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ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

素粒子の重力質量

たぶん、すでに何回か繰り返していると思いますが、現代の素粒子物理学(場の理論)というのは、量子力学、相対性理論、ゲージ対称性に基づいて立脚されています。では、その中の一つ、相対性理論は何を指導原理にしているかというと等価原理です。ニュートンの運動方程式F=maのmで定義される慣性質量と、万有引力の法則で定義される重力質量は見分けがつかない、等価である、等価とみなそう、というルールです。

その等価原理に基づいて構築された理論が相対性理論であり、相対性理論が正しいということは等価原理が間違っていないことの間接的証明になっているでしょうし、等価原理の正しさを直接検証しようとする実験も昔から行われています。そういうわけで、私たち(素粒子物理屋)は普段から何気なく等価原理が正しいという仮定のもとに色々な物事を議論、考えています。たとえば、質量とエネルギーの等価性をもとに、私たちは素粒子の質量を測定しています。

さらに、もう少し考えてみると、素粒子だけでなく、原子核などの粒子でも、重力が非常に小さいため重力質量を測定することができず、ほとんどの測定で測っているのは慣性質量です。比電荷の測定とか、そういう系統のやつですね。ということで、最近気になっているのは、ヒッグス場との湯川結合で生成されたフェルミオンの質量というのは、本当に私たちが思っているだけの重力質量を持っているのかどうか、ということです。

素粒子っぽいものということでは、最近、といっても数年前のことだと思いますが、非常に低速の中性子が地球の重力に引っ張られて、mghのポテンシャルエネルギーを持ってるということが測定された、というような結果があったと思います。ですので、中性子が素粒子ならば問題ないのですが、中性子はuクォーク1つとdクォーク2つの束縛状態。しかも、その質量の大半はヒッグス場ではなく、強い相互作用によるカイラル対称性の破れと考えられています。(この辺のメカニズムについてはこのエントリーを参考にしてください。)クォーク単体の質量の総和は、中性子質量の数%程度しかないので、ヒッグス機構で生成された質量が重力質量として測定されたとは言い難いです。

もちろん、中性子の重力ポテンシャルを測ったという事実はそれ自体非常に面白いと思うのですが、ヒッグスを探して、ヒッグス機構を検証しようと考えている私にとっては、さらにその先に踏み込めないか気になっています。そうです、できるなら、レプトンの質量を測れないのかなぁ、と最近考えていました。レプトンなら強い相互作用で生成される質量がありませんから、質量=ヒッグス場で生成された質量だけになります。

というようなくだらないことを、昼飯の時にY教授に話したら、こういう話が大好きなY教授は真剣そのもの。いつものように、彼の右上(?)にある脳内黒板で概算を開始。こういう方法で、これくらいの精度があればできる、という簡単な計算を繰り広げます。話題が別のことに移ったと思っても、またいつの間にか、こうしたらできないかなぁ、とこの話題に戻ってしまう、ということが2、3日繰り返されました。この人やっぱり面白いなぁと変なところで改めて感心しました。

おっと、話題がY教授に引っ張られてしまいましたが、レプトンに作用する重力の大きさをなんとか測れないものでしょうかね。LHCのような大きなプロジェクトにはない、テーブルトップ実験ならではの面白さがあると思うのですが…。安定して使えるのが電子くらい。質量が軽い上に、電荷を持ってますから、何か画期的なアイデアが必要です。複合粒子にはなってしまいますが、ポジトロニウムなら少しは何かできるかも、とか色々空想(?)で楽しんでいる今日この頃です。

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