ATLAS at Anywhere (旧 ATLAS at Osaka)

メンバーの研究状況

今日はブログに書くネタを思いつきません。じゃあ更新しなければいいじゃないか、という気もしますが、最近はほぼ毎日更新しているので、ブログを書かないとなんとなく落ち着きません。こういう時によくやるのは、拍手数について考察みたいな内容なのですが、それも最近書いた気がするのでボツ。そこで無理矢理ヒネリ出したのは、私たちの研究室のATLASメンバーの近況説明。ということで、今日は各メンバーが今どこで何をしているか簡単にまとめてみます。

研究員の人は今CERN滞在中。日本みたいに暑くないので夏はCERN滞在いい感じです。bクォーク起源のjetの同定というのが研究テーマで、基本的にはシミュレーションのデータを使って、同定効率の測定手法を研究しています。さらに、トップクォークがペアとなって生成される事象の反応の起こる確率測定を物理テーマとする予定なので、その準備をこれまたシミュレーションデータを使って行っています。

CERNに長期滞在する(はずの)D1の学生が2人いて、そのうち一人は今フランス滞在のためのビザ取得のために日本に戻っています。1週間強ほど前に申請手続きに東京の大使館まで行ったのですが、驚くことにもうビザが発給されました(通常は早くても3週間から1ヶ月かかる)。8月一杯は日本で、9月から本当に長期でCERNに滞在することになります。彼はシリコン半導体検出器のモニターシステムや較正に絡んだ仕事をしています。

もう一人のD1の学生も長期滞在を始めたところです。今月の初旬からCERN近辺に滞在して、研究員の人とほぼ同じ研究内容をテーマとしています。

修士の学生3人のうち2人が大学、1人はKEKにいます。M2は大学にいて、シミュレーションデータを使ってヒッグス探索の感度を調べようとしています。現在は、そのために作っているシミュレーションデータがまともかどうかをチェックしています。

M1の一人は、昨日書いたようにシリコン半導体の性能をチェックするためのツールを開発しています。彼の研究内容の発表なのに昨日の電話会議には参加し忘れる、という技を披露してくれましたが研究はパワフルに進んでいて、その内容が評価されているというのは昨日も書いた通りです。

もう一人のM1は約10日ほど前から盆前までKEK出張。その後も、盆明けから長期のKEK出張です。ATLASとは直接の関係はないのですが、新型シリコン検出器の開発に参加すべくKEKに滞在しています。今まではそのための基礎作りということで、シリコン半導体検出器の勉強を長らくやっていました。今は信号読み出しのために、FPGAを使う練習をKEKでしています。前期は単位を揃えるために大学にいましたが、これからは検出器開発をしている最前線のKEKで活躍してくれることでしょう。

…と、簡単に書いてみましたが、6人分だとかなりの分量になりました。


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テレビ…ではなく電話で会議参加

M1のOくんがATLASのシリコン検出器関連の研究をしているのですが、強い要望があって彼の進捗状況を現地のミーティングで発表することになりました。と言っても突然出張できるわけではないので、当然テレビ会議で…とおもいきや、未だに電話会議が幅を利かせるCERNでは、今回のミーティングもテレビではなく電話会議です。

しかもその時間が現地の15時、日本時間で22時。ということで、ミーティングが始まるのを家で(プライベートな用事があって、今日は普段より早く帰りました)待っています。本来ならOくんに発表をしてもらいたいのですが、準備する時間があまりなかったことと、テレビ会議ならまだしも電話会議で英語での初めての発表はちょっと可哀相だったので、私がピンチヒッター。今までに彼が作ったプロットをもとに発表の準備をして、ミーティングが始まるのを待っています(発表そのものも今回は私がすることになりました)。

しかし、CERNはいつまで電話会議を使うつもりなんでしょう。1対1ではない電話会議のシステムというのは20年近く前に導入されましたが、日米ではその後すぐにテレビ会議に取って代わられました。しかも、CERNの電話会議システムというのはオペレーター経由なんです。初めて電話会議のミーティングに参加するときはビックリしました。「誰それがchairの何と言うミーティングに繋いでくれ」とオペレーターに言ってミーティングに繋いでもらうんですよ。21世紀もすでに9年目なのに、何が嬉しくてそんな古臭いシステムを使うのか謎です。オペレーターを相当数雇っていますから、費用の面からも理解不能ですし。


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教員のインセンティブと医師不足

数日前のエントリの続きみたいになりますが、教員のインセンティブについて思うことを書いてみます。(Mくん、ネタを提供してくれてありがとう。)

小学校から大学まで学校の違いに関係なく、教員のモチベーション、および教員になりたいというモチベーションをどう上げたらいいか考えるのですが、Mくんご指摘の通り経済的なインセンティブが一番根幹であると私も思います。ただし、報酬って業務内容に対する相対的な評価で決まるわけですよね。簡単・安全な業務なら給料安いですし、高度な技術を要するとか、危険とか、そういう業務だと給料は高くなりますし、高くなるのが自然です。で、教員の業務内容と報酬のバランスを考えると、報酬が低いという考え方がある一方、業務内容がヘビー過ぎるという考え方もあるのではないかと思うのです。

例えば小学校を考えます。本業は学問を教えることや社会的適応性を身につけさせることですよね。けど、友人の子供や姪たちの通っている学校の話を聞いたりすると、学校の先生の本業以外の大変さに頭が下がります。所謂モンスターペアレンツと呼ばれる人たちは実際に多く存在して、そんな人たちやそんな人たちの子供を相手にするのは、それだけで過酷です。話の通じない相手と話をすることって極めて苦痛ですよね。こういうのが端的な例で、普通は家庭で躾として身につけるべきことまで学校の先生の守備範囲になったり、とにかく本業以外が昔よりも恐ろしくハードになってるのではないかと思います。

例として小学校をあげましたが、全く同じことが中学高校、そして大学に当て嵌まると感じます。で、さらに報酬の対価という意味で、相対的に報酬が低いと感じてしまうのは、マスコミによる攻撃です。教える側はマスコミが怖くて、全く思うようにやれていません。これが実は諸悪の根源ではないかと思っています。モンスターペアレンツとか、チンピラ同様の子供の振る舞いとかを、バシッと切ることができないのは、マスコミによるバッシングが怖いからで、これが歯車を狂わせる元になってるような気がしてなりません。

こういう諸々があるために、報酬が非常に低く感じてしまうのではないかなぁ、というのが私の感想です。Mくんが言うように給料を上げるというのはインセンティブとして有力ですが、もっと本業に専念できるような環境作りというのも別の方向からのインセンティブではないかと思うのです。

それから、残念なことに、一般企業ならクビになって当然の教員を抱えているのも構造的な欠陥だと思います。そういう人が多いとは言いませんが、私の知ってる範囲だけでも複数います。こういう人のせいでもっとモチベーションの高い若い人が職につけない現状のシステムは、やはり改善の余地ありです。自由競争の原理が働かないとシステムの一部が腐敗していくのはどうしてなんでしょうね。

で、最後に付け足しですが、最近よく話題になる医師不足というのも、個人的には納得できてしまう話です。上で書いた教員の話と非常に似てると思うのです。報酬と業務の対価が全く釣り合っていないと感じます。ただし、医師の場合は、実は人数はトータルでは増えてるんですね。外科医と産科医が減ってるのに対して、精神科と眼科の医師が急増してるためです。なんでこうなるのかって明らかですよね。

この前新聞で読んで驚いたのですが、医師が4、5人必要で何時間もかかるような外科的大手術と、1人の医師でほんの数分で終わってしまう眼科の手術の医師への対価がほぼ同じなんだそうです。でもって、ここでもマスコミによるバッシングが影響力を行使してます。例えば、急患の患者がたらい回しにされたといって病院が批判されます。が、現場で頑張ってる医者は本当に手一杯で、それこそ本人が倒れてしまうような激務をこなしてる人が多いわけですよね。報酬の対価が低いのに頑張っている外科医、産科医がマスコミの攻撃の対象。こんな状況でも外科医や産科医になろうとする人たちは神様ですよ。

ということで、教員と医師、どういう方向性でもいいですから、業務と報酬のバランスが取れたシステムになって欲しいものです。


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大学院入試と夏の学校とKEK一般公開

私たち物理学専攻の大学院入試は8月の26日から3日間行われます。そこで、今週から試験勉強のラストスパートということで、4年生のゼミと実験はしばらく休止。私自身が楽しめる数少ない業務なのですが、院試に合格してもらわなくては困りますから仕方ありません。

話題は変わりますが、日本の素粒子・原子核を専攻する学生が主体となって毎年夏の学校というものを開催しています。今年はなぜか講師を依頼されてしまい、大学院入試期間と重なっているのですが、27日と28日に長野県の山中に大学の授業4コマか5コマ分くらいの講義をしに行きます。そこで、上の段落で書いたように若干時間に余裕が出てきた今をいい機会に、講義の準備(構想段階ですが)を始めました。対称性をキーワードにLHCで期待される物理を話すつもりなのですが、大学の授業や集中講義とは客層がちょっと違うので、流れをどう組み立てようか今考えているところです。

前期には授業を担当していないので、講義の準備をするのが久しぶりです。毎回毎回感じてしまうのですが、講義の準備をすると本当に自分の勉強になります。よく授業などで、重要な結果にもかかわらず途中の計算を端折らざるをえないときに「自分で計算して確認してみてください」と講師の人が言うことありますよね。でも不真面目な学生だった自分は、そう言われても実際に自分で手計算して確認することは非常に稀でした。が、自分が教える立場だと流石に全部計算してみます。すると「あー、本当にこうなるんだ」と感心することがあります。ただ、そういう楽しみがある反面、時間に追われているときは非常にツライです。学生のときにちゃんと勉強しておけばよかったと思うことしょっちゅうです。ということで、自分のことを不真面目と思ってる学生のみなさんも、いつ天変地異が起きて私のように教える側に回るかわかりません。油断せず(?)勉強しておいたほうがいいですよ。

今日は最後に宣伝。これまた毎年恒例の企画なのですが、KEKの一般公開が9月6日(日)に行われます。今年の目玉は何と言っても小林誠さんの講演ではないでしょうか。事前申し込み制で8月3日から受付開始らしいです。他にも色々面白そうな企画あったり、普段は見ることのできない施設の見学もできるようです。動物園に行くつもりで研究者という珍しい人種を観察して来るのも面白いかと思います。詳しくは上のリンクをたどって見てください。


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実験室の掃除

今日の午後は大々的に実験室の掃除。とある理由により半ば強制的に掃除をしなければならず(本来の目的は掃除ではないのですが、その目的を達するためには掃除が必要でした)、学生も含めて研究室のメンバー総出での大掃除をしました。研究室のみなさん、お疲れさまでした。

しかし、家でも同じことかと思いますが、大掃除をすると色んな面白いものが出て来ますね。何の実験に使ったのかわからないBGOが出てきて4年生と私は興味津々。小さいのですがかロリメータとして使えないか試してみようということになりました。あるいは、昔所属していたスタッフ・学生の私物的なものが出てきて処分に困ったり、私が個人的に一番興味を惹かれたのはBelleというKEKの実験で使われているシリコン検出器のプロトタイプです。

Belleが実験を開始したのは確か1998年で、B中間子系でCP非保存に関する測定を行い、小林・益川両氏のノーベル賞受賞に大きく寄与した実験です。この実験の肝は、生成されたB中間子の崩壊地点を測定することなのですが、この測定に中心的な役割を果たすのがシリコン半導体を使った荷電粒子の飛跡測定装置です。そのプロトタイプのモジュール(=シリコンセンサーと、信号読み出し用のICが載った小さなボード、これらが一体となったもの)がまさに誇りまみれで残っていたのです。KEKのHさんは昔私たちの大学で助手をしていたことがあり、たぶん今から15年くらい前に作ったモジュールなのではないかと思います。

しまった。これを書いていて思い出しました。せっかくなので、それをどっかに飾るために倉庫から持って来ようと言っていたのですが、すっかり忘れてしまいました。うーむ、今から倉庫に行ってみつかるかどうか…。


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将棋界と物理学会

昨日に引き続き将棋を引き合いに出して、私たち物理学の世界について思うことを書いてみます。

将棋と物理は似てるか似てないかわかりませんが、将棋界の仕組みと物理学会というか科学(学問)を取り巻く環境というのは、驚くほど似ています。自分は将棋関係者ではないので、単なる印象だけで大外れしている可能性もありますが、以下に類似点をリストアップしてみます。

1. どちらも先行き不安。将棋を指す人が年々減っているし、科学、物理離れが深刻。

2. 昨日説明したプロ養成機関、奨励会を含むシステムと、学問の世界は似てる。奨励会=博士課程の学生+ポスドク、プロ棋士=tenureのスタッフ、と置き換えられそう。

3. 将棋は対局と普及、学問、例えば物理屋だったら、物理の研究と普及(=教育)が仕事。

4. どちらの世界もトッププロの負担が大きい。将棋だとごく少数の人の対局のみが集客力がり、かつ強いので対局数が多く、体力的な負担も大きい。かつ、トッププロでないと集客力がないので普及という面でもトッププロに対する負担が大きい。学問の世界も一緒。その分野の第一人者は自分の研究だけでなく、その分野に対する責任を追うような立場につき、委員会、審査、その他で激務。一方、弱いプロ棋士は対局数が少なく、その他の業務も少ないので暇。活躍していない研究者も当然暇。---[注1]

4'. ただし、どちらの世界も普及のみ(と言っては失礼だが)にかけている人がいる。

5. この項目はホントに印象だけなのですが、どちらの業界も浮世離れした考えの人が多そう。端的な例としては、将棋界なら将棋の強い人の発言力が大きいだろうし、物理の世界なら物理の業績いかんで発言力の大きさが決まる。世間一般の常識が通じない可能性がある。ただし、物理と言っても何度か書いているように、高エネルギー物理の世界は普通の学問の世界とは大きくかけ離れていて、浮世離れしている人は業績をあげるのが難しく、よって、高エネルギー物理で現在活躍している人に浮世離れしている人はいない。

6. 5の背景としては、将棋なら奨励会をパスした人への憧れ、学問の世界ならtenureになった人への憧れが大きいからでしょう。つまり、その世界の住人に対する憧れが非常に大きいというのが共通点。

とまあ、比べれば比べるほど似ています。もっとえげつない比較から相似性をリストアップすることもできますが、それはやめておいて、最後に重要な点。

7. どちらも女性に普及していない。耳にタコができるほど繰り返していますが、私は、女性が科学、物理に興味を持ってもらいたいと思っています。特に主婦層の人に興味を持ってもらいたいと常日頃から言っています。彼女たち(とそれを操るマスコミ?)が世界を動かしていると考えているので。ですが、私のような考え方はこの世界ではどうもマイノリティのようです。かつ、プロの将棋界もここ数年の動きを見ると、女性に対する普及を真剣に行っているようには見えません。---[注2]

なんで、どっちの世界も女性を引きこもうとしないのか謎です。いい将棋を指せば、いい研究をすれば、その分野の未来は明るいと考えているわけではないのでしょうが、傍から見ているとそう思われても仕方がないようなところが両者の共通点です。どちらも、経営のプロにでも、集客面からの長期戦略(短期ではありません。ここが重要)を立ててもらったほうがいいように感じます。

それくらい、私は両者の将来を案じています。って、物理の世界のことは今まで何度も書いていますから、今日の長ーい文章の要旨は、私が将棋界の未来を案じているということになってしまいますね。将棋オタクの独白でした。ははは。

[注1]
大きな相違点が一つあります。将棋の世界は活躍している人の収入が多いこと。学問の世界は活躍の度合いによらず給料が一緒。これは大きな違いです。

[注2]
将棋ファンにしかわかりませんが、日本女子プロ将棋協会LPSAというのが設立されました。今までの女流棋士の団体と分裂したのですが、そのLPSAの活躍に期待しています。財政面その他の運営は非常に厳しそうですが。


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将棋観戦と物理観戦

私は将棋が好きでプロ棋士の対局をよく見ます。オタクと呼ばれていいくらい将棋や棋士のネタを詰め込んでいると思います。が、自分ではほとんど指す(オタクとしては絶対に間違って欲しくないのですが、将棋は指すもので、囲碁は打つものです)ことはありません。ほとんどというより、全く指しません。小学校高学年くらいまではよう将棋をしましたが、それ以来、数えるほどしか対局したことありません。スポーツ観戦を趣味とするのと似てるかもしれません。自分ではやらないけど、その道の一流の人のプレーを見るのが好きなわけです。

しかし、超一流の棋士の対局を頻繁に見るからといって、自分の棋力がプロ並みということは当然ないので、指し手をただ眺めているだけでは意味がわからないことが多々あります。それでも楽しめるのはなぜかというと、ある指し手についての背景や対局者同士にどのような読みがあるのか、あったのか、を解説する記事が世の中にあるからです。たぶん、大多数の将棋ファンというのは私のような楽しみ方をする人が多いのではないかと思います。私の棋力が高いと言ってるのではなく、本当に超一流の人の将棋を理解できる人というのは、ごくごく少数、プロの中でもほんのわずかの人ではないかと思うんですね。でなければ(=超一流の棋士の将棋を解説無しで理解できるなら)、その人は対局者並の棋力があることになってしまいます。

つまり、一流の人たちの対局が将棋ファンに受け入れられるのは、対局そのものだけでなく、その対局の解説があるからだと確信しています。プラス、単に指し手だけではなく、生身の人間同士の戦いですから、人間的なかけひきとか、気迫のぶつかりあいとか、そういうものがファンを惹き付けているのではないかと思っています。

何でこんなことを書いてるかというと、私が将棋好きで、将棋に関することを書きたくて堪らないから…ではなく(いや、それもちょっとはありますが)、全く同じことが物理、というか学問全体にも言えると常々思っているからです。非常に面白い実験結果が出たとして、その意味を理解できるのは、世界中でもごくわずかの専門家だけなんですね。誰かが一般の人にも、あるいは同じ物理学者でも専門家以外にはわかりませんから物理をやってる人なら誰にでも、わかるように解説しないと、その実験結果の偉大さ、興味深さ、といったものが認識されません。面白いコンテンツを持ってるのにそれを活用できない、という非常に勿体ないことが物理の世界ではあまりにも多く起こっている気がします。

もう1度将棋に話を戻すと、観戦記と呼ばれる解説の記事を書く人(観戦記者)が将棋の世界にはいます。多くの場合、プロを目指しながらプロになれなかった人たちが観戦記者となっているようです。先に書いたように、こういう観戦記者のおかげで私たちド素人でもトッププロの対局を楽しめているわけですね。物理の世界も、特に素粒子のようにビジュアルに訴えられない研究をしているジャンルでは、観戦記者のような人がいなければ、世間に物理の面白さを伝えることなんて到底不可能だと思うわけです。サイエンス・ライターという人たちが物理(科学)の観戦記者みたいなものですが、その数があまりにも少な過ぎます。いえ、もちろん、需要と供給のバランスが成り立っているのでしょうから、そういうニーズが少ないということがあるのでしょう。でも、鶏と卵のどっちが先かという議論にしてしまうより、とにかくサイエンスライターの数を増やしてみるしか、私たち科学の世界の未来はないように感じています。

それから、より身近なところで、中学、高校の理科の先生にも同様の働きをぜひして欲しいと願っています。人数は無茶苦茶多いわけですし、子供の興味というのはどうも学校の先生に影響を受けやすいみたいですから(「みたい」と書いたのは、私自身が全くそういう子供ではなかったので)、そういう人たちがサイエンスライター並みに科学を理解してくれれば、科学の将来も明るくなるのではないかと思います。

長くなりましたが最後に付け足すと、観戦記者の将棋の能力はプロ並みです。だとするとサイエンスライター、あるいはそういう役割を担っていただきたい中学高校の教師の科学力もプロ並みでないとキツいでしょう。物理の結果などを専門家と議論できないとならないわけですから。観戦記者の棋力が高いのは彼らが元々プロを目指していたからで、ある意味、観戦記者というのは運悪くプロになれなかった人たちの受け皿になっています。同じ議論を展開すると、中学高校の理科教師という職が、tenureになれなかった科学者、D論は取ったけど、あるいはポスドクを何年かやったけどアカデミックなポジションを運悪く見つけることができなかった人の受け皿になりませんかね。中学は流石に無理としても、高校の理科の教師になるには、物理なり、生物なり、その専門の分野では博士並みの知識がないとなれないようにできませんかね。すると今問題となっている(私自身は今ひとつ懐疑的ですが)ポスドク問題の解決策になりますし、今日長々と書いたサイエンスライターの働きも期待できて一石二鳥です。


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TDCの問題を発見

4年生実験ではミューオンの寿命を測定するためにTDC(Time to Digital Converterの略)というものを使っています。時間間隔を測定するための装置で、分かりやすい例としては、飛んでいる粒子の速度を測るのに使えます。ある間隔で置かれた2つの装置を粒子が通過したとして、最初の検出器を通過したときの信号ともう一つの検出器を通過した時の信号をTDCに入力することで、その2つの信号の時間差を測定できます。2つの検出器の間隔を測定してあれば、粒子の飛行速度を測定できることになります。

4年生は、宇宙線中のミューオンが検出器で止まったという信号と、止まったミューオンが崩壊して出す信号の2つの信号の時間差を測ることで、ミューオンの寿命を測定しようとしていました。測定した値は文献値と一致しているので測定自身は問題なかったのですが、TDCの振る舞いに理解不能な点があったので、昨日はその原因を解明しようとしました。

理解不能な点というのは、使っているTDCはフルスケールが11bit(12bit?)なのに、時間差0に対応するTDC値が500前後なのです。ダイナミックレンジを削り過ぎなので、どうもこのオフセットの大きさに納得が行かず、本当にそんなに大きなオフセットがあるのか昨日は調べてみました。

今までの測定からどうもオフセットが512に近いとわかっていたので、512に対応するビット(LSBから数えて10bit目)が常にONになっているのではないかと疑っていました。もしそうだとすると、11 1111 1111(一番右をLSBとしてます)の次は本来100 0000 0000(=1024)なのに110 0000 0000(=1536)となるはずです。つまり、TDCに入力する時間差が0に近いときはTDC値が512で、その後、時間差を徐々に長くしていくと、TDC値は1023までは順調に増えて行きますが、1023の次がいきなり1536になるはずです。

という仮説に基づいて、TDCに入力する時間差を調節してやると、まさに仮説通りで1023から1536までの値は出力されませんでした。ということで、気になっていた大きなオフセットは、TDCのbitの一つが常にONになっていたからだと理解することができました。問題を理解することができただけでその問題を解決したわけではありませんが、どこにどういう問題があるのかわかったという意味では非常に大きな進展でした。


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早稲田との共同研究

今週は、早稲田大学でATLASをやっている人たち数人が私たちの研究室に滞在していました。ATLASの一部分であるシリコンストリップ検出器というものの整備を共同で行ってくれることになったので、そのための詳細な打ち合わせと、実際にソフトウェアをどう使えばよいのかを学ぶのが目的でした。

シリコンストリップ検出器の整備と一言で言ってもその内容は非常に多岐に渡ります。私たちのグループが担当しているの(=私たちの陣地ですね)はその一部分なのですが、ATLASのような大きな実験グループでは内部の陣地争いが激しく行われているので、今までは自分たちの陣地を確保するのが精一杯でした。

ところが、CERNに常駐しているKEKのスタッフが、3、4ヶ月前から私たちと歩調を合わせてくれることになり、かつ、私たちのグループのD1の学生が4月からCERNに常駐し、同じくシリコンストリップ検出器関連の仕事をするようになったので(この学生も修士までは別の研究をしていました)、大幅に戦力アップしました。3月くらいまではほぼ私一人で小さな陣地を死守していたのですが、それとは打って変わって、すでにだいぶ陣地を切り取りました。さらに、M1の学生が今やっているシリコンストリップ検出器関連の研究もなかなか良い進捗をみせていて、これからさらなる攻勢をかけることができそうです。

これに加えて、実際に投入できるマンパワーは研究員1人弱相当ですが、歩調を合わせてくれるということですから、数ヶ月前に比べると、私から見る景色は大きく変わりました。今まで小さいながら陣地を守ってきた甲斐がありました。


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過去30日間のエントリーを振り返る

過去に、拍手数について思うことを何回か取り上げたことがあります。今日もまた同じ作戦で、過去30日間に拍手数の多かったエントリーについてコメントしてみます。以下が拍手数の多かったエントリーのリストです。括弧の中が拍手数。

LHC再開シナリオ(7)
博士論文審査に関する笑える話(6)
LHC再開はどういうシナリオでも少し遅れます(6)
LHC再開の時期(6)
KEKに出没中(5)
宇宙線と若田さん(4)
女性物理学者の研究環境(4)
補正予算(4)
アクシオン(4)
電車の遅れとダイヤ調整(4)
研究会2日目(4)

いやー、こう見ると、私のブログを読んでいる奇特な人々の嗜好が明らかですね。みなさんLHC関連の最新情報に飢えているようです。これからも出来るだけ最新情報をお届けしようとは思いますが、自分が興味あることしか基本的に書かないので、あまり期待しないでください。ははは。

あとは、やはり自分でも面白いと思ったネタが高く評価されているようです。博士論文審査の話、若田さんが宇宙線浴び過ぎてる話、電車が遅れた時に影響の無い前の電車を敢えて遅らせる話など、自分でも気になったり面白いと思ったことなので、読者のみなさんと私の嗜好はかなり一致しているようです。というか、だからこそ、このブログを読んでいらっしゃるのでしょうから、当たり前といえば当たり前かもしれません。

他のエントリーについてはなぜ拍手が多かったのか、はっきりとは理解しかねるのですが、想像するに…この業界の裏話的で面白かったんでしょうかね。異質なのは女性物理学者のエントリーで、保育園、託児所の類いを充実させるべきだと考えている方が多いのでしょうか。

と、つらつらと書きましたが、拍手をしてくださるみなさん(さらに拍手コメントまで書いてくださるみなさん)、ありがとうございます。面白いと思ってくださる方がいると実感できて、やり甲斐になっています。


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素粒子の世代と三角異常項

素粒子を分類すると、力を媒介する粒子(ゲージボソン)と物質を構成する粒子(フェルミオン)に大別でき、さらにフェルミオンは強い相互作用をするかどうかによってレプトン(電子やニュートリノなど強い相互作用をしないグループ)とクォークに分けられる、という話は今までにも何度か書いたことがあります。さらに、レプトンやクォークには世代というものがあって、レプトンだと電子と電子ニュートリノを第一世代、ミューオンとミューオンニュートリノを第二世代、タウとタウニュートリノを第三世代と呼びます。クォークの場合は、uとd、cとs、tとbがそれぞれ第一、二、三世代と分類されています。

この分類というのは現象論的になされたもので、つまり、実験や観測から経験則的に分類されたもので、なぜレプトン、クォークがともに3世代あるのか、レプトンとクォークの本質的な違い、などは本質的には理解できていません。これまた何度か説明してきましたが、相互作用を支配するのはゲージ原理であり、そのゲージ原理に支配されていないルールというのは、あくまで現象論的、経験則的に決められたというだけなのです。

ということで、レプトンとクォークはなぜ3世代からなっているんだろう、そもそも、なんでレプトンとクォークの世代数が同じなんだろう、という疑問には素粒子物理学は答えることができず、世代の謎と呼ばれています。ところが、理論的にはレプトンとクォークがペアとなって世代を作ってもらわないと困ってしまうことがあります。ただし、3世代である必要はないのですが。

ある特定の形の相互作用、例えば電荷を持たないパイ中間子が2つの光子に崩壊する過程など、の量子補正(不確定性原理の許す微小時間内ならば、仮想粒子になってもよいという効果です)を考えると、三角異常項(もっと一般的には量子異常)と呼ばれる数学的に嬉しくない寄与が発生してしまいます。相互作用を決めるゲージ対称性、もっと正確に言うと局所ゲージ対称性という対称性を課そうとすると、その三角異常項というのが理論計算を発散させてしまうのです。ノーベル賞を受賞した朝永の業績は、理論計算に現れる無限大の項を上手く消す手法(=繰り込み)を確立したことなのですが、三角異常項があると繰り込みができなくなってしまうのです。

じゃあなんで、パイ中間子の2つの光子への崩壊のような物理過程が実在するのか説明しようとすると、クォークとレプトンがペアを作っていないとならないのです。1つの世代内のクォークとレプトン(例えば、uとd、そして電子と電子ニュートリノ)による量子補正(今は三角異常項を考えています)の寄与を足し算すると、出来過ぎなのですが、ゼロになるのです。アクシオンの説明のときにも書きましたが、物理屋はこういう出来過ぎを単なる偶然とは思わない、思えないのです。つまり、レプントンとクォークはそもそもペアであり、世代を作っていることに本質的な意味があるはずだと考えるわけです。

このような背景があるために、レプントとクォークを統合する大統一理論というのは、素粒子物理屋にとっては非常に自然な論理的帰結と思ってしまいます。

ちなみに、量子異常がないことというのは、新しい理論体系を作ろうとする時の大きな指針になるのだそうです。紐理論を理解していないので単に聞いただけの話ですが、super stringが10次元時空で成立するというのも、量子異常の議論からの帰結だそうです。


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日食

いやー、見えました。ここ大阪は天気が悪いので無理かと思っていましたが、いましがた一瞬だけ雲の切れ目から見ることができました。ほぼ最大の欠け具合で、三日月のようでした。薄い雲がちょうどフィルターのようになって、肉眼でもきれいに見えました。


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補正予算

最近は学振が色々なプログラム(競争的外部資金)を立ち上げています。今日も、平成26年度まで続く研究者海外派遣のための新しいプロブラムについてのニュースを受け取りました。この背景は、去年からの経済危機にあります。政府が景気対策のための補正予算を組むので、その影響を受けて数年度の単発プログラムが幾つも立ち上がられているようです。

目前の研究費のやりくりに四苦八苦している私のような貧乏学者はすぐにそういうプログラムに飛びついてしまう、飛びつかざるをえないのですが、冷静になると、もう少し計画的に科学関係の予算を充実させてもらえないものかと思ってしまいます。経済を立て直すという大義名分があれば、かなり無茶な予算を組めるわけですよね。だったら、日本の経済を根底で支える技術、そしてさらにその技術を支える科学分野を、さらにさらにその科学を支える教育、こういう分野に恒久的に大型予算を組む必要があると思うのですが、現実にはそうはなっていません。もちろん、一時的な予算だからこそ組める予算ではあるのかもしれませんが、それにしても、最近の無茶な補正予算の話を聞くと、定常状態でもっと科学関連の予算を増やせるのではないかと思ってしまいます。

この話を書いていて思い出しましたが、CERNというのは多くの国の協力のもと成り立っていて、当然、財政的にも各国の取り決めが色々あります。なので、それぞれの国の事情で簡単にその取り決めを破ることができません。つまり、予算も約束通り払わないとなりません。これは大型科学実験を進めるのに非常に重要なことです。予算そのものも莫大ですし、計画から実験までのタイムスケールが莫大な実験を遂行するためには、長期的に安定して財源を確保しないとなりません。これが1国のプロジェクトだと、その国の都合(経済とか、政権を取った政党など)によって、簡単にプロジェクト破棄ということになりかねません。日本はこの点に関してはまだマシなほうだと思いますが、アメリカなんてあまりに多くのプロジェクトを途中でキャンセルしています。SSCというLHCよりも大きな陽子衝突型実験が昔計画されていましたが、建設半ばにしてキャンセルされたというのは、この類いの話の代表例となっています。

ということで、長期にわたって効率良く実験プログラムを考えることができるというのはCERNの大きな強み、その成り立ちから来る強みなのかなぁ、と思います。特に、研究成果のタイムスパンが長い研究を行うためには、不可欠な仕組みなのかもしれません。


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散髪

この3連休はのんびりと過ごしています。最近の終末週末は出張で家にいないか、家で子供と過ごしているか、のどちらかで、今年度に入ってからはあまり大学に行っていない気がします。昨日はちょとだけ大学に行きましたが、それ以外はずーっと子供と遊んでいます。ただ、天気が悪いのがちと残念です。土曜はプールに行って彼の体力を発散させることができましたが、昨日と今日はちょっと微妙です。

話題は変わりますが、昨日、散髪をしました。このブログでも何度も書いてるようにマイバリカンで刈るのですが、昨日は注意すべきトラブル(?)の一つに見舞われました。髪を短く刈ったことのある人なら実感できることだと思うのですが、髪を刈った直後気をつけないとムチ打ち症になります。タオルで頭をいつもの調子で拭くと、タオルが頭にぴたっとくっつくので首がグキッとなります。坊主頭でもかなり短くしないとこうはならないのですが、もしおもいっきり短く刈る場合があったら、みなさん注意してください。ホントびっくりしますから。

それから昨日のトラブルは、刈り取った髪の毛の短いものが針のように手に刺さって難儀でした。髪質にもよるのかもしれませんが、私はかなりの直毛で、たまに刺さることがあります。本当に針か棘がささったような痛さで、昨日は手では取れず、毛抜きを使ってやっと取りました。上のムチ打ちの話と違って、気をつけようにも、どう気をつけたらいいのかわからないので、結構繰り返してしまっています。髪を払う時に優しく払うくらいしか予防策がなさそうです。

とまあ、何をバカなことを、と思われるかもしれませんが、おもいっきり短くしたときは本当にこういうトラブルに遭遇しますから、みなさんお気をつけください。


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LHC再開はどういうシナリオでも少し遅れます

LHC再開シナリオというエントリーで、LHC再開のスケジュールに関してオプションが3つ考えられている、ということを書きました。基本的には、陽子を曲げて円軌道にするための超伝導電磁石が予定通りの電流を流せない(=磁場を強くできない=陽子を曲げられないので、エネルギーを高くできない)ということが、問題の根幹でした。

その話とは独立に(完全に独立ではないのかもしれませんが)、とある場所で加速器の真空漏れが見つかって、その復旧のために、再開が少し遅れるということがCERNの所長からアナウンスされました。10月末再開予定でしたが、早くても11月中旬に再開がずれこみます。

混乱しないよう繰り返しますが、オプション1は予定通り5+5TeV、オプション2は3あるいは4TeV、オプションは3は5TeVですが再開は来年の春以降、というシナリオでした。今回の真空漏れで、たとえオプション1あるいは2でも再開が少し遅れることになったわけです。オプション3の場合は、元々再開が大幅に遅れるシナリオだったので、今回の真空漏れによる影響はあまり無いと思われます。

しかし、冗談ではなく、毎年「LHCは来年始まります」と言わなくてはならないようになりそうで、恐ろしいです。TevatronのRun2でなかなかルミノシティが上がらないことを非関係者が揶揄していましたが、Tevatronはルミノシティが低くてもビームが出て、かつ衝突させていただけLHCよりもだいぶマシだったのかと最近思い始めています。


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Biased Analysis

今朝は学内の健康診断のため、理学部のあるキャンパスとは別のキャンパスへ行って来ました。朝飯を抜いていたので、Tくんの大好きなカレーパンを今食べてホッと一息ついているところです。

健康診断は、尿検査、視力検査、身長体重ウェストの測定、血圧測定、胸部レントゲン、問診、採血、というごく普通のメニューでした。採血では試験管を取り替えながら3本分も採るので、3本目に変えたときに「無茶苦茶大量に血を採るんですね」と軽口をたたいたところ、採血していた優しいおねーさんからは「多そうに見えますけど大さじ一杯分くらいしかないんですよ」とちょっと驚きの答えをもらってしまいました。いやー、どう見てもヤクルト一本分くらいには見えます。とさらに返しましたが、あの試験管って実は無茶苦茶細いんですね。

そういえば血圧測定では、実験屋としてはひっかかる出来事がありました。機械で自動的に測定するわけですが、1回目はかなり高い値になってしまったんですね。そしたら、もう一回やってみてくれというわけです。で2回目は正常値。そしたらその2回目の値を記録してはい終わり。いや、自分的にはとにかく早く終わらせたかったし、血圧の心配もしてないので何も言いませんでしたが、あまりに典型的なbiased analysisだったので、心の中で大笑いしてしまいました。さいころを振ってその結果を全て記録すれば、そのさいころがいかさま用のさいころ(ある数字が出やすいとか出にくいさいころ)かどうかわかります。けど、ある値が出たときだけ記録として残せば、どんなさいころでもいかさま用さいころとして認定されてしまいます。

ちょっと前に書いた感染者数問題を思い出しますが、大多数が問題ないはず(=真に感染してる人が少ない場合、あるいは本当に血圧の高い人は少ない母集団)という場合には、検査で1回クロになっても、その検査結果が間違っている確率が高いので、1回目の測定で正常値を越えていた場合、もう1回やってみてそれで問題なければよし、とするのは結果的には正しいのかもしれませんが(今回もきっとそうだと思います)、実験屋としては、1回目クロ、2回目シロ、という結果になったら、せめてもう一回検査したくなってしまいます。やはり、職業病なんでしょうかね。


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博士論文審査に関する笑える話

今日の物理学専攻の会議は長くてしんどかったのですが、一つ面白い話があったので忘れないうちに書いておきます。

博士(修士)論文の学位審査に関する指針を定めよ、という上からのお触れがあってそれについて議論しました。もちろん、大学の指針、理学部の指針、物理学専攻の指針と元々あったわけですが(それら全てのANDになっていないとなりません)、この話のポイントは「学生から金品を受け取ってはならない」という文言を入れるよう文科省から強く要求されているという点です。審査委員は教授あるいは准教授が何人必要とか、そういう規定が書かれてる所に並んで、学生から賄賂をもらってはならない、と書けというわけですが…いくらなんでもカッコ悪過ぎですよね。というか、そんな規定があったらギャグですよね。公聴会では私語はダメとか、出歩いてはならないとか、廊下を走ってはダメとか、なんか色んなこと書かないとならなくなりそうです。

笑い話として書いていますが、本当の話で、お役人さんの相当偉い人が真剣に全国の大学に指導しているらしいです。ちょっと前に北大でD論の審査をする教授(?)に金品を送っていたということに腹を立てて思いついたらしいのですが、いくらなんでもそんな稚拙な内容を審査指針に盛り込ませようとするって、そのお偉いさんのことが逆に心配になってしまいます。


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半導体検出器

一昨日に引き続き、M1の学生を中心とした人々に半導体検出器の話を今朝しました。

半導体検出器と言っても実用化されて世間で使われているのはほとんどシリコンで、私たち素粒子実験の世界でもシリコン検出器は最早不可欠な検出器の一つになっています。何のために使われているかというと、荷電粒子の飛跡を精度よく測定するためです。磁場をかけておけば、その極率から運動量を求めることができますし、陽子・陽子衝突地点を正確に求めることができたり、などなどご利益が山ほどあるため、現代のコライダー実験ではシリコン検出器なしの実験というのは見当たりません。それくらい私たちにとっては身近な検出器で、今も色々なタイプの新型シリコン検出器の開発が世界各国で行われています。私がATLAS実験以外でやっているSOIというのも、そういう新しい検出器開発の一つです。

とまあ、私たちには馴染みの深かったシリコン検出器ですが(ちなみに1980年代から高エネルギー実験では使われていました)、最近はデジカメ(やムービー)の普及で、実は一般の人も普通にシリコン検出器を使っています。私たちが実験で対象とする光子のエネルギー領域では光子がシリコンと反応する確率はそれほど高くないのですが、可視光領域のエネルギーだと非常に高い確率で可視光はシリコンと反応します。高校生くらいのときに習ったかもしれませんが、光電効果というやつですね。ある閾値を越えたエネルギーの光が物質に入射すると電気が流れるという、あれです。デジカメ等に使われているCMOSセンサーやらCCDというのは、この光電効果を利用してるわけです。

ちなみに、今世間で流行(?)の太陽光発電も同じ原理です。太陽光により光電効果で光を電気信号に変えるわけです。さらについでに言うと、LEDの場合、シリコンに電圧をかけること(無茶苦茶いい加減な表現です…)でシリコン原子中の電子が低いエネルギー準位に落ちるようになり、エネルギーが低いとこに行くわけですから余分なエネルギーが発生し、その余分なエネルギーが光となる、という現象を利用しています。光エネルギーを電気エネルギーにするか、電気エネルギーを光エネルギーにするか、という意味では、シリコンを使った光検出器や太陽光発電とLEDは表裏一体の関係になってます。

計算機に使われているCPUやらメモリーやらもシリコンですし、デジカメもLEDもシリコン。ということで、私たちの身の回りにはシリコン製品、シリコンの物理的特性を生かした製品が溢れかえっています。シリコンなしには現代文明は成り立ちませんね。

ところで、LHCにはATLAS実験以外に3つ実験(検出器)がありまして、そのうち2つはATLASとは違う物理を狙った実験で、もう一つCMSというのがATLAS同様ヒッグスやSUSYを探索する高エネルギー実験装置です。このCMSというのはシリコン検出器を大量に使っていて、いや、ATLASもそれなりに大量ですが、彼らのシリコンセンサー部分の面積は200平方メートルを越えるそうです。15m四方のシリコンセンサーって、強烈ですね。


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外国で床屋

今日は研究室内のATLASグループのミーティングだったのですが、CERNに長期滞在していたD1の学生が先週末に大学に戻って来ているので、前回、前々回に比べてちょっとにぎやかでした。今はメンバーのうち、研究員ともう1人のD1がCERN滞在中で、大学にいるのが5人ということになります。

で、ふと気づくと、先週末に帰って来た学生の髪の毛が散髪されていました。たぶん月曜にはすでに散髪してあったと思うのですが、帰国した日に会った時は髪の毛ぼさぼさでした。というのも、私も経験があるのでよくわかるのですが、外国だと床屋(美容院?)に非常に入りづらいです。アメリカにいたときはまだしも、スイス、あるいはフランスだと言葉が通じないので、どうしたものかと相当躊躇してしまいます。レストランなら気合いで何とかなりますが、散髪は微妙ですよね。って、まあ、私の場合はマイバリカンを持っているので散髪に行く必要はないんですけど。ははは。

ところで、D1の学生が一時帰国しているのはフランス滞在のビザを取るためです。正確には滞在許可証が必要で、その滞在許可証を取るためにはビザを持っていないとなりません。スイス側だとビザなしでも滞在許可証を作れるのですが、フランスはちと面倒です。都合、最低でも2回は大使館まで自ら行かないとなりません。かくいう私もかなり面倒な思いをしてビザを取りました。

そういえば、ビザなしでも滞在許可証を出してくれるのスイスは凄く珍しいのかと思っていましたが、そうでもないんですね。ドイツもビザなしでいきなり滞在許可証を発行してくれるようですし、アメリカではビザが必要だからどの国でも必要という固定観念が出来上がっていましたが、そうではないのかもしれませんね。


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身動きのとれない1日

今日は朝から先ほどまでぎっちりと予定が詰まっていて、全く身動きのとれない一日でした。

午前中は研究室のミーティング。午後は、研究室の学生相手にシリコン半導体検出器の簡単なレクチャー、ATLAS関係の短いミーティング、放射線関連の安全講習みたいなものに研究室を代表して参加(定例の放射線講習よりも退屈でした。必要な情報を伝えるには15分もあれば十分な内容だったと思うのですが…)、4年生とのゼミ、ATLASをやっているTくん、Oくんとそれぞれ個別に研究に関する打ち合わせ、と本当に盛りだくさんの一日でした。

あまりにも盛りだくさんで、ブログネタを全く思いつきませんでした。ということで、今日は短いですがこれで終わりです。


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スプリンクラーの動く向き

素粒子物理の話ではないのですが、ファインマンの本(有名なやつではありません)を読んでいて気になっていたことがあります。単純なS字状のスプリンクラーを水中に沈めて、通常とは逆に、水を送り出すのではなくポンプで水を吸引するとどっち向きに回転するか、という問題です。その本は伝記みたいなもので、彼がどっかの大学だか研究所にいたときに、研究者仲間と議論になって盛り上がったという記述があったんですね。で、熱い議論になったというくだりはあるのですが、結局どっち向き(あるいは動かない)が正しいのか本には書いてありませんでしたし、議論がどういう決着を見たかも書いてありませんでした。

たまたま思いついたので、先週、研究室のメンバーで昼飯を食べに行ったとき、この話をしたら、やっぱり議論は白熱したのですが、結局、ファインマンの本と同様、結論は得られませんでした。管の中の圧力を考える人、角運動量を考える人、流体力学(をマスターしてるわけではありませんが)を考えようとする人、などなど、色んな説は出るのですが、決定版がありませんでした。私自身は管内の圧力、というか、単純な力学的な発想で、地上で普通に水を送り出す時と同じ方向に回るのではないかと思っているのですが、まあ、自信はありません。

最終的には、管の先、水の吹き出し口の形状が結構問題になったりするのではないか、それによって動かない場合もあれば、動く向きも変わるのではないか、つまりは流体力学の効果のほうが単純な力学的な効果よりも大きいのではないか、という意見がわずかに優勢でしたが、最終的に一致した意見は実験屋らしく「実験をやれないか」というものでした。どうやれば簡単に実験をやれるのではないか、ということにまで話が及ぶあたりはちょっと病気ですね…。ははは。

しかし、どっちに回るんでしょうね。


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研究会2日目

今日は名古屋での研究会2日目。と言っても、研究会は昼過ぎに終わり、飯を食べて今帰ってきました。それぞれの発表内容はともかく、参加した学生にとってはいい刺激になったようで、企画としては成功だったという印象を持ちました。

CERNに滞在している博士課程の学生も言っているように、大学にいるのと実験をやっている研究所にいるのとでは臨場感が全然違いますし、同じ研究会にしても、テレビ会議と実際に一同に会しての会議では、学生に与える刺激に大きな違いがあるようです。特に、会議以外のときに、普段会話することの無い他大学の学生と話をすることが学生にとっては有意義なようです。研究内容が微妙に違うので見識が広まりますし、わからないことを質問するのもスタッフにするより同年代の学生にするほうがしやすいんでしょうね。

あと、普段自分が抱えている悩みだったり、将来へ対するぼんやりとした不安とか、そういうものを学生同士は共有できるので、そういうことを色んな学生と話すのも学生にとっては意味あることなのかな、と思います。同じような悩みを抱えているのが自分だけではないということを再認識できることは、精神衛生上大切なのではないかと。

多くの学生さんのモチベーションが上がったようで、有意義な研究会でした。


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研究会

名古屋大学と神戸大学のATLASグループの人たちと毎月研究会をしています。普段はテレビ会議でのミーティングなのですが、たまには全員(CERNに滞在してる人は無理ですが)が顔を合わせようということで、今日と明日は名古屋大学でミーティングをしています。テレビ会議は便利なのですが、やはり深い議論をするには顔を合わせるのが一番です。ちなみに、過去にも神戸と大阪で一回ずつ、今回のように一同に会してのミーティングをやったことがあって、今回の名古屋で全ての大学を訪れたことになります。

というわけで、今日の午後はまるまるミーティング。それが今終わって、これからはお楽しみタイム(?)。みんなで飲みに出かけます。実は、私は名古屋に来るのが初めてなので(もちろん、新幹線などで通過したことは無数にありますが)、名古屋がどんな街なのか見るのが非常に楽しみです。あと、色々ある名古屋名物の食べ物も。


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LHC関連の話

昨日に引き続いてLHC関連の話です。

LHCは故障があると修理に時間がかかります。特に何に時間がかかるかというと、修理や点検以外に、超伝導電磁石が陽子を曲げるために使われているため、温度を上げたり下げたりするのに非常に時間を費やします。1周27kmのリングを8等分して、各セクターごとに温度の上げ下げをするのですが、1つのセクターの温度の上げ下げだけでオーダー1ヶ月かかってしまいます。

しかも、今回のシャットダウンのように全周の点検やら修理をやろうとするとき問題になるのが、ヘリウムの保管場所です。超伝導電磁石の温度を上げるということは冷却のための液体ヘリウムをどこかに移動させなければなりません。ところが、1つや2つ(?)のセクター分のヘリウムは貯蔵する場所があるのですが、全てのセクターを冷やすために使われていたヘリウムを同時に貯蔵する場所がないんだそうです。このため、全てのセクターの温度を同時に上げて、その後並行して点検修理、そしてまたヘリウムを元に戻して電磁石を冷やす、ということができないのだそうです…。だから、いくつかのセクターごとに作業をしてるんですね。ということを、この前のなんちゃら小委員会のときに教えてもらいました。

いやー、やっぱり、27kmに渡って3K以下の温度を保つというのは尋常ではありませんね。そうそう、前にも書いたかもしれませんが、(陽)電子を使ったコライダー実験では、電子を加速するための加速空洞というものが多くの電力を消費します。が、LHCは巨大ですが、陽子を加速させにはそんなに電力が必要ではないので、LHCの運転でかかる電気代の多くは超伝導磁石を冷やすためのヘリウム(と窒素)を冷却するための電気代です。


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LHC再開シナリオ

このブログを見てる人の中には、LHCがいつ、どういう形(エネルギー)で再開されるのか気になってるかたが多いと思います。私自身も当然のことながら非常に気になっています。ちょっと前に色んな噂が流れているというエントリーを書きましたが、今日は現状での可能性、シナリオを3つ紹介します。今週ATLASのcollaboration meetingをやっていまして、そのときのスポークスパーソンのトークから得た情報です。

この問題の鍵はビームエネルギーをどこまで上げられるか、です。現状では5TeV出すためには加速器(bending magnetという陽子を曲げて周回されるための超伝導磁石)の性能が十分でない、というのがこの問題の根本です。

シナリオ(1)
今までのオフィシャルプランを変更しない。10月末からビームを出して11月くらいから5+5TeVで衝突。1年くらい走って200(100?)pb^-1の統計量を貯める。

シナリオ(2)
実験開始時期はシナリオ(1)と同じ。ただしビームのエネルギーは5TeVではなく、4TeVかそれ以下。1ヶ月か2ヶ月か3ヶ月か、とにかく短い期間そのエネルギーで走ってシャットダウン。シャットダウンの間に、ビームエネルギー5TeVでの運転に対する信頼度が上がるまで加速器を調整する。2010年の後半に5TeVでの運転を開始。ただし、再開からシャットダウンまでの間にどれくらいの期間データ収集を行うかは安定して運転できるビームエネルギーに依存します。というのも、3+3TeVで短期間収集したデータでは、Higgsはおろか、top quark生成などの物理でもTevatronの結果を上回ることができません。なので、3TeV以下の場合は本当にエンジニアリングラン(物理結果を出そうとするのではなく、加速器・検出器双方の運転の練習)で、非常に短期の運転の後シャットダウンになることが予想されます。逆に3TeV以上の場合はそれなりの期間(2、3ヶ月?)運転することが予想されています。

シナリオ(3)
実験開始を2010年の3月くらいまで遅らせて、5TeVでの安全運転が可能になるべく加速器を調整する。

シナリオ(1)は提示はされていましたが、(2)や(3)が議論されているという時点で、もうこのオプションはないとほとんどの人が思っています。で、(2)になるか(3)になるかですが、実験側としては(2)を希望しているようです。何年も開始が遅れ、博士課程に在籍中の学生が数百人(スポークスパーソンのトークによると800人?)もいるので、たとえちょろっとでもビームを早く出して、彼らに物理解析をさせたいという強い要望があります。博士課程の学生だけでなく、常勤ではないポスドクの人たちにも同じことが言えます。

いや、本当にどうなるのか、実験をやってる私たちにもわかりません。加速器屋さんに頑張ってもらうしかないのですが、CERNの評判も最近は急降下中です…。CERNの加速器屋さんというのはそれなりのクレジットがあったのですが。


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ちょっと宣伝

宣伝しようと思っていても忘れそうなので、おもいついた今書いておきます。

7月16日(木)と28日(火)にサイエンスカフェが物理と数学専攻の共催で開催されます。場所は中之島、時間は両日ともに18:30開始です。

もう一つは、少し前にも書きましたが、Saturday Afternoon Physicsという基本的に高校生を対象としたプログラム。一般の方でも希望すれば参加可能です。10月から11月にかけて毎週土曜の午後、6回にわたるシリーズです。今募集中で、先着順ですので興味を持たれた方はお早めにご応募ください。


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電車の遅れとダイヤ調整

私はモノレールを使って通勤をしているのですが、今朝は蛍池という駅でトラブルがあったために全線ダイヤが乱れまくって、20分ほど駅で待たされてしまいました。かつ、当然のことながら駅が人で溢れかえってしまったために、人が乗り降りするのに通常より時間がかかり、かつ駅を出るにも時間がかかり、トータルでは30分近くいつもより時間がかかってしまいました。通常だとdoor to doorで20分強しかかからないので、30分近い遅れというのは私の通勤時間のスケールでは莫大な遅れです。

でもまあ、私の場合、1限に授業があるわけでも、大事な委員会があるわけでもなかったので(そもそも30分遅れでも1限には間に合う時間に今朝は家を出ていますが)、別に問題はなかったのですが、モノレールというのは大阪空港へ行く人がそこそこ利用しているので、そういう人たちに影響はなかったのかと、余計な心配をしました。私の場合、国内線だとかなりぎりぎりの時間に空港に行くので、今日くらい遅れてしまうとほぼアウトです。

それにしても、私の家の最寄りの駅の対応は非常に悪かったです。20分も電車が来ないのに一言もアナウンスがありませんでした。私の場合、5分待ってもモノレールが来なかった時点で駅員のところに(ホームには駅員がいないので、駅員室までわざわざ行かないとならない)どうなっているのか質問しに行きましたが、ホームに溢れていた人たちは理由もわからずただ待っていたんでしょうかね。飛行機だと色んな理由で色々な場所でよく待たされます。その時も、理由わからずぼーっと待たされるより、なんで遅れているのか説明してもらったほうがずっと精神衛生上いいと思うのですが、全然理由を説明してくれないことがあります。飛行機だと席を立つわけにもいかないので余計にたちが悪いです。いずれにせよ、交通機関に遅れが出たら、理由はすぐにアナウンスして欲しいものです。じゃないと、どれくらい待たされるのか想像がつかないので、回避する方法(あるいはそのまま待つか)を考えられません。

ところで、今朝の遅れた電車に乗っていた思い出したのですが、例えば山手線のように人が絶え間なく乗るような過密ダイヤの路線で、特定の電車が遅れた場合(事故などによる大幅な遅れではなく、数分の遅れ)、その電車よりも前を走っている電車(たち)をわざと遅らせるのだそうです。電車が遅れると当然のことながらその電車に乗る人が増えてしまいます。その結果、人の乗り降りにかかる時間が通常よりも増えて、その電車はますます遅れます。するとその電車に乗る人はさらに増え…といった具合にpositive feedbackがかかってずるずると遅れが増えていってしまいます。すると、その遅れた電車以降の電車は全部大幅に遅れてしまうわけです。そうならないように、遅れてしまった電車に人が集中するのを防ぐべく、一本あるいはそれ以上前を走っている電車をあえて遅らせて運行するのだそうです。
…非常に単純な話なのですが、この話を知った時は、そういう調整を思いついた人の賢さに感心しました。


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アクシオン

素粒子物理学上の大きな謎の一つに、「強いCP問題」というのがあります。ヒッグスとか、SUSYとか、ダークマターとか、等々に比べて地味かもしれませんが、多くの(?)素粒子物理学者が気にしている問題の一つです。

CPが弱い相互作用で破れていることが発見されて以来、長い間CP非保存の研究は弱い相互作用を使って研究されてきました。逆に、CPの破れは弱い相互作用でしか観測されていなくて、中性子の電気双極子モーメントに関してゼロでない有限値が観測されていないことから、強い相互作用ではCPが保存されている(あるいは、CPの破れの大きさは非常に小さい)と考えられています。ところが、強い相互作用を記述する理論体系ではCPを保存する必然性がありません。2つの独立な効果が偶然キャンセルしあうことでCPを保存することになっているのですが、独立な効果が無茶苦茶高い精度でキャンセルするというのはあまりにも不自然(=これを強いCP問題と言います)で、何らかの理由があるだろう、と物理学者は考えているわけです。

ヒッグスが存在したとき、量子効果から真空が不安定になってしまう。全くの偶然で安定になるのは不自然だ。SUSYが存在すれば真空を安定にできる、というのがSUSYを導入する動機の一つでしたが、それに似ていますね。物理学者は、独立な現象2つ(以上)が理由無く同じ大きさの効果を出すことに強く不自然さを感じてしまうのです。

強いCP問題を解決するために導入されたのがアクシオンと呼ばれる粒子です。ヒッグスはヒッグス場というスカラー場が自発的に対称性を破った結果生じる実粒子なわけですが、アクシオンはカイラル対称性が自発的に破れた結果生じるゴールドストンボソンで、ヒッグスとの結合により有限の質量を持ちます。カイラル対称性を要求しているので、SU(3)、SU(2)xU(1)による相互作用で保存量(電荷など)が存在したように、カイラル対称性にもとづく保存量が存在することになりますが、フェルミオンがその保存量を持つかどうかはモデルに依存するようです。

強いCP問題とは独立に(?)実はアクシオンは注目されています。というのは、ダークマターの候補でもあるからです。最有力候補はSUSYが予言するSUSY粒子なのですが、アクシオンの可能性もまだ残されています。物質との相互作用が弱い相互作用程度なので、質量によってはダークマターの性質を満たします。強いCP問題もあって、アクシオン探索というのはそれなりに注目されている実験です。

アクシオンが注目されるもう一つの理由に、(アクシオンとは直接関係ないのですが)宇宙のバリオン数の非対称問題があります。宇宙には物質ばかりが存在して、反物質が存在しない、という有名な話関連です。アクシオンの理論的背景となる数学的な取り扱いによって、バリオン数非保存をうまく説明できるから、らしいのですが、私の守備範囲を超えているので説明はやめておきます。

なぜアクシオンの話をしたかと言うと、今朝の研究室のミーティングで学生の一人がアクシオン探索の論文紹介をしたからなのですが。私が持っている知識は今書いたことくらいで、この乏しい知識ではその論文を理解するのは到底不可能でした…。


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外部資金

この業界の最も有力な外部資金のソースは科研費と言われるものです。日本学術振興会(=学振と私たちは呼びます)という機関を経由する文科省管轄の財源です。私もその恩恵を受けていますが、それだけでは研究資金が全然足りないので(私たちの場合CERNへの出張費が大きいです)、科研費以外にも色々な競争的資金に応募しています。先日締め切りがあった助成金もその一つです。

それから、科研費とは別に海外出張の費用などを捻出するための助成金が学振、あるいは文科省に幾つかあるので、それらを活用してきました。一昨年度、昨年度ともに、そういった類いの助成金を獲得してCERNに長いこと滞在しました。今年度は大学の雑用を山ほど背負わされてしまっているのでほとんど出張(=研究)できず、そのためそういう助成金にも応募していませんでした。が、来年度はまた出張するぞ、と張り切ってとある助成金(特定国派遣という名称です)の公募が始まるのを待っていました。例年、今くらいの時期に公募が始まるので。

ところがっ!なんと今年はスイスへの特定国派遣が公募になっていません。他の国々は例年通りあるのに、スイスだけありません。うーむ…。

いったいどうしたのでしょう。他の国への派遣制度は例年通り公募しているので学振側の問題ではなく、おそらく提携機関であるスイスのNational Science Foundation(という名称だったような)のほうがこの制度を打ち切りにしたのではないかと思うのですが。これもまたサブプライムローン問題に端を発する経済危機の影響なのでしょうか。再来年度以降の復活を期待するとして、当面、来年度の出張費用をどうやって工面しようか、頭の痛いところです。


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博士課程学生の長期出張

高エネルギー物理の実験は規模が大きいので、ほとんどの実験は大学ではなくどこかの研究所で行われています。私たちのやっているLHC/ATLAS実験なんてその最たるもので、当然のことながら実験をバリバリやるためには実験を行っている研究所CERNに滞在しないとなりません。

私たちの研究所でATLASをやっている博士課程の学生は2人いて、今は2人ともCERNに長期出張中です。1人は4月中頃から滞在を始めていて、ビザを取得する都合で来週くらいに一旦帰国しますが、ビザをめでたく取れたあかつきには片道切符の長期出張ということになります。大学でぬくぬくと研究するほうが楽ですが、実際に実験をやっている現場にいないと実験の推進力になりませんし、教育効果の面でも教科書や論文を読むだけでは学べない色々なことを学べます。そういうわけで、この業界では博士課程になると実験現場に張り付いて研究を行うのが定番となっています。

もう1人の博士課程の学生はつい先日出発したばかりで、今回は基本的にCERN出張ですが、彼もまた8月末に一旦帰国した後、今度はドイツのフライブルグ大学というところに長期出張します。だいぶ前のエントリーに書きましたが、フライブルグ大学と共同研究を行うことになったので、実験現場のCERNに(日本よりははるかに)近いこともあり彼はそこに長期滞在することになりました。

さらに研究員も今週始めからCERN。ということで、大学に残っているのは修士の学生3人と私だけになり、かなり寂しくなりました。


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