ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

FPGA講習会終わる

昨日と今日の2日間,FPGA講習会というものを開催しました。高エネルギー業界の教祖Uさんを講師として招き,去年に引き続き2回目の講習会でした。

FPGAというのは...と,自分がそもそもわかっていないので一言で説明するのはなかなか難しいのですが,自由に書き換え可能なデジタル回路を実現するIC(と呼んでいいのか?)です。たとえば,AとBを入力としてAかつBのときにCに出力するというAND回路を作りたいとします。あるいはAまたBに入力があったらCに出力したいとします。等々,色々な回路を自由に構築できるのがFPGAの特徴です。今は非常に単純な例をあげましたが,それらの組み合わせで実に様々な回路を実現することができます。

高エネルギー物理業界では,検出器の信号読み出しやらトリガーやら様々な場面で電子回路を自作する必要に迫られます。その際に今まではNIM規格あるいはCAMAC規格と呼ばれるバス規格を持った大きな筐体+その筐体に入れて使う電子回路モジュールの組み合わせをよく使っていました。しかし,集積度やデータ処理速度の面からそういう装置を実際の実験で使うことは少なくなり,NIMやCAMACはもっぱら教育用として使われるようになってきました。その一方で,実験に応じてFPGAを使った信号読み出し回路を構築するのが最近の主流となりつつあります。

このブログでもたまに紹介していますが,私たちのグループの修士課程の学生のほとんどが同様のシステムを使い検出器からの信号を読み出すための電子回路基板を開発したり,データ収集システムを構築しています。というわけで,教祖のUさんには非常にお世話になっており,その布教活動の一環として(?)去年と今年の2回,大阪でFPGA講習会というものを開催しました。布教活動の手伝いというのは冗談ですが,非常にニーズの高い技術なので高エネルギー物理業界だけでなく近隣分野でも興味を持ってる人が多く,それならばということで開催しています。

その講習会が今さっき終わり,一息ついてるところです。Uさん,それから講師サポート役のH,Iくんお疲れさまでした。

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ラザフォード散乱実験

しばらく前に,今年度は物理学科3年生の物理学実験を担当している,担当はラザフォード散乱実験だということを書きました。授業は,火曜と水曜の午後ほぼまるまるで,基本1つのグループが7日間で一つの実験を終えます。昨日から2つ目のグループの実験に入り,私にとっても2回目の担当が始まったというところです。

授業はなんでもそうですが,1回目はとにかく大変で,2回目以降はexponential的(?)に楽になっていきます。ただ逆に言うと,大変ということは色々と自分自身で学ぶことが多いということなので,1回目は面白いのですが,2回目以降になってくると段々新しい発見がなくなってきてしまいます。いやホント1回目は色々学びました。ラザフォード散乱については公式くらいしか知らなくて,自分で実験をやったことがなかったので新たな発見ばかりでした。

2回目に入った今回は,実験そのものに対する新たな発見は今のところあまりないのですが,1回目より余裕が出てきた分,学生さんをよく観察することができます。そこにもやはり新たな発見があってなかなか楽しいです。自分ではすんなり行くと思っていた部分に学生がみんなひっかかり,なんでひっかかるのか最初はわからなかったのですがひっかかる理由がわかったり,というような発見があります。

時間が長いのは大変なのですが,なかなかに楽しんでいます。

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無利子無担保無期限?

日本中の多くの人がつぶやいたりブログに書いたりしているのでしょうが,無利子無担保無期限ならばぜひ私も金借りたいです。

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企業の研究所

なんだかよくわからないうちに担当教員の一人になってしまい,実働はゼロなのですが,先週の土曜日に学生が行っている将来展望ワークショップというものに出席して来ました。理学部出身で現在は企業で働いている人々に講演をしていただき,その後パネルディスカッションという内容で,全部の講演は聴けませんでしたが興味深い点が幾つかありました。

よくわかっていないのですが,おそらく趣旨は学生が自分の将来を考えるための場を提供するというものなので,そもそも私のような人間に向けての講演ではありません。それでも,ところどろこ興味を惹く内容はあって,特に企業での研究というものがどのようなものなのか興味を持ちました。私みたいな職業だと学生からずっと同じようなことwやっているので,他の職業の人がどういう感じで仕事を日々こなしているのか想像のつかない部分があります。実家が小さな自営業を営んでいたし,親戚一族も自営業者が多かったので自営業の人々の感覚というのはわかるつもりなのですが,大きな企業で働いている人の感覚というのが実は一番わかりません。でもって,自分の職業内容に近いこともあって,研究という物を大きな企業でやるというのはどういうものなのだろうか,という疑問というか興味が元々あり,それ関係の話をされた方もいたので,その辺りは興味津々でした。

しかし,講演に来ていた方も言ってましたが,自分が学部生のときに真面目に自分の将来について考えたことなんてなくて,ぼんやりと大学院に行くのかな,くらいのイメージしか持っていませんでした。それに比べて,ワークショップまで自分たちで開いて将来のことをきちんと考えようとしている学生がいるというのは驚きです。もちろん,私たちの時代にもそういう学生はいたとは思うのですが,ワークショップのようなことを教職員がサポートしてそれを実行するなんていうことは考えられませんでした。隔世の感があります。

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高エネルギー研究者会議奨励賞

非常にめでたいです。私たちのグループでD論を書いたHくんのD論が高エネルギー研究者会議奨励賞というものに選ばれました。

主に高エネルギー物理でD論を書いた学生の中から毎年2人程度(?)が選ばれている賞で,それなりのステータスがあります。実際,この賞を取った人たちの多くが各分野で今の高エネルギー物理を支えています。正直に言うと,なんでこの論文が賞なんだる?と感じる例も稀にはあるのですが,全体として見ると,毎年きちんとした人が賞を受賞している印象があります。

ATLASの学生や若手ポスドクたちが,私のD論に対する閾値が厳しすぎると,HくんですらD論を書くのにかなりの時間を要している,多くの学生が私の審査の前ではDを取れないのではないか,というようなことを言ってるとたびたび聞きます。確かに閾値が高いのは間違いないと思うのですが,Hくんの場合は最初から賞を狙えると思っていたのでより一層ハードルを高くしました。

指導教員のバイアスが入っていますが,実はなんとか賞を取れるのではないかと思っていました。オフィシャルにアナウンスされたのは昨日ですが,受賞が決まった報告はかなり前に受けていて,それを聞いたときは驚きよりも「そうだよな」というのが第一感でした。それくらいクオリティの高い仕事でした。

それにしても,そういう研究・仕事がちゃんと評価されて本当によかったです。Hくん,本当におめでとう。

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トーク終了

それほど気合いの入った準備はできませんでしたが,つつがなく自分のトークを終えることができました。Reviewというわけではなく,若いポスドクあるいは学生がするようなトークだったので準備がそもそも楽だったというのもありますし,発表内容が自分が一番興味を持っているH→bbとH→ττだったのでこれまた発表しやすかったです。

しかし,自分のダメダメトークを棚に上げて言いますが,Review talkをした人も含めて自分が出ていたヒッグス関連のセッションでは,ダメダメトークが割と多かったのは残念でした。質問されてもほとんど何も答えてない発表者が結構いて,かなりガクッときました。もしかすると,自分がやってる研究内容とは違う発表内容なのかもしれません。

ATLASではconferenceでトークする人間が年間1000人オーダーでいます。ですから,どのconferenceで,どのトークを誰にさせるのかを決めるのも一大プロジェクトです。実際には誰かにトークを依頼しても都合が悪くて断られることも結構ありますから(私自身もすでに3回くらい断り続けてきました),1000人の発表者のために3000人くらいは候補を用意しておかなければなりません。ATLASではその仕事を2つの階層に分けてやっていて,私はその階層の楽な方の仕事をしていたことがありました。それはまだ大したことはないのですが,大変なほうの階層では日々数時間毎日仕事をしなければならないそうで,その担当者になるとconferenceの発表者選びが仕事の大部分となってしまうほどだそうです。

そういう大変な背景があるために,conferenceでの発表者がその発表内容のエキスパートではないなんていうことが,大きな実験グループではそれなりにあります。発表者がいい大人の場合,背景知識もありますし,なんというかやはり懐が深く広いので,自分の専門以外の発表内容でもそれなりの発表をすることができるのですが,若い人の場合,自分がやってること以外を発表するとなると結構辛いことになることがあります。もしかすると,今回キレのないトークをした人はそういうことだったのかもしれません。

人のことはさておき,自分のトークを無事終えたのでそれなりにホッとしています。

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初台湾

台北に来ています。明日からのconferenceでトークをするためです。conference自体はわりと規模が大きくて1週間ほど続くのですが,私は金曜日にKEKに行かなければならないので,自分のトークを終えた翌日である木曜日にKEKに向けて移動します。そうです,火曜の晩に台湾入り,水曜にトーク,木曜朝には台湾発という短期滞在です。せっかくなので故宮博物館くらい見物できればと思っていたのですが,自分のトークは最悪のタイミングで入ってしまいました。

タイトルにあるように,台湾に来るのは初めて,かつ,この前のモロッコの経験もあって,来る前はちょっとびびっていたのですが,来てみたら今のところ何の問題もなくそこそこ快適です。それでもやはり色々と不思議なことがあります。今直面している謎(?)は,風呂場です。バスとトイレが一体なのですが,かなりの広さですし新しいので一見そこそこ快適です。でも,シャワーを浴びる場所とトイレや洗面台のある場所の床の高さが同じなので,シャワーを浴びると水がトイレの方にまでやってきてしまいます。フランスやイタリアだとシャワーカーテンみたいなものが全くなくてトイレが水浸しになってしまうことがよくありますが,このホテルもまた別の経路でトイレの床が水浸しになりそうです。。それから,メキシコとかでも経験しましたが,トイレにトイレットペーパーを流すなという張り紙があります。下水の整備が行き届いてなくて排水がダメダメなんでしょうね。

ま,こんなのどうってことない話なので別に台湾に対する印象が悪くなってるわけでは全くありませんが,風呂とトイレについては日本の快適さが世界中で際立ってることを再認識しました。というのも,今泊まっているホテルは値段は高くありませんが,今年できたばっかりのわりと小綺麗なホテルなんですね。それでこれなので,やっぱ日本の水回りは最高かなと思った次第です。実際,欧米とかもシャワーの水圧がダメダメなホテルって結構多いですが,日本でそういう経験したことありません。

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たくさんの目

今週国際会議でATLASのトークをするのですが,ATLASグループの場合,発表前にスライドをグループ内reviewerに提示。コメントをもらい,さらにリハーサルまでやります。私もその手順に従い,先週リハーサルをやったのですが,なんというかメンドクサイと思ったことでも,それなりに得ることもあるんだなぁという感想を持ちました。

正直,こういうのは形式上のことで,鋭いコメントがあったり,厳しい議論がされるわけではありません。それでもこういうことをやらないと,とんでもない発表をしてしまう人間がいるので,形式上のことでもやらないとならないとは思っていました。実際,コメントの多くは役に立つようなものではないのですが,それでもたくさんの目でチェックをしているので,たまには有益なコメントもあるんですね。こういう経験をすると,やっぱりたくさんの目というのは重要なんだなぁ,と再認識します。というか,偉い人はツマラナイと思える(=凡人だと聞き逃す)意見でもちゃんと聞いていて,重要なことを取り入れることができたりするんでしょうね。

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集中講義とSAP

Hくんの集中講義面白かったです。初日は,書類との格闘と授業のために全然聞けませんでしたが,2日目と3日目はだいたい出席できました。そのために夜中に雑務処理をやったので,授業中寝てしまいそうなときがありましたが。。

それはさておき,内容も期待に違わずわかりやすかったですが,質問に対する彼の対応には感心させられます。こちらがどんなアホな質問をしても,学生が素朴な質問をしても,さらっと流すのではなく非常に真摯に考えてくれて,質問者が意図した内容よりも深く考えた答えを返してくれます。集中講義のあとに学部3年生向けの輪講もやってくれたのですが,彼のそういう姿勢が学生にも伝わったのか非常に多くの質問が出ました。彼の対応を見習わなければなりません。

今日はこれから高校生相手の講演があるので,その姿勢を自分でも見習う早速の機会が訪れました。って,そうです。ここ数週間,というか2,3ヶ月あまりにも忙しくて忘れていましたが,今日は,Saturday Afternoon Physics(略してSAP)という物理学専攻で主催している高校生対象のレクチャーシリーズでの講演があります。毎年この時期には同じようなことを書いていますが,かれこれ10年近く(?)続いている企画で,毎年200人近い高校生が6週間に渡って土曜日に講演を聞きにきます。講演だけでなく,簡単な実験をやったり,施設見学をしたりと,かなり充実した内容です。

その宣伝をすっかり忘れていました。もう今さらなので仕方ありませんが,その分,今日の講義では高校生を楽しませられるように頑張ってきます。

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Hくん集中講義

T大の素粒子理論で活躍しているHくんを,実験屋ですが,私たちの研究室で集中講義にお呼びしました。その講義が明日から3日間。非常に楽しみなのですが,残念なことに授業等のために全部の話を聞くことができません。って,まあ,教員が学生並みに講義を聞ける時間がないのは当然なので,仕方ないといえば仕方ないのですが,本当に残念です。

Hくんは実験屋にもわかる話をしてくれる非常に貴重な人材で,そういう人の話を7コマか8コマも聞ける学生たちが羨ましいです。私を含む数人で共同開催している春の学校にも講師として来てくれたことがあるのですが,そのときの評判も飛び抜けていました。

このブログを見ている私たち物理学専攻の学生さんが万が一いましたら,彼の講義に出席することを強くお勧めします。

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これぞ天才?

CERNから帰る途中での更新です。

CERNにいるとき,ミーティングに出ないときは溜まりに溜まっている書類仕事(conferenceや講演会でのスライド作りを含む)を片付けようと頑張りましたが,そのとき珍しくYouTubeで音楽を聴きました。普段は全く音楽を聴かないのですが,たまたま気晴らしにYouTubeを使ったところ,なぜかものまねに誘導されていき,その誘導に素直に従った私は荒牧陽子という人の歌声に出会いました。

テレビで活躍してる(た)人なので有名人なんだと思いますが,テレビはほとんど見ないので私にとっては初めての映像でしたが,いや驚きました。たくさんの人の物まねをやるのですが,その全てがトンデモなく本人にそっくりなのです。物凄い歌唱力がベースにあるのは確かなのですが,天才とはこういう人のことを言うんだろうなとその凄さに驚きました。その凄さに興味を持ったのでどういう人なのかちょっと調べてみましたが,人から天才と思われる人に共通していますが,その人もハンパではない努力家のようです。

ただ残念なのは,喉の調子が悪いということになっていますが,所属事務所と音楽活動の方針が合わなくて今休業中らしいのです。本人は物まねではなく歌手としてやっていきたいけれど,これだけヒットしていることから事務所としては物まねで売っていきたい。それで少々もめてるらしいということなのですが...凡人としては,これだけ凄い才能を埋もれさせてしまうのは惜しいので,歌手でも物まねでもどっちでもいいので音楽活動を続けて欲しいと願うばかりです。

でも,こういうことは世間ではままありますよね。とある事柄に関して凄い才能を持っているけど,本人がやりたいことは別にあるというパターン。才能がないのにやりたいことが高望みというのが最近マスコミで言われるミスマッチというやつですが,私が言いたいのはそういうパターンではなく,荒牧陽子さんのような状況の勿体なさです。最も身近で端的な例は,物理屋としての才能が凄くあるのに修士課程を終えると就職してしまう人です。こいつなら業界を引っ張ていくような人になれるのに就職というパターンを見ると,ホント勿体ないなぁと思います。

こういう真のミスマッチはなんとか解消したいものです。

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部屋からの眺め

アップグレードに関するCollaboration meetingが昨日終わり,今日は移動日です。午後にジュネーブを発つので朝ゆっくりできます。そのゆっくりついでに,天気が良くて気持ちよかったので部屋からの眺めを写真に撮ってみました。とは言っても,デジカメを持ってるわけではなくPhotoBoothで撮ったものなので,物凄いピンぼけというか低解像度というか,とにかくあんまりどんな眺めなのかわかりませんね。。

View from Hostel room

今回は日本流の数え方をすると宿舎の5階最上階だったので,眺めがとてもよかったです。週の前半は毎日雨だったのですが,昨日と今日は気持ち良い朝でした。正面に見えるの山がジュラ山脈です。恐竜の骨が見つかったところですね。写真だとよくわかりませんが,山頂付近はすでに白くなっています。

左側に大きなクレーンが写っていますが,その辺りが新しいLINACです。ちょっと前までは,近くに行くとLINACを作ってるらしいところが見えましたが,今は建物ができていて何を作っているのかは見えません。

一番手前に写っている3階だての建物も宿舎です。CERNの宿舎は敷地内に3つ建物があり,今回私が泊まったところともう一つは5階だてのしっかりした(?)建物で,写真に写っている3階だてのが一番新しい建物です。いつも宿舎は混んでいて,部屋を取るのがなかなか難しく,場合によっては外の普通のホテルを自分で見つけなければなりません。今回はわりと早めに出張を決めていたので全日とも敷地内の宿舎に泊まれてよかったのですが,外のホテルだとやはり移動が面倒です。

CERNでは研究者はこんなところに泊まっています。

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IBL見学

このブログでも何度か説明しているとおり,LHCは今休止中で,加速器,検出器ともに様々な小さなアップグレードを行っています。

ATLASではIBLと呼ばれるシリコンピクセル検出器の追加がこのシャットダウン中の一番の目玉です。今日はそのIBLの組み立て現場をTさんと一緒に見て来ました。KEKからのIBLへの参加で孤軍奮闘しているTくんに見せてもらったおですが,やっぱり,話に聞くより,あるいは文章での説明を読むより,実物を見るのが一番わかりやすいですね。一般の人に素粒子物理学の説明をするのにいつも苦労していますが,それが当然と思えてしまいました。素粒子物理学って可視化できませんからね,本来。それを無理矢理何らかのたとえでイメージが湧くように説明するわけですが,そのものずばりを見ることができたらそれに越したことはありません。

おっと,IBLですが,噂通りIBL本体は小さいのですが,そのサービス(検出器を支持する構造体など)の大きさに圧倒されました。私は昔Dzeroという実験をやっていて,ある種IBLと似たような検出器を作っていました。その大きさ自体もIBLとそれほど変わりはないのですが,それを支持する構造体の大きさというか長さが何倍も違います。Dzero検出器は非常に小さいのが特徴で,Tevatron実験のもう一つの検出器CDFに比べると非常に小さい検出器でした。それに比べて,ライバルのCMSが小さいことを売りにする一方でATLASは大きいのが特徴で,CDFよりもさらに大きい本当に巨大な検出器です(高さ約25m,長さ約45m)。ですので,最内層のピクセル検出器を支える構造体とはいえかなり巨大です。数値としては知っていてもやはり実物を目にすると感じが全然違います。

さて,そのIBLですが,シリコンセンサーと信号読み出しASICをフリップチップ・バンプボンディングしたモジュールと呼ばれる検出器の心臓部分の製造はほぼ終え,今はそれらをステーブと呼ばれる構造体に載せる作業が行われています。これもかなりの部分が済んでいるのですが,最近になってかなり深刻な問題が見出されました。その問題をどうやって解決するかというのがATLASグループ内では今非常に重要な問題となっています。本来はステーブ14個を構造体に載せるとIBLの完成,あとはATLAS検出器への組み込みということになるのですが,作ったステーブが使えるのかどうかという問題に直面しています。

修理する方法,その問題が再発しないようにするための方法,そもそもなぜそういう問題が発生したのか,等々がIBLグループ内で色々議論されています。今後どうなるのか,目の離せないところです。

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ヒッグスの論文と南部さん

科学者が論文を書くとか投稿するとか言いますが,その投稿先は色々な専門雑誌です。じゃあ,雑誌に投稿すればどんなものでも掲載されるかというとそんなことはなくて,専門家による査読というものがあります。じゃあ,その査読をするのは雑誌社の編集者かというとそんなことはなくて,投稿された論文に応じてその道の専門家にこっそりと(?)査読をお願いします。その査読者のことをレフリーと呼んだりしますが,ヒッグスがヒッグス機構を世に出した論文のレフリーが南部さんでした。

ヒッグスの論文が凄いというか,今年のノーベル物理学賞を受賞できたのは,その論文の中でヒッグス粒子の存在を明確に予言したことだと言われています。しばらく前にこのブログでも書きましたが,ゲージ対称性を保ちつつ相対論の枠組みの中で南部・ゴールドストンボソンを消すための仕組みは,アングレールとブラウのほうが先に論文として発表していました。ヒッグスの論文は基本的にはアングレール・ブラウと変わりないのですが,ただ一点,しかも数行だけなのですが,アングレール・ブロウの論文と違うのは,スカラーポテンシャルを入れたラグランジアンをexplicitに論文中に書いて,そのポテンシャルに付随する量子(=今我々がヒッグス粒子と呼ぶものです)が存在するはずだ,と書いてあるところです。その数行があるからこそ,ヒッグスがノーベル賞を貰えたわけで,かつ,CERN上層部の考えとは別に,スカラー場に付随している粒子のことを世間ではヒッグス粒子と呼ぶことになったわけです。

面白いのは,この数行に関して世間に伝わっている伝説があります。その重要な数行をヒッグスの論文のレフリーだった南部さんが付け加えるようアドバイスしたのではないか,という説があるんですね。レフリーは,論文の内容を吟味して,おかしいところを修正するように,解析内容が不十分だったら追加として何らかの結果を見せるように,あるいは,文章の表現の修正を求めたり,まあそういうことをします。そういうことなしで全然ダメという場合もありますし,そういうやりとりなしに査読をクリアしてしまうこともありますが,一般的には論文執筆者となんらかのやりとりがあります。ヒッグスの論文では,その数行がなければノーベル賞を貰えなかったかもしれない最重要の数行を付け加えることを南部さんが指示したのではないか,という伝説(噂?)があるのです。

本当のところはわかりませんし,マスコミにそういうことを聞かれた南部さんは覚えてないと答えたらしいのですが,科学史事情通,歩く百科事典のKさんによると,南部さんがヒッグスに出した本当のコメントというか修正要求は,アングレールとブラウがすでに同じアイデアを論文にしてるのでその論文を参照しなさい,というものだったのではないかと言われているのだそうです。そういう伝説があったほうが面白いので真相はどうでもいいと思いつつ,でもやっぱり下々としては本当のところどうだったんだろう,と気になります。しかし,ヒッグスと自発的対称性の破れを唱えた南部さんという組み合わせだったら,どんなエピソードでも伝説になってしまうんでしょうね。

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見応えのある応酬

今回CERNに来てるのは,ATLAS検出器のアップグレードに関するCollaoration meetingに参加するためです。10年後に予定されているLHCアップグレードに合わせてATLAS検出器,特に,シリコン検出器群からなる荷電粒子飛跡検出器の総取り替えが予定されていて,私たち大阪グループもそのシリコン検出器開発に携わっているので,朝から晩までぎっしりと詰まったミーティングに参加しています。

10年後というのは普通に考えるとだいぶ先の話ですが,建設するだけでも4,5年,できあがったものをテストしたりする期間も考えると,2,3年後には使用と設計を決定しなければなりません。なので,今がまさに開発競争のピークなんですね。

特に開発競争の激しいのがピクセル検出器で,様々なテクノロジーを色々な研究機関が開発していて,自分たちの開発しているものがATLAS検出器の一部として採用されるべく凌ぎを削っています。大阪グループを含む日本グループは,保守的というわけではありませんが本線と考えられているような技術開発を推進しています。しかし,検出器開発という観点では,今まで使われてないような技術開発の方が楽しいので,2,3年後に実用化するのは難しいだろうというような技術開発を行っているグループもあります。

ピクセル検出器としてCMOSセンサーを使おうという動きがあって,昨日はそれに関して午後まるまる議論をしました。CMOSセンサー自身はデジカメなどで最近は極めて普通に使われているものですが,私たちのような大型加速器実験では実機として使われたことは(たぶん)ありません。素粒子実験用としては検出器の反応が遅いことと,放射線に対する耐性がないことが大きな問題でこれまで使われていませんでした。が,それらの問題を解決できると言ってるグループが現れてきて,CMOSセンサーの開発に本腰を入れるかどうかというのが議論のネタでした。

その昨日の議論では,CMOSセンサー推進派(?)の人々がイニシアチブを取っていたので,当然イケイケの雰囲気になります。冷静に見ると現状では実験に使える要求をクリアしていませんし,実証すべき点がまだたくさんあるのですが,その場の空気が「やろう」という感じになってしまうんですね。反対の意見を言い難い雰囲気になってしまうわけです。ですが,見識の高い人もいて,そういう雰囲気の中でも正論をきちんと言える人がいるんですね。どこそこの見積もりが楽観的過ぎるとか,こういうことが実証されてないとか,反対するわけではないですが,現状ではよしみんなでやるぞという段階に達していないことを筋道立ててきちんと主張する人が何人かいて,なんというか流石だなと思いました。空気に流されることなく,まっとうな議論をすることができる文化があるのは素晴らしいです。そういう見識のある人たちと推進派の人たちの応酬は見応えがありました。

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CERNへの移動

今日はCERNへの移動で,ヘルシンキ経由でジュネーブに来ました。

ヘルシンキを経由地として使うのは今回で3回目なのですが,前回はパスポートコントロールでとてつもなく待たされた上,もともと乗り継ぎ時間が少なかったのでジュネーブ行きに乗り遅れそうになり焦りました。その時の印象は,パスポートコントロールの人が真面目に仕事をするため,全ての人に何日間滞在するのか,何の目的で来たのか,等を尋ねるというものでした。そのため,パックツアーで来てる日本人観光客がとんでもなく時間を使い,それでとんでもない長蛇の列を作っていました。

そういう経験があったので,今回はパスポートコントロールへ辿り着く前になんとか日本人観光客の前に行こうと超早足で歩きました。その甲斐あって,というか,経路的にも前回よりは混雑が緩和されるようになっていたため,前みたいに慌てることはありませんでした。

しかし,その代わりといってはなんですが,空港のアナウンスで初めて名前を呼ばれて驚きました。ジュネーブ行きの便に乗るために早くゲートに来いというアナウンスを,外国の空港でよくあるように名前付きでやられました。そのアナウンスの直前にゲートにちょうどやってきた私は,ゲートの周りにはたくさんの人が座っていたのでまだ誰も搭乗していないのだと思ったんですね。ところが,ゲートからバスに乗って飛行機に乗るため,ほとんどの人はもうバスに乗って先に飛行機に搭乗してたのです。しかも,私が行ったときはバスがいませんでした。さらに,私がゲートに行ったのは飛行機の出発時刻の25分くらい前だったので,まさか私がそんなに搭乗に遅れているとは思いませんでした。でも,飛行機に乗ってみたらその謎がとけました。ガラガラなのです。元々,通路を挟んで2+2の座席配置の小さめの飛行機だったのですが,その小ささにもかかわらずガラガラ。よく欠航にならなかったなと思うくらい人が少なかったので,搭乗があっという間に終わってしまったんでしょうね。

今日は移動しただけなのに色々とネタがあって,まだあります。

ジュネーブに着くと,同じ便にN大のHくんが乗っていたことに気づきました。飛行機を降りてゲートに行くのにやはりバスだったのですが,その中で奥さんらしき人と一緒にいるのを見つけました。バスを降りて話しかけると,Hくんと一緒にいたのはやはり奥さんだったのですが,彼女のビビり方に私のほうも驚きました。眠かったせいか普段以上に見た目がチンピラになってたんですかね。全然口をきいてくれなくて,ただひたすら私のことを怖がっているのでその場にいることに耐えられず,すぐに二人とは分かれました。

そして空港からCERNへ向かうトラムでもネタというか事件というか事故がありました。CERNが終着駅なので,その駅に着く直前,100mか200mくらい手前のところでトラムが急停車。線路内に人がいたらしく,かつ,どうも少しだけ当たったみたいで,ロータリだったのですがトラムはそこで止まってしまい,乗客にそこで降りるよう指示されました。仕方ないのでそこからCERNへ向かって少し歩くわけですが,その途中恐る恐るトラムの先頭を見てみると,運転手と線路内にいたと思われる人が話をしていて,医者だか警察だか知りませんがどっか行くかみたいなことを話していました(身振り手振りからの想像)。血だらけの人間が転がってたらどうしようかと思いましたが,そうなってなくてよかったです。

今日は移動だけだったのにネタの多い日でした。

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学内講演会

急遽,学内で今年度ノーベル物理学賞に関連した講演会をやることになりました。急遽とは言っても,そのアイデアは当然ノーベル賞の発表前からあったのですが,私が落ち着いて大学にいる日がなかったため,企画がほとんど進んでいませんでした。おっと,その内容とポスターはこちら。

素論のOさんと2人でやります。できれば,科学史のスペシャリストのKさんにもアングレールとヒッグスが論文を出した時代の時代背景を,彼の尋常ではない豆知識を交えて話して欲しかったのですが,忙しいということで残念ながら今回は実現しませんでした。でも,OさんがKさんが参加できない分を補って余りあるパワフルなトークをしてくれるでしょうから,もし都合をつけられる方はぜひ足をお運びください。おっと,私もトークします。

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