命測定を行いました。指導すべき立場の私が役立たずでほとんど何も指導していないにもかかわらず,3人が力を合わせて本当によく頑張り,大気中の寿命らしきものをそれなりに求めることができました。しかし,この結論に至るまでに様々な紆余曲折があり,実験方法も何度か別の方法を試しました。ポジトロニウムの元になる陽電子がトリガーカウンターで全部対消滅してしまうので,Na線源が陽電子を出す際にほぼ同時に出すγ線でトリガーをかけようと試みたり,レートが高くてさちってしまうNaI+PMTの配置を色々工夫したり,謎のノイズ源(イスではありません,念のため)の原因を追求したり(ADCから出ているというのが結果でした),その他様々な問題を自分たちで解決してやっと今日見せた結果に到達しました。その頑張りと,創意工夫は,正直,他のグループの研究内容を圧倒していました。

発表も非常によく纏まっていて,発表会に出ていた教員も今回の結果についてはみな興味津々でした。発表会の後の教員だけのクローズドセッションでも,ポジトロニウムの寿命測定についてのコメントを幾つかもらったほどです。

4月からこの3人が修士の学生として研究室に残ってくれるのは頼もしい限りですし,また,楽しみです。

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放射能は微生物では消せません

という記事をウェブで数日前に読みました。ちなみにタイトルは原文をそのまま引用しています。放射能ではなく,放射性物質くらいのほうがしっくりくるのかもしれませんが,記事の内容を読むと「放射能」でも正しいのかもしれません。そんなことはさておき,私知りませんでしたが,微生物で放射性物質を消し去るなんてことを主張してるトンデモの人たちがいるのですね。ググってみると多数ひっかかります。

ある特定の元素を吸着するような物は存在するのかもしれませんが,それによって放射性物質が放射線を出すことを止めるなんてことはあり得ないわけで,よくあるトンデモの一種と言えばそれまでなのかもしれませんが,まあ酷いもんですね。

酷いと言えば,大学でbe動詞の使い方を教えてる大学があって,文科省だかなんだかから指導を受けたという話もなかなかです。中学生で習うことを大学生になっても知らないのであればそれを教える意味はあるのかもしれませんし,現場ではそうせざるを得ない状況なんだろうということは容易に想像がつきます。しかし,大学でそんなことを教えなければならない社会というか学校教育制度の歪みにはホント涙が出てきます。

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ミーティング三昧

今日は密度の濃い1日でした。人と合って話をする案件が3つ,ミーティングが3つ。しかもミーティングの一つはATLAS大阪グループのミーティングなので私が気を抜ける時間はなく,また残りの2つのミーティングではどちらもトークがある,というわけで,気を抜く暇がほとんどなく,あっという間に1日が過ぎました。

それに関連するようなしないような話ですが,先週の金曜は浜松ホトニクスへ打ち合わせに行ってきました。浜ホトでの議論は自分の勉強に凄くなるので毎回楽しみなのですが,雪で新幹線のダイヤが無茶苦茶だったのには参りました。そもそも浜松ってのぞみが止まらないので,アクセスはあんまりよくないんですよね。距離の割に移動時間の長い出張でした。

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重き荷を背負いて

私の今の心境は,信康に切腹を命じた家康の心境に近いのかもしれません...。ブルーです。



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保育施設

今頃になって書きますが,STAP細胞というものを作った女性研究者に対するマスコミ報道が過熱してるとか。STAP細胞というのが何なのか全く知りませんが,凄い研究をしたからマスコミ報道が過熱してるのならいいですが,その研究をしたのが女性だからという理由で過熱してるとしたら,なんだかなぁという気分です。

私を知ってる人ならわかると思いますが,私は女性の地位や権利向上を訴えるような人間ではありません。そもそも女性うんぬんを抜かして,地位や権利というものを議論するのが好きではないし,ハッキリ言うと興味もありません。でも,研究や仕事の機会は誰にでも平等にあるべきだし,女性が少ない分野こそ女性が活躍できるチャンスがあったり,女性の活躍があればより活性化できる分野もあると思うのです。物理,なかでも素粒子物理なんてそういう分野の典型なので,昔から女性に素粒子物理の宣伝をしなければならないと言い続けています。

という背景があって吠えたいのですが,日本は本当に子育てする世代に厳しい社会です。選挙になるたびに,福祉だ福祉だと言いますが,その福祉の向かう先は年寄りばかりで,少しは子供,というか子供を育てる環境に向けて欲しいもんです。働きたい女性,働けばデキル女性の多くが専業主婦になってるのは勿体なさすぎます。でも,現実はやっぱり育児が大きな壁になっています。少し前に書きましたが,子供を預けられる保育施設って本当に不足してます。解決したと前には書きましたが,また同じ問題が勃発して,それでこんなことを書いています。

それに,保育施設という社会的なインフラだけでなく,世間は子供を育ててる人に対して極めて厳しくないですか。電車にベビーカーを載せるのが迷惑だという議論がありますよね。確かに迷惑なときもあります。見るからにアホな主婦が連れ立って遊びに出かけてるのか,子供のことをほったらかしでデカイ声でバカ笑いしてたり,子供が騒いでいても一切注意しない若い親に遭遇すると,ベビーカーは迷惑だという気持ちが芽生えなくもありません。でも,これって明らかにバイアスだと思うのです。人に迷惑をかけることを気にしないそういうバカ親は平気でどこにでも行くけれど,そうでない多くの親は外出を控えたり,ベビーカーを使うことを極力避けたりしてると思うのです。実際,ベビーカーで電車に乗ってるお母さんが肩身が狭そうにしてるのだってよく見かけます。それなのに,少数の(そうでもないのか?)バカ親の振る舞いを見てベビーカーが迷惑だというのは,そうでない周囲に気を遣ってる親が可哀相すぎます。

電車の中で迷惑という話をするなら,ベビーカーなんかよりも,スーツケースでもない普通のバッグを床に置いてる若者やサラリーマン,偉そうにふんぞり返って足を組んでる老若男女のほうがよっぽど迷惑です。下手するとベビーカーの面積よりも無駄に面積を使ってるヤツがたくさんいます。まずはそいつらに文句を言えと思うんですよね。私なんて実際に言っちゃうからよくトラブルになったりしますが。ははは。

話が脱線しまくってますが,とにかく,ベビーカーに文句を言うくせに上記のような人々に文句を言わないのは完全に弱いものいじめです。子供を育てることを強烈に否定というか,水を差すというか,まあとにかく子供を育てるなと言ってるに等しいと感じてしまうのです。いや,ベビーカーの例はあまり良くないのかもしれないですよ,熱い議論のネタになってるくらいですから,色々な意見があると思います。でも言いたいのは,日本は社会精度だけでなく個々人が子供を育ててる人に対して極めて不親切だなということです。日本の航空会社の飛行機に乗って,周囲に泣いてる乳幼児がいると乗務員が迷惑をかけてすみませんと謝ることがあります。けど,私的にはそんなことはどうでもいいから,後ろの客が私のイスを触ったり蹴ったりすることをまずは止めて欲しかったりします。これって,子供の泣き声に対する寛容度の低さじゃないかと思うんですよね。

ちなみに,私が大学生だった頃に親友のTくんによく言ってたのですが,バカ=人の迷惑かけることを気にしない人と定義して,バカ増大の法則を主張していました。先の例でもあるように,子育てをしずらいと感じるのは施設だけではなく,社会からの風当たりも大きいです。人に迷惑をかけることを気にして子供を持ちたくないと思う人もきっといるはずです。一方,人に迷惑をかけることを気にしない人は子供を持つことに対する閾値が下がります。よって,こういうことが何世代か続くと人に迷惑をかけることを気にしない人だらけになっていきます。プラス,もう1つの効果と合わせて(この内容はブログでは書けません)人類(?)はバカだらけになっていきます。というのが,私が主張したバカ増大の法則で,Tくんというのは私なんかよりも遥かに優秀な男だったのですが,この法則を言った時の彼の感激っぷり(?)は今でも忘れられません。

結局また脱線して何を言いたいのか忘れかけていますが,そうです,働きたい人が夫婦揃っていつでも働けるくらい保育所を増やせというのが一番言いたかったことです。働けるのに,働きたいのに保育所がないがために働けない人がたくさんいて,そういう人の代わりにやる気のない人が働く社会は勿体ないし,不公平を感じます。

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恒温槽

新しく恒温槽を買うことになったので,今まで使っていた恒温槽をとある研究機関に輸送することになり業者さんにその作業をお願いしていました。今朝その搬出作業を行ってもらったのですが,その手際のよさに感心しました。幅と奥行きが1m弱,高さが1m30cm程度で,重さが(今日業者さんに聞いたら)約250kgというものなのですが,梱包作業,移動,トラックへの積み込み,どれをとってもプロの技で,見ていてホント気持ちよかったです。

ところで恒温槽,色々な場面で使われる実験器具だと思いますが,私たちの場合,主にシリコン検出器を冷やすのに使います。普通のシリコン検出器,というか,放射線を大量に浴びてないものなら別に冷やす必要はないのですが,私たちの研究テーマで重要なのが放射線耐性に強いものをつくることで,この開発サイクルではシリコン検出器を冷やすことが必須となります。

放射線耐性を高める工夫をこらしたセンサーの試作品を作ったとします。そしたら実際に放射線を大量に浴びせて,放射線量によって性能がどう変わるかを測定します。この過程で冷やさなければならない理由が2つあって,まず1つには,放射線を浴びたシリコンセンサーは常温だと放射線によるダメージがどんどん進行してしまいます。放射線ダーメージとここで言うのは具体的には不純物濃度の変化なのですが,その変化の速度が温度に依存していて,温度が低いほど不純物濃度の変化がゆっくりになり,センサーとしての寿命が長くなります。なので,ATLAS実験他放射線によるダメージが多い環境でシリコン検出器を使うときは,-10℃とか-20℃とかに冷やして使っています。というわけで,放射線を大量に浴びせたセンサーは,センサーとして使う使わないにかかわらず常に低温で保存(?)します。この目的では,単に冷やしておけばいいので恒温槽ほど高価なものは必要なくて,−20℃あるいは−30℃程度まで冷やせる業務用の冷凍庫を使ったりします。

もう一つの理由は,センサーの暗電流に関係します。センサーの暗電流は受けた放射線量に比例するので,私たちの開発過程で大量に放射線を浴びせたセンサーの暗電流は放射線を浴びる前に比べて桁違いに大きくなっています。それをそのまま使おうとすると熱暴走してしまい,使い物になりません。性能評価どころの話ではなくなります。一方で,暗電流は温度にも依存します。冷やせば冷やすほど暗電流が減ります。そこで,放射線によるダメージを受けたセンサーの暗電流を抑えセンサーとして動作させるためには低温にする必要があります。今度購入する恒温槽は−60℃程度までいけるもので,実際には−40℃程度まで冷やして測定を行います。

というわけで,放射線耐性を調べる試験を行うには,保管用の冷凍庫と低温恒温槽,これら2つが必需品となります。

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モバイルだけに?

ソニーがVAIO部門を売却するのですね。先週だったか,NECがBIGLOBEを売却するというニュースもありました。企業的には,もはやモバイル関連事業以外やってられないという感じなんですかね。モバイル機器を持たない人間の生活がどんどん不便になっていきそうな未来を予感させられます。携帯電話大嫌いな私ですら,携帯電話を持たないとならない時代が来るのではないかと戦々恐々です。でも,もし有線でのインターネットプロバイダーサービスがなくなるときには,きっと,モバイルルーター(って呼ぶのでしょうか?)がそれにとって代わっているんでしょうね。そうなれば,やはり携帯電話は持たずに済みそうです。

ところで,適応障害の私には携帯電話(電話自体ではもはやありませんが)は本当に迷惑極まりない物です。通勤しないで大学あるいは家に籠っている分にはもちろん関係ありませんが,携帯の画面を見ながら,操作しながら歩いてきて,人を全くよけようとしないヤツとか,狭い通路を立ち止まったりしながらノロノロ歩いてるヤツを見ると,そいつの電話を奪って壊してやりたくなります。はい,完全に八つ当たりです。包丁で殺傷事件が起きるから包丁は良くない,というようなアホな議論と同様の単なる八つ当たりです。なのでそれが携帯電話自体を否定する理由にはならないのですが,自分が携帯電話の有用性をちっとも感じないので,単なる迷惑な物=存在しなくてよい物になってしまっています。

私の携帯嫌いはさておき,そのうち本当に有線によるインターネットサービスって廃れるんですかね。無線でBandwidthをどれだけ確保できるようになるのかが気になるところですが,どうなんでしょう。素人的には結局距離の逆2乗なんじゃないの,とか思ってしまうので,アクセスポイントを増やすくらいしか速度向上の方法を思いつかないのですが,何か技が開発されて...いるんでしょうね。

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修論締切直前

一昨日は高エネルギー委員会に出席するため出張でしたが,それ以外は,ここ数日ずっと修論を読んでいるかのような気分です。そうです,私たちの大学の理学研究科では事務への修論提出の締め切りが明日に迫っています。審査員への提出は修論発表会(審査会)の1週間前と決まっていて,それが明後日。

ということで,まさにラストスパートの時期です。私たちの研究室では,Kaon関係の学生が2人,ATLAS関係の学生が2人,合計4人がラストスパートをかけています。ATLAS関係の学生については私が指導しているのでどんな内容か当然わかっていますが,Kaon関係の学生の論文は明後日始めて見ることになるので,どんな内容なのかある意味楽しみです。

今年は自分の研究室以外の学生の副査も頼まれているので,修論発表会までに合計5人の学生の論文を読まなければなりません。でもまあ,ATLASの学生の論文については提出後のものを読む必要はないので,実質3人分を1週間で読むことになります。それに加えて,修論発表会,そしてその練習会もありますので,あと10日間くらいは修論メインの日々となります。

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FCC

FCCと言ってもなんのことかわかりませんよね。Fermilabにいる人なら,Feynman Computing Center だと思ってしまうかもしれませんし,英語の頭文字をとった呪文が多くてホント鬱陶しいです。って,自分でFCCって言ってるのですが,今私が書こうとしてるのはFuture Circular Collidersといって,HL-LHCの次を目指した円形加速器の将来計画のことです。

ヨーロッパの高エネルギー物理業界が5年毎(だったかな?)に出す提言が去年更新されたのですが,その中で,重要なプロジェクトがざっくりと言って4つリストアップされていました。1つ目は現行のLHCとそのアップグレード計画。2つ目はエネルギーフロンティア実験の将来計画としてポストLHCを目指した円形加速器計画。3つ目がILCなどの線形加速器。CLICも念頭にはあるのかもしれませんが,それについては言及されず,表向きはILCが大切だと言ってます。そして4つ目がニュートリノの長基線実験。

こういう提言があり,その3つ目をFCCと呼んでいます。色々なオプションがありますが,メインなオプションはLHCのトンネルを使ってさらに高磁場の磁石を使うことでエネルギーを上げる(High Energy LHC略してHE-LHC),あるいは周長80キロくらいのもっと大きなトンネルを掘ってエネルギーを上げましょう(Very High Energy LHC 略してVHE-LHC),という陽子陽子衝突型円形加速器です。それに加えて,もしILCが実現しない場合はそのデカイトンネルに電子・陽電子衝突型,あるいは電子・陽子衝突型加速器を作ろうというオプションもあります。ですが,まあ今の段階で一番真面目に研究されているのは先の陽子陽子衝突型加速器です。というか,LHCよりも大きい物を作るというのはもうずっと前から言われていまして,実現可能性うんぬんを抜きにして,そういう夢を描いている人がいます。

VHE-LHCの周長は80キロくらい(あるいは100キロ)を想定していますので,大きさは途中で中止になったSSCと同じくらいです。テキサスでは途中まで穴を掘ってたくらいですから,あながち無理とは言えない計画なのですが,当時とは財政状況が違いますので,まあ難しい話であることは間違いありません。それでも,計画がなければ何にも始まりませんから誰かが始めるわけですが,それにしても20年後あるいは30年後を目指した計画っていうのは色んな意味でスケールがデカイですね。LHCも実現までにはそういう気の遠くなる年月を要したわけで,今LHCをやってる私たちとしては先人たちの努力に頭が下がります。

というわけで,FCCというものがヨーロッパの将来計画の柱と位置づけられているのですが,HL-LHCやILCなどに比べてまだ盛り上がりが少ない。って,まあ,時期がHL-LHCなんかよりもずっと後なので今盛り上がってないのは当然なのでsが,まあとにかくぼちぼちなんかやろうぜということになったらしく,kick-off meetingなるものが来週ジュネーブで計画されています。

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